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託した《夢》
しおりを挟む黒、ハート、メリアナを筆頭にした《王の世代》と呼ばれた者達の養成所時代は輝かしいものであった。
黒、ハート、翔、暁、メリアナ、未来――
今の騎士達がその名を知る皇帝、または大公と呼ばれる階級の騎士達の殆どが、その世代に数えられた。
それ故、あの《事件》は世界を震撼させた。
皮肉にも、黒が皇帝としての地位を確立させた事件でもあり、未来との関係が進展した要因でもあり。
黒が、憎しみによって《廃人》になる原因でもあった。
「――当時、僕らは黒の部隊に所属していたね。キミの誰も彼もを黙らせる《魔力》と《力》に少し嫉妬した記憶がある」
「私達の部隊は、誰よりも……多くの戦場を渡った。とても危険な戦いであっても、黒となら走り抜けれた」
「私もみんな、多くの経験をしたよ。でも、黒君は……そんな私達を――裏切った」
男の両サイドに立った女性2人が、その細くて綺麗な指先を黒へと向ける。
その指先に集まる魔力を感じ取って、黒は肩の力を抜く。
ぐったりと、その場に座って3人の言葉に耳を傾ける。
本当であれば、懐かしい青春の思い出を笑い合って語り合った事だろう。
だが、彼らは、違う。
黒に向ける指先同様、黒へと向けられたのは――深い殺意であった。
「あの事件で、僕達3人は死亡したと処理された。そして、僕達の《夢》を、お前は奪った」
「私の可能性を」
「私の……希望を」
――お前は、奪ったんだ。
男の言葉が黒の胸を抉る。
黒へと放たれた魔力砲を割って入ったハートが手で弾く。
「何を言ってやがるッ!! お前達は、確かに死んだ。だから、死んだお前達の託した《想い》を黒は代わりに叶えたんだぞッ!! 血を吐くほど努力して、やっと掴んだ。そして、お前達3人の夢を黒が果たしたんだッ!!」
「――誰が、頼んだッ!!」
ハートの腹部に強烈な一撃が入る。全身に走る凄まじい魔力の熱量に、思わずハートが口から血を吐いた。
その場から吹き飛ばされ、腹部の出血から身動きが取れなくなる。
「……夢を託した? 誰が、託した? 一言でも言ったか? 勘違いも甚だしいッ!!」
「いや、確かに……俺は……」
「錯乱したお前の言葉を鵜呑みにする気はない。まして言えば、僕達は生きていた。なのに、お前に夢を奪われる気持ちが分かるか? 人生を捧げる覚悟で、異形と戦って、強くなって叶えようとした《夢》を――奪われる気持ちが、お前に分かるかァッ!!」
黒は、逃げも防御もしない。否、出来ない。
男の放った拳を真正面から受けて、地面を数回跳ねる。
黒を守る為に割って入ろうとした騎士や師団長へと、2人の魔力砲が向けられる。
「っ……!? 逃げろ――ッ!!」
黒が叫ぶ。メリアナと白の魔法で、全員がその場から遠くへと転移する。
それが間に合わなければ、2人の放った魔力砲で全員が焼き消えていた。
「わぁ、すごいね。一瞬であそこまで、逃げた……」
「流石は、メリアナと白よね。でも、《ユーナ》……まだ殺すのはダメよ?」
「もう、わかってるよ。《エレメナ》ちゃん。……私達の夢を壊したんだから、黒くんを壊して――その後から殺す。もちろん、未来ちゃんもね」
「――ッ!!」
一瞬、黒が動く。だが、その手が彼女達の喉を襲う事は無い。
寸前で動きを止め、その事に呆れた《エレメナ》と呼ばれた黒縁メガネに黒髪長髪の女性が、黒の脇腹に容赦無く蹴りを叩き込む。
口元のホクロが特徴的で、その容姿は昔と変わらない。だから、黒は躊躇ってしまう。
黒にとって、彼らは大切な友人。死んでいたと思っていた彼らが、生きていた。
飛び跳ねて嬉しい筈なのに、こうして敵として刃を向けなければならない。
その事に、黒は未だに迷っていた。
「先輩、まだ迷っているんですか? なら、決断させてあげます。この手で――」
エレメナの手に刀が握られ、その刃から放たれた斬撃は倭へと一直線に向かう。
大地を切り裂き、木々や岩石を一刀両断する斬撃が漆黒の稲妻を纏って飛翔する。
