77 / 231
十王領域『倭』《Ⅰ》
しおりを挟む倭へと近付くに連れて、波が穏やかになる。だが、船内の空気は重い所の話ではなかった。
そんな空気に耐え兼ねてか、ナドレが部屋へと引きこもる。姉を心配して、ロルトは黒に頭を下げつつその場を後にする。
その際に、黒が尋ねる。
利用されると分かって、裏切られた気分か? ――と、だが、ロルトは首を横に振った。
「きっと、自分達じゃ想像も出来ない何かを背負っている。その為の嘘だったと――思ってます……失礼します」
部屋へと足早に向かうロルトの背中はどこか悲しげでありながらも、ナドレと違って前を向いていた。
操舵を任された艦長のアナウンスが聞こえ、甲板へと向かった黒の目に飛び込む景色は――懐かしいものであった。
「ずいぶんと、久しぶりだな。十王領域《倭》――」
海を隔てた四大陸のどの国や地域とも異なる肌を刺激する様々な――魔力。
長い年月を倭と共に過ごしたとも思われる樹齢数千年の樹木が密集している山々に囲まれた自然豊かな土地――
ローグ、トゥーリ、ガゼル、ナドレ、ロルトの魔力感知に様々な猛獣が反応する。
船がゆっくりと港へと向かう道中で、森の中からこちらを見詰める獰猛な獣の眼光が光る。
「……襲われたくはないな。ここで襲われたら、船と一緒にお陀仏決定だよな?」
「ローグ、このタイミングでそんな事言うなよ。ホントに襲ってきたら、どうするの?」
各々が構える。木々の隙間からこちらを見詰める獣達の気配に過敏になりながらも、港へと船はゆっくりと進む。
これほどまでに、自然豊かな土地で危険性の高い獰猛な獣達が生息しながら、港は森の直ぐ近くにあった。
一足先に船を降りていた黒が船の艦長や乗組員と挨拶を交わし、不機嫌そうなナドレが森に囲まれた倭の地へと降り立つ。
思い出が蘇る。自然豊かな土地で、共に過ごした学生時代――
そして、自分達の上の世代で活躍した黒達――王の世代の活躍を思い出す。
「なぁ、何で……あの猛獣共は、こっちに襲い掛からないんだ?」
「あぁ、それは――」
「それは、この《高周波魔獣抑制装置》のお陰よッ!」
ローグの質問に答えようとした黒の横から、一つにまとめた赤黒いポニーテールを揺らしながら、自慢気に答える女性の姿があった。
丸メガネに学者の代名詞的な白衣を羽織って、後ろの助手と思われる女性は大量の資料が納められたファイルを両手に抱えながら今にも泣きそうな顔で、黒から目線を反らし続ける。
「……違うだろ」
「いや、私の作った装置のおかげだ。異論は認めません!」
「十王の加護の影響だよ。適当言うな……バカが」
黒と女性が口論を始め、ローグやトゥーリが止めに入る。
そこで、2人は黒と彼女の魔力が似ている事に気付く。
そして、そんな2人の後ろからロルトが彼女の顔を見て、思わず声を上げた。
「茜ちゃん!?」
「あっ! ロルトくんだ。久しぶり~」
ロルトに向け、笑顔で手を振る彼女《橘茜》――
橘家の三女にして、世界最高峰と呼ばれる久我山塾の最年少塾生にして、天才的な頭脳の持ち主。
倭と帝国の防衛技術を確立させた。稀代の(自称)天才美少女――
「待ってたよ。黒兄――」
「あぁ、知ってた」
兄と妹の再会を祝福するかのように、森の魔獣が遠吠えをあげる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる