118 / 231
死に勝る敗北
しおりを挟む黒、ハートが魔物の力を纏う。
一挙手一投足、その全てが死へと直結する。
もちろん、油断など許されない。1秒の遅れ、思考の遅れが命取りになる。
黒、ハートは分かっていた。長年の騎士、皇帝としての経験から――が、僅か数秒だけ動きが止まる。
踏み込みの足が止まり、体から力が抜ける。
敵の攻撃ではない――。正面の敵性存在、その者が顔を隠していたフードを取ったからだ。
素顔を晒した程度で動きを止める訳がなかった。ただ、相手が相手であった。
そのフードの下の素顔を晒す行為1つで、黒の動きを停止させるには充分過ぎた――
「お前、は……」
「おい、何の冗談だよ。コイツは……」
黒、ハートの目の前で、顔を覆い隠すその真っ白なフードを取る。
どこにでも居る顔で、特に魔法を使った訳では無い。
ただ、素顔を晒した。普通の黒髪、イケメンの分類に入れられる整った顔立ち、最も特徴的な片耳のピアス――
その黒髪を2人は、覚えている。否、忘れる筈はない。
共に切磋琢磨し、共に騎士の最高峰を目指して走り出した――友人であるから。
男は、ピアスを揺らしながら、黒、ハートに笑みを向ける。
硬直した黒、ハートを見て釣り上がる口角が押さえられない。
「本物……か?」
ハートの問い掛けに、男は嘘など付けない確固たる証拠を提示する。
それを見て、黒は完全に心が――砕けた。
「天地、轟け。――《アルファカイウス》」
男の背後から、巨大な十字架を背負った。痛々しいまでに縫合の痕が残る化け物が現れる。
真っ白な長髪を揺らしながら、顔の皮膚は無く。
一部の肉が顔に残るだけの半分骸骨、半分肉というおぞましい顔の魔物が男に呼ばれる。
両手両足に鎖が巻き付き、動く度にジャラジャラと音を上げる。
ボロ布1枚を腰に巻いて、十字架を背負った魔物が吠える。
「さぁ、力を解き放てよ……黒――」
「何の冗談だよ……どうして、生きてる。いや、生きてるなら、何で……何で、連絡の1つもしなかったッ!!」
黒が声を荒げる。
ハートも困惑して、戦闘どころではない。もちろん、黒などまともな精神状態ではない。
「なぜ、黙ってたか……か。それは――お前を、殺す為だ」
男の指先が黒の胸を狙う。
魔物の開口部から放たれた魔力のレーザーが黒の肩を貫く。
寸前で避けて、致命傷は避ける。僅かでもタイミングがズレていようものなら、今の一撃で黒は終わっていた。
「流石は、黒だ。そうじゃなきゃ……ちっとも、楽しめない」
「どうして、生きてる。どうして、戦う。どうして……」
「どうして? 簡単だ――」
男の後ろで、同じくフードを取った2人が黒、ハートの前に立った。
この男同様、後から顔を晒した2人にも黒とハートは面識があった。
ハートよりも、黒はその者達の顔を忘れはしない。
決して、忘れてはならない。
それが、黒にとって《呪い》でもあり《覚悟》でもあった。
だが、その覚悟はこの日崩れた。
驚きと悲哀の表情を隠す事無く。ぐちゃぐちゃの表情に髪をぐしゃぐしゃに掻いて、その現実から目を背けようとする。
何せ、敵として眼前に立っている者達は、黒にとってかけがえのない者達であったからだ。
もはや、黒は剣を取る事は出来ない。心の不安定さに拍車が掛かる。
かつての友を前にして――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる