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曇天を切り裂く、竜の咆哮
しおりを挟む領域の影響か、倭を取り囲む異形が全て動きを停止する。
そして、命令権を有するトレファとの接続が途切れた事で、約90億の異形が魔力を感知する場所を目指す。
「おい、異形が来てるぞ!!」
一人の言葉に、全員が現実を直視する。
大型が一斉に走り出し、倭を潰すという命令を実行に移す。
梓が結界の維持に力を使い果たし、膝を折る。
「梓様!」
碧が駆け寄って、その体を支える。
現状、戦える戦力はほぼ存在しない。師団長は、結界の維持に必要不可欠。
戦えるとしても、白や回復を待った翔しか残っていない。
戦える余力を持った騎士を総動員しても、この規模の相手難しい。
「小型、中型を視認しました! 結界に接触します!!」
覚悟を決める騎士、師団長の前に――《赤髪》を揺らす人影がいつの間にか現れていた。
指先から滴り落ちる血液が地面に浸透し、広大な大地が真っ赤に染まった。
――ヴラド。
合図を聞いて、魔物が動く。
倭全域に出現した深紅の刃が群がる異形の軍勢を足元から突き刺し、倭の地を灰一色に染め上げる。
「いいタイミングだったかな? 白ちゃん、翔ちゃん」
「遅いぐらいよ。――暁」
「何か、裏でやってたろ? 仕事し過ぎだ……」
結界の維持にだけ集中する白を守る様に、暁は指先で魔力を操る。
倭の地に足を踏み入れた魔物の半数が消える。
結界の内部へと入って、暁が各十二師団長の消耗具合を確認する。
「まだ、行けるけど……少し心許ないな」
「翔が加減を間違えるからよ……」
「……すいやせん」
「まぁ、良いよ。僕も結界の維持に回る。外の異形は――黒が殺るよ」
親指を噛んで、人差し指で滲む血を擦る。
擦って表面に血を伸ばしてから、魔物へと指示を飛ばす。
地面に手をついて、強度に不安が残る結界を補強する様に、深紅の城壁が結界を覆う。
「ヴラド――」
元々の結界術や魔法を媒介に、暁の魔物――《ヴラド》が、更に強力な結界へと昇華させる。
倭を覆う宝石のような深紅の輝きを有する城が、異形の攻撃を防ぐ。その巨大さから異形程度の攻撃にはビクともしない。
完全に堅牢な城壁の完成に倭の騎士達は声を上げる。――しかし、暁、白、翔の3人からはそんな歓声とは真逆な表情をしていた。
「「「――来るぞ」」」
3人の言葉を聞いて、十二師団長の全員が魔力を再び注ぐ。
……バハムート――
微かに、聞こえた。
誰かが魔物へと指示を飛ばす声が――
次の瞬間、倭の上空から漆黒のレーザーが群がる異形の尽くを灰燼に帰す。
暁達の堅牢な結界がどれ程の強度なのかなど、その他一切には気にも止めず。その魔力砲は、結界諸とも異形を焼き払う。
結界に亀裂が生じ、内部の騎士や避難民が大きな衝撃に怯える。
だが、ここで彼らの役目が存分に発揮される。
迫り来る見えない攻撃、木々を軒並み薙ぎ倒すほどの凄まじい風圧と共に大気中に走る稲妻として可視化される漆黒の魔力が倭全域を大きく揺らす。
「――暁ッ!!」
「分かってる――ッ!!」
白と暁の2人が魔物を顕現させ、その堅牢な結界を更に堅牢な物へと仕上げる。
既に完成して切っている堅牢な結界の更に上へ――
堅牢な結界の内側で、彼らが目にしたのは曇天の空に降臨する化け物。
――漆黒を纏う黒竜であった。
鋼を超える硬度を持っているであろう。漆黒の竜鱗は何よりも硬く。
黒色の体の中で、白く鋭利な牙や爪はファンタジー小説やアニメなどに登場する。邪竜を彷彿させる。
しかし、眼前に現れた黒竜はそんな邪竜程度が放っているオーラではない。
青色の眼光が漆黒の鱗をより引き立て、荒れ狂う空の中で咆哮を轟かせる。
――大気が轟く。
結界が、揺れる。ビリビリ――と、揺れる。
咆哮1つで世界全土に、その者の復活が知れ渡る。
海を隔てた彼方の地で、数多くの者達がその咆哮に気付く。
あぁ、やっと目覚めたか――と、多くの皇帝が遠い異国の地から内なる情熱が、かの皇帝の魔力に呼応して熱湯の様に湧き上がる。
今日と言うこの日は、全てこの一瞬の出来事の為にある。
そう、一人の皇帝が呟く。両手を広げ、水平線の彼方を見詰める。
海を隔てた先で待っているかの者の魔力を焼き付ける為に――
「この時を……待ち侘びたぞ。――我が、友よ!!」
倭全域に蠢く異形の半数が今の一撃で消し飛ぶ。
巨大な両翼を羽ばたかせ、漆黒の竜が倭の地に降り立つ。
「さぁ、相棒……殲滅だ」
『うむ、分かっておる』
黒の瞳が紫色の光を放ち、黒竜の瞳も同じく青から紫色へゆっくりと変化する。
そして、90億という規模の異形が、たった一人の騎士によって殲滅される事となる。
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