黒との僅かな差はあっても、王の世代と呼ばれた人財だ。養成所時代の中でも、屈指の実力は依然として健在。
当然、十数年経過した今尚、その力は衰える訳がない――
地面を切り裂き、放たれた斬撃を満身創痍のメリアナが全力の聖剣で何とか相殺する。
だが、その一撃の重さに、そこでメリアナは完全に力を使い果たす。
「流石、メリアナね。それに比べて……どこまでも、私達を失望させてくれますね。――橘黒は」
「エレメナちゃん。私にも殺らせてよー。ハートくんも翔くんもヘトヘトな今なら、絶対に邪魔が入らないし……さ――ッ!」
「ユーナ、油断は危険よ」
地面を蹴って、短髪茶髪のユーナが黒へと襲い掛かる。
その小柄な体形からは想像も付かない強烈な蹴り技や殴打の数、プロの格闘家が全身に強化魔法を施したレベルの卓越した身体能力と武術の才能。
つま先で、地面を軽く蹴る。身を翻して、黒の視覚を惑わす。
飛び跳ねる様に、黒の周りを飛んで跳ねての縦横無尽な動き――
前後、左右、上下、斜め――ありとあらゆる可能性が、黒の眼前で決断を迫る。
正面からの殴打を防げても、気付いたら2手3手と攻撃のテンポが先程よりも加速していく。
その上、黒と双子の白と同じ。卓越したな身体能力を有する彼女の脅威的な体術は、黒の動きを完全に上回る。
「あはッ、ダメだよ。黒くん、しっかり付いて来ないと……さ――ッ!!」
ユーナの縦拳が黒の顔を捉えた。
鼻先が折れる鈍い音が聞こえ、黒が血を吐く。
ステップを踏むユーナと黒の間に、暁が割って入る。
高濃度な魔力を纏った両者の腕が鋼をも超える強度ゆえに、互いの打撃で甲高い金属音が反響する。
ユーナの腕に纏った魔力が揺れ、揺れ動いたユーナとは真逆に暁の魔力は両腕を包み込む様に纏わされる。
ユーナと暁、速度ではユーナには勝てないと判断した暁の判断力の速さが勝負を分けた。
「わぁ、暁くんだ。久しぶりだね」
「やぁ、ユーナちゃん。本当に……久しぶりだよ――」
ユーナと暁とでは、当然の如く。腕力、体重、魔力の量が異なる。
勝負を決めるとすれば、この一瞬であった。
指の先を噛んで、滲む血液を指先で擦る。暁の狙いを理解し、阻止すべく動くユーナだが、直ぐ様暁はユーナの思考の裏をかく。
暁が、すぐ隣の項垂れた黒に触れて、ユーナが魔法の阻止から転移の阻止に動くよりも先にその場から転移する。
転移先で、未来や梓に倒れた黒は抱き抱えられる。もはや、戦える状態ではない。
肉体、魔力が例え万全でも精神はボロボロであった。
「あ……逃げちゃった。ごめんね、エレメナちゃん。《黄》くん――」
「仕方ないわ。ユーナが、暁先輩の魔法阻止に動いた瞬間に、逃げに動いたんだもん。私でも対応出来ないよ」
ユーナの隣で、エレメナが謝るユーナの頭を優しく撫でる。
失敗に対して、一切気にしていないエレメナに、ユーナは思わず頬を緩ませる。
「黒、ハート、メリアナ。僕達は、お前達の敵だ。当然、トレファと八雲は貰っていく。だから、次会う時にはしっかり俺達を殺しに来い……ちゃんと、楽しませてくれよ? 黒――」
ピアスをユラユラと揺らしながら倒れたトレファと八雲を持ち去って、黒達の前から消える。ユーナ、エレメナ、黄の3人――
2年前に消えた騎士や未来達は戻り、メリアナは肉体を黒は魔力を取り戻した。
だがしかし、戦いの爪痕は深く。
その上、これ以上に無いほどの強敵が新たに、黒達の前に立ちはだかる。
トレファなどの敵だけであれば、力を取り戻した万全なメリアナや黒で事足りる。
だが、あの3人は別格である――
何せ、黒やハート達と同じく。皇帝達だけの領域に達している。
その上、今は敵であったとしても……。黒やハートにとっては、友である事に変わらない。
例え、仲間を脅かす者であっても――……
だからこそ彼らは、戦わなければならない。
生き残る為に、彼らと戦わなければならない。
全ては、大切な者達を護る為に――
――ここで序章は、幕を閉じる。
そして、新章と言う名の演目が幕を開く事になる。
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