難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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円卓の聖騎士《Ⅱ》

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 倒れたルークの胸ぐらを掴んだ黒が、邪魔だと言わんばかりにルークを投げる。
 静まり返った城内で、血を吐き出しながら立ち上がったルークだけが吠えた。
 黒の一撃で、ルークは負けた。が、フラフラと立ち上がって、黒に再び挑む。
 声を挙げながら、理解の出来ない言葉を発する。全身はボロボロで今にも倒れそう。
 しかし、ルークは黒の足に噛み付いてでも負けは認めない。
 それは、絶対的な忠誠心から来ていた。
 現在の倭で、騎士の最高位に座している――メリアナを守る鋼の盾。それが、自分だと言い聞かせた。

 「……お前が、捨てた倭は……もはやかつての姿は消えた。だが、姫様だけは違った。たった1人でも、異形が弱者を蹂躙する様を……姫様は決して許さなかった」

 再び剣を黒へと向ける。その覚悟を決めた男の眼光を前に、黒も覚悟を決める。

 「お前は、保身の為に倭を捨てた!! だが、姫様だけは、1人でも戦った!! 体を壊して、命を削ってでもだ。なぜ、姫様何だ。なぜ、姫様だけが――苦しまなければならなかった!!」
 「それで……? 大切な姫様が傷付いている間、俺が平和に過ごしているのが許せないか?」
 「――当たり前だッ!!」

 ルークが踏み込む。黒へと間合いを詰め、横薙ぎに剣を振る。
    しかし、ルークの剣を黒は片手で止める。
 圧倒的な力の差という物を思い知らされた。そして、その力があれば――メリアナが傷付く事も無かったという事実を突き付けられる。

 「……なぜ、倭を見捨てた」
 「それが、アイツ・・・の覚悟だったからだ――」

 意識を手放したルークが地面へと倒れ、ルークの最後まで握り締めていた柄に血が染み込んだ直剣を鞘に納める。
 そして、あの梓すらも一歩後ろへ後退するほどの強力な威圧を黒は放った。
 城の奥へと続く階段に集まって、行く手を妨害した騎士達に黒は――《恐怖》を思い出させる。

 「――退け」

 たった一言、その一言で騎士が道を譲る。黒の後に続いて、梓が階段を進む。
 その階には、ルークと似た地位に属する騎士が数名確認出来た。全身を西洋甲冑で包んで、各々が黒を見ている。
 しかし、誰も黒に目を合わせはしない。
 それほどまでに、黒の放っているオーラは殺伐としていた。

 「黒、この魔力――」
 「あぁ、メリアナだ」

 2人が奥の部屋へと到達する。ノックは不要だったのか、中から1人の女性が出てくる。
    2人の来訪を知っていたのか、扉を開けて2人を招き入れる。
 黒が、一歩部屋へと踏み込む。
 そこは、高濃度な魔力に満たされた水槽のようであった。全身を癒やす治癒性の高い高濃度な魔力が黒の減少傾向な魔力を少しずつ回復させる。
 梓もまたその部屋の異質さに驚かされる。だが、直ぐにその意味を知る事となる。

 「元気そうだな。――メリアナ」

 黒が奥のベッドで目を開けた女性へと声を掛ける。医者と思われる女性と聖騎士と思われる小柄な女性がメリアナの隣に寄り添っている。
    昨晩、ルークと黒の争いを1度だけ止めた聖騎士の女性が部屋に訪れた黒を睨む。
    彼女を含めて、この部屋に、聖騎士は2人――
    1人は敵意すら無いが、1人は行動によっては敵意を見せていた。
   しかし、そんな2人の敵意を見越してか、メリアナがゆっくりと手を挙げる。

   そこで、黒は初めて彼女の現状を知った。

 細い――。先ず、目に入る情報として、女性だから細い等という話ではなく。
 まるで、皮と骨だけの老人のような枝とほとんど変わらない腕を黒はそっと手に取る。
    手から伝わる情報だけで、黒は思わず目を背ける。だが、コレが――覚悟・・の代償

 寄り添っている医者から、彼女が言葉は発せられないとだけ聞かされる。
 喉、肺、全身の筋肉も衰えているどころの話ではない。人工呼吸器と心電図モニターがベッドの横に見える。
 その事からも、彼女の状態は良くない。いや、手に取った瞬間に魔力が黒の中を駆け抜けた。
 言葉を交わせないメリアナが、皇帝の中でも特に魔力に関する知識が豊富な黒にだけ伝わる方法で、意思疎通を試みた。

 「――あぁ、お前の所為じゃねーよ。……全部、任せろ」
 「……」
 「知ってる。だから、ここに来た。確かめるためにな……」
 「……」

 端から見れば、1人で話をしているを黒なのだが、ベッドの上でメリアナが――涙を流していた。
 医者、メリアナの配下の聖騎士2人が目を見開く。それは、徐々に衰弱していく彼女が、自分達に初めて見せた。

 ――弱々しい表情であった。

 『大丈夫だから、みんなはみんなの仕事をして』――そう言って、作った笑みを決して絶やさない。

    『ふふん、私も皇帝王様だよ? コレぐらい平気さ』――泣き叫びたいほどの痛みに耐えながら、彼女はいつも笑っていた。

 この2年、彼女は地獄の苦痛に耐えながら、この倭を守護し続けた。
 いつの日か、が来ると信じて――

 後は、俺に任せろ。そう一言告げて、黒は目を青く染める。
 事前にアンプルで魔力を増幅していたのは、きっとこの後聖騎士達に叩きのめされても生き残れる為だった筈だ。
 黒とて、このまま何もなかったと逃げるようなマネはしない。
    部屋の前に待ち構えた聖騎士全員と真っ向から戦って、1人残らず文句の無い様に返り討ちにする。
    その為の魔力を全て、この場で使い切る。
    ここまで辛い地獄を耐えた彼女に対して、黒が取れる唯一無二の償い。
    黒が最も得意とする力で、彼女の限界寸前な肉体を治療する。

    ――否、彼女が負ってしまった傷やダメージを《無かった》事にする。



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