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言葉にするよりも
しおりを挟む「倭へは、戦争をしに行くんだ。その為のお前達だ」
説明終えた黒が魔法を解除する。その瞬間を狙って、銃を手にしたナドレが黒へと向けて躊躇うことなく発砲する。
自分の頬を横切って、闇へと消えた弾丸を黒は見詰める。背後では、息を切らしながら銃口を構えたままなナドレ。
「戦争をする? それで、私達を騙してまで……この船を動かしたとでも言うのかッ!?」
「あぁ、戦争を起こすとは言え……今の俺は、非力だ。そこで、お前らのような《戦力》は貴重だ。セラも戦力として、申し分はないが……扱い方をミスると俺が死ぬ。だから、置いてきた」
「ふざけるなッ!! 私が、戦争を起こすと言っているお前を止めないとでと思ったか!?」
「だから、嘘を付いたんだよ。言ったろ? ――最悪、倭が滅びるって……結果が同じで、手段が違うだけだ」
これ以上刺激するなと、ローグが叫ぶ。だが、黒はナドレへと言葉を続ける。
その言葉が続けば続くほど、ナドレに怒りが込み上げてきた。
震える手は、いつしか失意からではなく。怒りからの震えと変わる。
拳銃に込められた銃弾8発が、黒の眉間へと放たれる。が、トゥーリとガゼルの2人がその銃弾を弾く。
「私は、狙いさえ聞ければ構いません。倭が戦火に沈もうとも……私達の目的は、あくまでも《イシュルワ》ですので」
「ナドレちゃんには、悪いけど……殺させねーよ?」
ナドレを、トゥーリとガゼルが睨む。
――だが、そこで予想外の男が黒へと襲い掛かる。
ナドレ、ロルトの側に着いたのはローグであった。
目を丸くするトゥーリとガゼルを前に、ローグの雰囲気が一変する。
黒が両サイドのトゥーリ、ガゼルの背中を蹴って前のめりに倒す。
その《倒れる》と言う動作が無ければ、ローグの放った一撃で3人まとめて薙ぎ払われていた。
漆黒の稲妻を纏った拳の一撃、黒の驚愕した表情とは裏腹に冷静なローグの動き――
前方を薙ぎ払った後に、空中へと身を投げ出した黒へと瞬時に肉薄する。
ローグの突き出した拳が黒色の稲妻を絶えず放ち続け、海面に黒を叩き付けた際に発生した水柱はミサイルでも落ちたとかと思うほどに強大――。
「橘……本気か?」
「お前こそ、本気か?」
互いに向かい合ってこそ、互いの真意を理解する。ローグとて、黒が本心を語らないのは訳があるのだと経験や黒の動きから薄々感じ取れた。
が、海面から顔を出した黒のその瞳を見て、その決意が頑ななのも分かってしまう。
「ちょうど、良いかもな……。実戦でこそ、感覚は研ぎ澄まされるモンだ。間違っても死ぬなよ?」
「座学で根を上げた分際で、でかい口を叩くな――」
海面を駆ける2人が、互いに交差する瞬間に数発程度の拳や蹴りを相手に浴びせる。
互いに互いの攻撃を相殺し、爪先だけで海面に浮上し続ける黒に僅かな疲れが見える。
船からの小さなライト程度では、完全に2人の姿は視認できない。
水面の僅かな波紋の揺らぎ1つで、黒とローグは相手の現在地を割り出していた。
(呼吸1つで、戦いが変わる……今のローグは、黒色を完全に使いこなしてはいない。勝機があるなら、そこだ――)
黒がローグの位置を捕捉し、攻撃へと動くよりも先にローグの掌底が黒の右脇腹を抉る。
不意に叩き込まれた掌底の威力は、簡単に黒を飛ばす。頭から真っ逆さまに水中へと落ちる黒に向けて、暗闇でも目視で確認可能なほどに高濃度な黒色の魔力が水面を貫き、そのまま黒の体を捉える。
全身を稲妻が通り抜け、内部から焼けるような痛みと魔力による過剰なダメージに襲われる。
漆黒の稲妻が全身に勘案には癒えない傷を与える。海の深くへと沈み、意識を取り戻した黒が空気を取り込むために海面へと飛び出す。
海面へと顔を出した黒を見下ろすローグの冷やかな視線に気付いて、黒の指先に魔力が集められる。
「お前が、何を恐れてるのかは知らない。だが、仮にも命を掛け合う仲間何だろ? 少しは、信用してやれよ」
「それが……できないから、嘘を付いてんだろ……」
「嘘を付いて、誰かが付いてくるのか? お前のその背中に、背負った物がどれほどの物かは知らない。だが、今を共に生きる奴らだけは――信用しろ」
ギリッ――怒りを噛み殺し、冷静さを保とうと息を吐く黒を見て、ローグが黒色の魔力を全身へと纏う。
「……扱い方ってのか? まだ甘いが、大分コツは掴んだ」
「あぁ、確かにな……が、無駄が多い」
黒の人差し指の先端に集められていた漆黒の魔力が、上空のローグを狙い撃つ。
寸前で身を翻す。黒の魔力砲を避けるローグだったが、一瞬の隙を黒に与えた。
瞬時に肉薄し、ローグの防御よりも速く。黒の人差し指が空間を一突きする。
張り裂ける空気の炸裂音と破裂音の混ざった轟音の後に、ローグの体から力が抜ける。
ゆっくりと倒れ、黒に凭れかかったローグは海面へと体を打ち付ける。
フッ――と、黒も体の力を抜いて海面へと体を打ち付ける。
しばらくし、仲良く海面へと息を吸うために顔を出す。
「……計画を説明するよりも、何も知らない方が良い時もあんだよ」
「……言葉にするよりも、関わらない方がマシってか? 解決になってねーぞ?」
ローグが水から顔を出しながら、同じく顔だけ出した黒が水温の低い海の中で溜息を溢した。
ローグと黒が、2人だけで話す。
答えを変えない黒に対して、呆れながらも黒の意志を尊重する。
そして、ナドレ、ロルトの2人の事は任せろと告げる。その意味は、黒には分からない。
ただ、黒の倭でする事は賛成出来た物ではない。
が、それしか方法が無いのかもしれない。そう、ローグは納得せざるを得ない。
誰が味方で、誰が敵なのかも分からない。
そんな状況で、秘密を話してその者達が信用できるのか――。一帯何を以てして判断すればいいのか黒ですら分からない。
ローグもそれは分かっているつもりであった。だからこそ、黒が自分に打ち明けた。
この話の重要性は、バカなローグでも分かる。だからこそ、黒に口を挟む事は出来ない。
だが、本当にコレが正しいのか――。未だに迷う黒が、天を仰ぐ。
「……倭に行けば、この答えが分かるのか? なぁ、教えてくれよ――相棒」
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