難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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2人は、最高位《Ⅱ》

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 倭を守る結界の内側へと瞬間移動させられた未来みらい達が、大勢の前に姿を現す。
 当然、突然の出現に多くの者達が驚き動きを止める。だが、直ぐにしろが脇目を振らず走り出した。
 そして、碧、茜の2人を全力で抱き締める。

 「――ケガはない?」

 目を丸くする碧、茜の2人だったが、直ぐに大粒の涙を滲ませる。
 姉との再会を待ち望んだ。たった一人の姉であって、黒と瓜二つの顔に兄以上の優しさと温もりを持っている彼女――橘白たちばな しろ2人碧と茜は力強く抱き締める。

 「「お姉ちゃん――」」
 「2年ぶりね……元気そう。それに、2年前よりもずっと可愛くなってる」

 大粒の涙を流し、みどりあかねは大好きな姉の前で泣きじゃくる。
    ようやく会えた姉の温もりは、かつての物と同じであった。

 徐々に涙と共に溢れる姉との再会したと言う実感を前に、2人は子供のように大声で泣いた。
 人目など気にもせず、大好きな姉の胸の中で泣きじゃくる。
 白もまた2人の前で、涙を静かに流す。だが、彼女は直ぐに涙を拭って2人の元から離れる。

 「碧、茜……私達は、戦ってるの。黒が、未来や家族みんなの為に……だから、力を貸して――」

 白の言葉を聞いて、2人は直ぐに準備をする。
 梓から伝授された《結界術》の構築の為、手印、詠唱、方陣を利用した高度な結界を2人が築く。
 更にその上から、梓の支援で術式の硬度が更に跳ね上がる。

 「各師団長よ……その力を、今こそ示せッ!!」

 ――仰せのままに――

 十二師団長全員が、口を揃えて白へと跪く。
 全員の掌が地面に触れ、十二師団長の魔力が結界へと注がれる。
 メリアナ、梓、碧、茜、白、師団長による完璧な結界が構築される。
 端から見れば、その結界の硬度は凄まじい。にも関わらず、師団長や白の顔から汗が流れ落ちる。
 その理由を知らない多くの者達が、これから訪れるであろう《災厄》を前に唾を飲み込む。

 それから程なくして、メリアナが空を見上げて――叫ぶ。

 次の瞬間、いつの間にか天を覆い隠していた分厚い雲に穴が生まれ、その穴の隙間から《黒色の竜》が姿を現した。
 白、梓、師団長の面々が魔力に全力を注ぐ。
  ――そして、強烈な閃光の後に大地を揺るがすほどの轟音と共に押し寄せる爆風。
  漆黒に染まった高濃度な魔力によって、白と梓以外の結界が一瞬でバラバラに弾け飛ぶ。
 師団長の結界が大半の衝撃と魔力を防いだ為、梓と白の結界だけが形を残す。
  しかし、結界が残っても負担は平等に訪れる。他の者に比べて、額に滲ませた汗が多い梓と白――
  爆風によって飛ばされた碧、茜の目の前で梓が耐え切れずに――吐血する。
 魔力を失いながらも結界に魔力を限界まで注いだ。その上から、結界を維持する為にさらなる無理を己に強いた。
 口から血を吐き出し、竜玄に支えられながらも意識を辛うじて保つ――

 「梓様ッ!!」「梓ちゃんッ!!」

 心配する碧、茜の前で、梓は竜玄の肩を借りながらも自分の足で立ち上がる。
 今度こそ、守る為に――。この倭を家族を、2度と失わない為に――





 空の上から倭を見下ろしながら、黒は振り上げた腕を下ろした。
 奮闘する妹達や仲間師団長の姿に、少し微笑む。

 「……貴様は、バカなのか……あれ程の魔力で、倭に躊躇無く魔力を放つなど、正気か?」
 「――あ? 正気だったら、何だよ?」

 黒色の焔を纏う指先を灰化が始まった異形の肉片に守られながら、怯えるトレファへと向ける。
 その指先から逃れようと腰を抜かしたままトレファが地面をがむしゃらに掻いて虫けらの様に逃げる。
 息を吐いて、一呼吸置く。久しぶりの魔力の開放に、体が先に限界を迎えてしまう恐れがあったからだ。
 メリアナの様に、後先考えずに全力を出し切ってしまえば肉体が魔力に耐えきれなくなる。
 アストレイアが八雲に切り裂かれた時も、顕現体の修復は十分可能であった。
 しかし、肉体の限界が迫っていた為に、アストレイアは宿主メリアナとの繋がりを《戦闘完全顕現》ではなく。《保守生命維持》を優先した。
 それが原因で、優勢であった筈のメリアナがトレファに敗れる結果となった。

  (魔力は、温存だ。守る為に、生き残る為に……守る……為――)

 異形へと指示を飛ばして、自分は即座にその場から逃げる。そんなトレファの後ろ姿を見て――抑えが効かなくなる。

 パチンッ――。指を鳴らして、黒を中心とした一定範囲内に高濃度な魔力領域が形成される。
 その領域に逃げる事も出来ずにトレファは呑み込まれ、高濃度な魔力が全身の神経を刺激する。
  一瞬で、その空間が自分に不利だと気付かされる。逃げる事も、戦う事も難しく。ありとあらゆる可能性が一つ一つ失われる。
 僅か一瞬で、半径数百キロが黒の領域となる。もはや、トレファの持ち得る全てを代償に速度逃げる足を得たとしても、その程度の速度では黒の前から逃げる事は出来ない。
  ならば、戦うしか無い。逃げ道は存在しない。
 そう覚悟し、八雲を構える。――が、八雲の持つ手首がいつの間にか消えていた。
 手首の先から鮮血が、噴水のように勢い良く吹き出して、足元を真っ赤に染める。
 激痛がトレファの脳内を駆け回り、再生が行われない事に気付く。
 その原因を視認し、トレファは黒と対峙する時よりもさらなる絶望を味わう事となる。

 「お、お前……は、嘘だろ……」
 「よぉ、この前ぶりだな。てか、八雲無しで戦えよ……俺の時みたいに……」

 灰色のパーカーのフードを取って、トラウマである真っ白な髪色をトレファに見せ付ける。
 癒えた筈の別次元で受けた傷が蘇ったのか、トレファが手首以外を抑えながら、ズルズル――と、その場から後退る。
 純白の髪が風に揺れ、紫色の眼光がトレファを睨む。目尻から大気中の魔力に反応する。
 現在の黒と同じく、《青》でも《赤》でも無い《紫色》の瞳がトレファを睨む。

 「返せ……私の八雲を返――」
 「ほら、やるよ」

 すんなりトレファへと八雲を返す。傷がみるみる完治し、体が元に戻るトレファが、思わずキョトンとする。
 それもその筈だ。自分を殺す事が出来たのに、八雲を返してわざわざ再生する時間すらも与えた。
 そんな彼らの理解し難い行動に、トレファは――付け上がった。
 もちろん、この男がトレファに手加減したのは――徹底的に地獄を見せる・・・・・・・・・・・為であった。

 「回復したか? じゃ……いいよな」
 「は――」

 男の拳がトレファの前で盛大に炸裂する。漆黒の稲妻が弾け、その漆黒の稲妻が大気中の魔力残滓全てに例外なく反応する。
 全身を焼き貫かれ、内部から内臓の隅々を焼かれる。炎で容赦無く焼かれる様な激痛が全身を余すこと無く駆け巡る。
 しかし、瞬時に再生能力が全身に施される。それを見越して、再び男は全力の拳を叩き付ける。
 先程よりも破壊力がケタ違いに増大した稲妻が、トレファの体を容易く貫く。

 「ギィやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――――ッッッッ!!!!」

 全身の穴という穴から稲妻が炸裂し、内側と外側の2つの魔力で全身を丸焦げにされる。
 地面を転がって、激痛に悶えるトレファが見たのは――怒りに飲まれた男の眼光であった。

 「なぁ、心の底から愛している者同士が……数年も離れ離れになるって事が、どんな痛みか知ってるか?」
 「ハッハッ、ハッ……ハァハァ………は?」
 「――痛みを知ってるかって、聞いてんだよッ!!」

 下顎を蹴られる。――否、正確には下顎を残して頭部の全てが魔力の余波で吹き飛ぶ。
 バラバラに散らばる肉片が再生の為に動く。だが、トレファはその再生を心の底から拒む。
 もう、死なせてくれ――と、男の前で額を地面に擦り付ける。

 「だとよ……黒、殺すか?」
 「バカを言うな《ハート》……殺すなら、少なくとも数十時間は殺され続けろ」
 「だとよ――」

 ハート・・・――。この名前にトレファは心当たりがあった。
 黒の魔力を奪取し、計画を推し進める段階で最も警戒すべき人間・・だと説明があった。
 あの場で、軽く聞き流した為。その強さ、危険度、接敵時の対応を記憶出来ていない。

 「ま、待って――」

 トレファの両サイドから、黒とハートの全力の魔力が叩き込まれる。
 空間が裂け、高濃度魔力領域内を凄まじい魔力の波動が駆け巡る。
 《魔力領域》と言う魔法技術の大きな役目は、扱う人物によって様々な領域種類がある。
 通常は、魔物ギフトの能力を活かす為に、自身に有利な戦場に組み立てる為の技術である。
  デメリットを打ち消し、不利になる戦闘区域を相殺し自分の魔力や魔物の力が発揮できる様に、場面を作り直す技術――
 しかし、今の黒が形成した魔力領域は、内と外の関係を完全に遮断する為の役目だけ・・が機能していた。
 コレにより、内側の魔力が残滓1つであっても、外側へと漏れ出る事は無い。
 そして、その領域の上から更に黒が魔法を重ねる。

 「――《バハムート》」

 黒の指示を承諾した魔物ギフトが、魔法を発動する。
 領域の外掛を覆う真っ黒な布が魔力だけでなく。視覚情報も内側と外側とで遮断する。
 真っ黒な世界で、トレファ、ハート、黒の3人が世界から切り離される。

 「……ハート、俺は外の異形をやる。ソイツは、任せていいか?」
 「あぁ、半殺しで良いよな?」
 「そうだな……頼む」

 魔力領域をその場に固定して、黒は1人で領域の外へと出ていく。
 残されたトレファがハートに向け、八雲の刃先を向ける。だが、その手は震えている。
 腰も足も震え、満足に戦えるとは言い難い。しかし、それならそれで一向に構わない。
    例え、万全であっても今の・・彼には、勝てる保証は万に一つとして、無い――


 「天地、ひざまずけ――」


 ハートが、人差し指の第1関節を鳴らす。背から現れる異質な魔力が形を得る。
    真っ黒な世界であっても、その者の異質な魔力が細胞レベルで危機を覚えた。
    そして、知る。ハートの内に宿る。魔物ギフトの強大さを――

 黒とはまた違ったベクトルの――《恐怖》を。

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