83 / 231
円卓の聖騎士《Ⅱ》
しおりを挟む倒れたルークの胸ぐらを掴んだ黒が、邪魔だと言わんばかりにルークを投げる。
静まり返った城内で、血を吐き出しながら立ち上がったルークだけが吠えた。
黒の一撃で、ルークは負けた。が、フラフラと立ち上がって、黒に再び挑む。
声を挙げながら、理解の出来ない言葉を発する。全身はボロボロで今にも倒れそう。
しかし、ルークは黒の足に噛み付いてでも負けは認めない。
それは、絶対的な忠誠心から来ていた。
現在の倭で、騎士の最高位に座している――メリアナを守る鋼の盾。それが、自分だと言い聞かせた。
「……お前が、捨てた倭は……もはやかつての姿は消えた。だが、姫様だけは違った。たった1人でも、異形が弱者を蹂躙する様を……姫様は決して許さなかった」
再び剣を黒へと向ける。その覚悟を決めた男の眼光を前に、黒も覚悟を決める。
「お前は、保身の為に倭を捨てた!! だが、姫様だけは、1人でも戦った!! 体を壊して、命を削ってでもだ。なぜ、姫様何だ。なぜ、姫様だけが――苦しまなければならなかった!!」
「それで……? 大切な姫様が傷付いている間、俺が平和に過ごしているのが許せないか?」
「――当たり前だッ!!」
ルークが踏み込む。黒へと間合いを詰め、横薙ぎに剣を振る。
しかし、ルークの剣を黒は片手で止める。
圧倒的な力の差という物を思い知らされた。そして、その力があれば――メリアナが傷付く事も無かったという事実を突き付けられる。
「……なぜ、倭を見捨てた」
「それが、アイツの覚悟だったからだ――」
意識を手放したルークが地面へと倒れ、ルークの最後まで握り締めていた柄に血が染み込んだ直剣を鞘に納める。
そして、あの梓すらも一歩後ろへ後退するほどの強力な威圧を黒は放った。
城の奥へと続く階段に集まって、行く手を妨害した騎士達に黒は――《恐怖》を思い出させる。
「――退け」
たった一言、その一言で騎士が道を譲る。黒の後に続いて、梓が階段を進む。
その階には、ルークと似た地位に属する騎士が数名確認出来た。全身を西洋甲冑で包んで、各々が黒を見ている。
しかし、誰も黒に目を合わせはしない。
それほどまでに、黒の放っているオーラは殺伐としていた。
「黒、この魔力――」
「あぁ、メリアナだ」
2人が奥の部屋へと到達する。ノックは不要だったのか、中から1人の女性が出てくる。
2人の来訪を知っていたのか、扉を開けて2人を招き入れる。
黒が、一歩部屋へと踏み込む。
そこは、高濃度な魔力に満たされた水槽のようであった。全身を癒やす治癒性の高い高濃度な魔力が黒の減少傾向な魔力を少しずつ回復させる。
梓もまたその部屋の異質さに驚かされる。だが、直ぐにその意味を知る事となる。
「元気そうだな。――メリアナ」
黒が奥のベッドで目を開けた女性へと声を掛ける。医者と思われる女性と聖騎士と思われる小柄な女性がメリアナの隣に寄り添っている。
昨晩、ルークと黒の争いを1度だけ止めた聖騎士の女性が部屋に訪れた黒を睨む。
彼女を含めて、この部屋に、聖騎士は2人――
1人は敵意すら無いが、1人は行動によっては敵意を見せていた。
しかし、そんな2人の敵意を見越してか、メリアナがゆっくりと手を挙げる。
そこで、黒は初めて彼女の現状を知った。
細い――。先ず、目に入る情報として、女性だから細い等という話ではなく。
まるで、皮と骨だけの老人のような枝とほとんど変わらない腕を黒はそっと手に取る。
手から伝わる情報だけで、黒は思わず目を背ける。だが、コレが――覚悟の代償
寄り添っている医者から、彼女が言葉は発せられないとだけ聞かされる。
喉、肺、全身の筋肉も衰えているどころの話ではない。人工呼吸器と心電図モニターがベッドの横に見える。
その事からも、彼女の状態は良くない。いや、手に取った瞬間に魔力が黒の中を駆け抜けた。
言葉を交わせないメリアナが、皇帝の中でも特に魔力に関する知識が豊富な黒にだけ伝わる方法で、意思疎通を試みた。
「――あぁ、お前の所為じゃねーよ。……全部、任せろ」
「……」
「知ってる。だから、ここに来た。確かめるためにな……」
「……」
端から見れば、1人で話をしているを黒なのだが、ベッドの上でメリアナが――涙を流していた。
医者、メリアナの配下の聖騎士2人が目を見開く。それは、徐々に衰弱していく彼女が、自分達に初めて見せた。
――弱々しい表情であった。
『大丈夫だから、みんなはみんなの仕事をして』――そう言って、作った笑みを決して絶やさない。
『ふふん、私も皇帝だよ? コレぐらい平気さ』――泣き叫びたいほどの痛みに耐えながら、彼女はいつも笑っていた。
この2年、彼女は地獄の苦痛に耐えながら、この倭を守護し続けた。
いつの日か、彼が来ると信じて――
後は、俺に任せろ。そう一言告げて、黒は目を青く染める。
事前にアンプルで魔力を増幅していたのは、きっとこの後聖騎士達に叩きのめされても生き残れる為だった筈だ。
黒とて、このまま何もなかったと逃げるようなマネはしない。
部屋の前に待ち構えた聖騎士全員と真っ向から戦って、1人残らず文句の無い様に返り討ちにする。
その為の魔力を全て、この場で使い切る。
ここまで辛い地獄を耐えた彼女に対して、黒が取れる唯一無二の償い。
黒が最も得意とする力で、彼女の限界寸前な肉体を治療する。
――否、彼女が負ってしまった傷やダメージを《無かった》事にする。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる