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十王領域『倭』《Ⅱ》
しおりを挟む帝国で消息を絶ってから、数ヶ月が経過していた。
しかし、妹の茜は兄である黒の心配など、微塵もしていなかった。
それどころか、消息不明となった事を忘れていたほどだ。
「ロルト、茜さんだったけ? 知り合いなのね」
「まぁ、養成所で同じクラスに割り当てられたんだ。まぁ、茜ちゃんは、直ぐに飛び級して他の上級生クラスに移動しちゃったけどね」
「でもでも、私は覚えてるよ。ロルトくんの事――」
かつての級友との再会に、茜は嬉しさを全身で表現する。
何処と無く年相応の振る舞いに、上級生クラスでも立ち回った親しみやすさ。
彼女のコロコロと変化する感情と表情は、天真爛漫な愛らしい少女その者であった。
だが――そんな彼女であっても、内から感じる魔力は洗練されている。
体内に巡る魔力と、その魔力を用いた支援技術の高さは、さながら――神秘的な演舞を舞う《舞姫》のようであった。
ナドレとロルトは双子の為、養成所でのクラスは違えど同年代での話題には上がってくる。
その中で、茜やその姉碧に関連する話題は非常に多い――
それ所か、茜や碧の兄である黒の話題など、噂程度の小さな話題でも耳に入らない時などなかった。
「だから、私は心底――悔しかったのかもしれないわ」
「そうなんだ。でも、黒兄が嘘を付くって事は――意味がある筈だよ」
「茜さんは、どうしてそう思うの? 兄妹だから?」
「ううん、きっと違うよ――」
その場から立ち上がった茜が、手を後ろ手に組んで満面の笑みを見せて微笑む。
「黒兄は、この世界で1番の皇帝だから――」
―――倭へと到着した黒を出迎えたのは、帝国で別れた妹との碧や橘家当主の橘梓――
梓の従者である。橘藤乃、橘文乃など、数多くの橘一族の竜人が集まっていた。
それも全て、梓の指示で集められて危険を承知で帝国から倭へと向かったのであった。
「この人数を一片に動かしたら、流石に四大陸の国が動くだろ?」
「いや、動きはなかった。あったと言えば、監視の目が一瞬だけ消えて、その後の監視が消えた事だな。もしかしたら、四大陸のどこかで戦争でも起きているのだと思っていた――が、黒なのだろ?」
「……ノーコメントだ。俺からは、何も言えないな」
「その返事は、言っているようなものだ……。それで、これからどうする気だ?」
梓の質問に、黒が笑って答える。
「先ずは、メリアナの所に顔を出す。詳しい話は、その後だ」
港で船を見送りながら、梓と黒は並んで帝国の状況や倭の現在の状況を擦り合わせる。
彼女に会う事で、黒はこの国での目的の1つを達成する。十王領域と呼ばれる倭で、最も強いと称される皇帝――
倭との守護者達が集う騎士団――円卓の聖騎士団を束ねる彼女に会うのは、そう難しくはない。久方ぶりの友人が友人宅へとの訪ねるのと同じ程度。
しかし、それこそが梓達が黒を倭に、彼女に合わせたくはない理由でもある。
「……殺されるぞ?」
「大丈夫だって、メリアナの所に行くだけだぞ?」
「だからだ。お前は、自分の意思でなくとも――倭を見捨てている。メリアナ殿が許していても、その配下の聖騎士団がお前を許していない……」
「あぁ、かもな。でも、行くんだよ……もう、決めたんだよ」
梓はそれ以上、何も言わない。藤乃、文乃の2人が黒の前に立つ。
涙を堪えながらも一言も交わさない2人を見て、黒は2人の肩に軽く触れる。
碧が心配そうな表情を浮かべながらも、黒は少し微笑む。
多くの竜人が黒を見送る。ローグ、ガゼル、トゥーリが橘の竜人に「この先は、黒様1人です」――と、止められる。
ただ、倭の首都へと向かう道なのに、そこが地獄へと続く道に一瞬だけ見えたのは――目の錯覚ではない。
確実に、黒は運命の分岐点に立っている。
――破滅か、前進か。
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