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円卓の聖騎士《Ⅰ》
しおりを挟む花の広場を抜けて、2人は城へと向かう。
梓が、自分達の向かっている城の内外から感じる騎士の魔力の多さと剥き出しの敵意に冷や汗を流す。
(私だけなら、この場は……切り抜けれる。しかし、黒は不可能だ――)
敵に回った際の相手の多さに心臓が思わず跳ねる。心拍数が上がり自然と手に力が籠もる。
汗を滲ませ、ヒリヒリと伝わる緊張感とこちらに向けられる鋭い視線の多さ。自分達の置かれている状況を見て、黒に言葉を選ぶように釘を刺す。
「分かってる。心配しなくても、大丈夫だって――梓」
「黒、お前の大丈夫はあてにならん。相手を刺激する発言は避けるんたぞ?」
梓と並んで、使用人に案内された道を進む。巨人のような見上げるレベルの大きさでも通れる程に巨大な扉がゆっくりと開かれる。
その扉を抜け、豪華な装飾に加えて隅々まで行き届いた清掃のお陰か、城の内外問わず見惚れてしまうほどに美しい――
落ち着いた色合いの城内に、色鮮やかな花が生けられた花瓶が目に入る。
この城の主にして、円卓の聖騎士団を束ねる彼女は――花が好きだと分かる。
ホール内全体に響く靴の反響音で、妙な違和感に気付く。
梓の様子からも分かる通り、自分達の周囲には伏兵が潜んでいる。
が、魔力感知に引っ掛からない者達に梓は気付いていなかった。
(……やっぱり、殺しに来るよな)
一歩梓が進むのを待ってみた。横並びであった黒が消え、振り向いた梓の背中を黒は軽く押した。
目を見開いた梓よりも先に、ホール内に潜んでいた聖騎士団の伏兵が一斉に襲い掛かる。
黒の名を叫ぶ梓だったが、その目に飛び込む光景は瞬く間に伏兵を倒した黒の姿であった。
手から落ちた3つのアンプルが、その動きの正体――
一瞬にして急激に魔力を高めたと同時に、全身に魔力を巡らせる。
一瞬、たった一瞬とは言え、魔物を失う前の黒と同等な動きを再現した。
「……ふぅ、疲れた」
額から流れる汗を拭って、仕掛けて来ずに狼狽える騎士達へ青色の瞳で威嚇する。
剣を手から滑り落とした騎士の1人が、腰を抜かす。きっと、想像以上だったのだろう。
魔物を失った黒の実力が、予想よりも大きく異なっていた事に。
その証拠に、腰を抜かした騎士以外にも歯を食いしばって剣を構えつつもその剣先は小刻み震えていた。
どれほどの実力を持った騎士でも、その圧倒的な《恐怖》には勝てない。
例え、聖騎士団を支える。聖騎士であっても――
「全員、一歩後退せよ。コイツは、私が切る」
「梓、手出し無用だ。そんで、下がってろ」
「な……何を言って!」
黒の前へと再び現れたのは、ルーク・メセス。円卓に属する聖騎士の1人。
腰の鞘から、直剣を抜いて黒へと向ける。
「よく、来れたな。自分から殺されに来るとは……大バカだったようだな」
「んで、戯言は済んだか? 喋るよりも、さっさと手を動かせよ」
手招きして、黒はルークを挑発する。その言動に梓が頭を抱える。
「状況を理解しているのか? 魔物を失って、薬無しでは満足に戦えない。そんなお前が、私と対等に刃を交える事が、出来ると思っているのか?」
「あー、はいはい。黙って、掛かってこいよ。野郎と喋る時間はねーよ」
ルークが額に血管を浮き立たせる。そして、黒の望み通りに一歩踏み込む。
そして、手に持った剣を突き刺す。――が、ルークの手には剣の残骸だけがあった。
黒の服に掠りもしなずに、ルークは黒の拳によって沈む。
剣先から真っ直ぐに叩き込まれた黒の拳が、ルークの鎧を粉砕し体に深く突き刺さる。
空気が破裂する音が響き、その直後にルークは地面へと倒れる。
「勘違いすんなよ? 魔物がないから、勝てるとかじゃないんだよ。お前と俺、そもそもが立っている――領域が違うんだよ」
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