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四天と謳われ《Ⅲ》
しおりを挟む未来達が、結界へと飛ばされる数分前の出来事――
砂塵の中を1人歩く黒の目には、涙が溢れていた。
目の前が霞んでしまうが、確かに彼女の存在があった。
腕を伸ばして、その細い体を両腕で抱き締める。
確かな暖かさと優しい太陽のような匂いが、黒の脳内で思い出が鮮明に甦る。
大好きな人の太陽のようは温かさが、黒の心をより熱くさせる。
未来の手が黒の頬に触れる。黒の子供のように大泣きした顔を見て、未来は涙を滲ませながらも笑みを浮かべる。
そして――そっと、唇を交わす。
茜が目を覆って、碧が顔を赤く染める。
メリアナが2人の再会に思わず涙が溢れる。この瞬間を実現する為に、多く時間が掛かった。
口付け――。恋人同士での行為であれば、そう珍しくはない。
だが、黒と未来にとっては違う。本当の意味で、心の底から互いの熱を確かめ合う口付けはしていない。
時間が限られ、再び互いに離れてしまった。だが、もうその縛りは消えた。
好きな時に好きなだけ、互いを近くで感じられる。
「みんなの前だぞ……恥ずかしい…」
「ごめん……でも、黒ちゃんを感じたかったの――」
その言葉を聞いて、未来の唇に黒は唇をそっと重ねる。
未来の栗色の髪に触れ、彼女の中に残っているバハムートの魔力残滓を残らず回収する。
そして、誰にも気付かれずに八雲で未来を背後から狙っていたトレファを――黒は、威圧1つで黙らせた。
動きを止めたトレファを視界に捉えながら、碧、茜、メリアナと未来を魔法で合図を送った白の元へと飛ばす。
その去り際に、未来に「また、後で――」と、言葉を残して瞬間移動させる。
次の瞬間、空気が変わる――
張り詰めた空気が肌を斬り付ける。否、この場の空気その物が重く伸し掛かる。
そう、トレファは錯覚する。異常な魔力、異常な威圧――
立っているその場所だけが地震にあっているかのような感覚がトレファを襲う。
呼吸が出来ない、手足の震えが収まらない。
悪寒とはまた違った言葉に出来ない感覚が、全身に深く突き刺さる様にトレファに襲い掛かる。
――黒が、一歩進む。
異形が阻むように、黒の前へと立ちはだかる。
しかし、黒は一切見向きもしない。
まるで、その存在を敵と判断していないかのように――
振り上げた大型の大振りな腕にすら、黒は視線を動かす事はない。
地面を叩き、地割れと共に海水が噴き出す。
崩れた地面の下に存在した海水が衝撃で、噴き上がり空へと逃げたトレファが降り注ぐ海水を頭から被る。
大型、中型、小型、特異型異形種を総動員して、目の前の黒を潰すのに戦力を投下する。
――が、足りない。
大型、中型、小型がその体をバラバラに爆発させ、肉片が爆散する。
飛行型の背に隠れ、高度を上げたトレファの目の前に――黒が立っていた。
音もなく、気配もなく、魔力の微小な揺らぎ1つ作らずに、一瞬で高高度へと逃げたトレファへと肉薄した。
翔のような速さの次元ではない。速い遅いなどの速度では測れない。
気付けば、目の前に居たのだから―
「流石は……皇帝だ…」
「……歯を、食いしばれ」
「なにを言って――ッ!?!?」
トレファの視界が反転する。正確には、黒の拳によってトレファの体が勢い良く――回っていた。
飛行型がその勢いで消し飛ばされ、空へと舞い上がったトレファの頭を掴んだ黒が――その怒りを露にする
一撃の威力は、ケタ違い。そもそも、それら攻撃には魔力による稲妻が発生していない。
つまり、単なる身体強化1つで、トレファの肉体に、計り知れないダメージを刻み付けるのであった。
「……ま、待って――」
言葉が聞こえる。だが、黒は容赦無く拳を振り抜いた。
そして、ようやく1回目の稲妻が天地に鳴り響く。
大気中に迸る漆黒の稲妻が、空気を揺らし、湿った地面や大気中の水分を蒸発させる。
全身を内側から焼かれ、口から煙を上げる。そんなトレファの首を掴んで、無理矢理意識を覚まさせる。
目の前で、漆黒の魔力が渦巻く。そんな中で、蒼い眼光が自分を睨む。
目尻から走る青色の稲妻が、漆黒の魔力に覆われたその者の不気味さをより引き立てる。
恐怖――。トレファの認識は、その一言で集結する。
もはや、この者の底しれない力に、恐怖という感情しか湧かない。
それ所か、黒の《恐怖》に細胞が支配され始める。震える手足、ガタガタと音を奏でる歯――
「どうした? まだ、俺は――本気じゃないぞ」
黒の眼が、青と赤の2つの性質に交互にゆっくりと切り替わる。
そして、更にその先の領域へと、黒は到達した。
「さぁ、始めようか……本当の戦いを――」
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