難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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新章 序章は終わりを告げる――【佇む『観測者』は、脚本を綴る】

彼らは、待ち望んでいた

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  黒の糸が解除され、豪華客船へと戻されたイシュルワの兵達を前に黒は微笑む。

  「余計なマネは、するなよ? 次は、動きを止める・・・じゃ……済まなくなる」

  潜んでいた兵士達全員がそんな黒の言葉とは裏腹な微笑みに、背筋を凍らせる。
  自分の喉元を素手で掴まれた感覚に等しい――。既に、自分達の命は黒の掌の上で転がっている。
  その事をより強く認識させられた。それほどまでに圧倒的な差がある。
  兵士が何十万と一斉に襲い掛かろうとも、黒は一呼吸で殲滅する事だろう。
  否、少しの魔力・・で事足りる。

  「あの殺気……只者じゃない。……化け物だ。悪魔だ……魔王――か」

  意気消沈の兵士達の中で、タバコを咥えた男が一人。窓の外を睨む。
  その目線の先は、倭の黒竜帝――。窓を見た自分の視線に既に黒竜帝は気付いていた。
  むしろ、窓の外を睨んだこの男よりも先にその窓の向こう側に立っていた自分を見ていた。
  その事に、思わず窓から後ずさって逃げる・・・。汗腺から吹き出した汗がシャツを湿らせる。
  ゾクッ――と、背筋を凍らせた先程の殺気よりも、自分に対してだけ向けられた。明確な殺気に、ぐったりとその場に座り込む。

  「あぁ、本物だ。思わず、視線を反らした……あぁ、本物だ」
  「おい、新入り? やっぱ、お前も頭がおかしくなったか……」

  黒の魔力・・を正面から受けて、兵士達の中では数人が気をおかしくした。
  上司的な立場の男が近付くが、男の視界には入っていない。呼び掛けにも反応せずに、不気味な笑みを浮かべる。
 肌から感じる殺気を脳内に無理矢理にでも叩き込み、魂に焼き付ける。
  あの男が、自分達の好敵手・・・だと、細胞の1つ1つに刷り込ませ覚えさせる。
  自分達の国に管理され、管理された権力を振りかざした自分に酔いしれる皇帝紛い物ではなく。
  誰にも《支配  》される事無く。新たな領域ステージに挑み続ける皇帝本物――

  「やっとだ……。やっと、この2年……ずっと待っていた――」

  体を震わせながら、豪華客船を睨む黒のあの強烈な魔力に酔いしれる。

  「やっぱり……本物は、スゲェよ」

  ティンバー、田村、斑鳩の3人の他に、イシュルワの皇帝は潜んでいた。
  本来の目的とは違っているが、可能であればその場で戦っても構わないとの司令がウォーロックから出ている。
  しかし、紛い物ではない彼らはそんな事はしない。舞台がどこであろうとも、真正面から正々堂々と叩く。
  あわよくば、などと甘い考えはない。が、襲って倒れるレベルでは初めから楽しめる相手でもない。
  この騒ぎに乗じて、倭の崩壊を企むスパイが客船から群衆の合間を抜けて倭へと向かって行く。

  彼らの本当の目的は、倭に逃げた裏切り者にある。
  元、イシュルワ皇帝のローグ、トゥーリ、ガゼルの3名の抹殺にある。
  そして、この騒ぎで、名のある騎士や皇帝は黒の元に集まっている。

 「……殺せ。容赦はするな」

  暗殺者のリーダー格がそう指示して、建物の影へと潜む。
  標的の魔力を感知し、獲物を狙う。が、後ろに付いて来た部下の姿が消えていた事に、遅れて気付く。 
  自分一人となった事に目を疑っていると、目の前に現れたあかつきの指先が暗殺者の喉を貫く。

  「黒ちゃんが言ってたでしょ? 余計なマネは、するな。次は……って、聞いてないよね」

  痙攣しながら息絶えた暗殺者を見てから、近くのゴミ捨て場に遺体を投げ捨てる。
  指先の血液を乾いた布切れで拭って、始末した暗殺者の持ち物を物色する。
  暗器だけで、他に目立った物は無かったのでその場を小走りで去っていく。
  その道中で、暁は不意に立ち止まる。正面から黒髪長髪の巨乳美女が黒一色のドレスで暁の横を通り過ぎたからだ。
  断じて、暁が大好きな巨乳・・に目を奪われて立ち止まった訳では無い。
  ――この場に居る筈の無いに、思わず体が固まったのであった。

  「お久しぶりですね。かなめさん……随分と、油断していたようですね」
  「ホント、久しぶり……だね。――シャウ」
  「まぁ?昔の様に、私の事は 《シャウ・ラン》と呼んで下さらないのですね」

  頬骨を滑る冷や汗を感じ、直感で体が動く。自分や周囲への配慮など構わず、その場から勢い良く後退する。
  身を翻して、地面を力強く蹴って距離を置く。が、それでも、シャウ・ランの前からは、今の暁では逃げれない・・・・・――
  シャウの大きなメロンの様な胸で作られた。谷間に隠していた細い黒色の枝のような物が、その長さを魔力によって変化さる
  逃げた先を先読みして、暁の喉元に鋭利な鎌の先端が触れていた。

  「叶さんは、本当は良い子です。さぁ、私に触れてください」
  「……イヤ、僕は仕事があるから……コレで、失礼さ――」

  シャウの前から逃げようとした暁が、鎌の先端からゆっくりと離れた次の瞬間――
  体を反転させ、シャウを振り切って逃げるよりも先にシャウの胸元に暁の顔が引き寄せられた。

  「冷たい事は言わないで下さい。2年ぶりのシャウですよ? 叶さんと離れ離れで、シャウはとっても寂しかったんです。ですから、もっと、じっくり……愛を深めましょう」

  巨乳に顔を埋められ、呼吸が難しくなる。
  その上、無理に逃げようにも、見た目に反してか弱い女性とは思えない凄まじい力で暁の自由を奪う。
  暁とシャウの身長は同じか、シャウの方が小さい程度。だが、その力は暁の数倍であった。
  単純に、暁の筋力が無いというのもある。魔力による強化が当たり前な現在の常識に囚われ、肉体的な鍛錬をしなかったツケが回ってきた。
  黒、ハート、翔と同じ世代で養成所で過ごしてきた暁にとって、彼女は近付きたくない女性の一人であった。
  学生の頃から、彼女が自分の事を好いていてくれるのは嬉しかった。当時、その事を知って付き合った事もある。

  だが、暁の性格の悪さが裏目に出てしまう。

  暁叶あかつき かなめと言う男は、浮気性であった。容姿からもモテていた為に、色々な女性に手を出した。
  そして、シャウ・ランは一途で、当然の如く浮気・・を許さなかった。
  暁の浮気に気付いて、粛清と言う名の魔法暴力で暁に決して癒えない心のトラウマを植え付けた。
  その上、どんなに離れていても暁の居場所が分かる能力魔物の力を埋め込んだ。
  その結果、どんなに遠くとも暁の居場所だけはシャウには筒抜けとなっている。
  この2年、恋人と離れ離れだったシャウ・ランのリミッター理性は外れており、こうして暁を襲いに来たのであった。

  「この2年、何かの魔法でしょうか? 叶さんの居場所が分かりませんでした……ですが、ようやくこうして出会えました。これは、運命です」
  「……違います。偶然です。奇跡でも、運命でもありません」
  「いえ、赤い糸で結ばれた私達の愛の為せる《奇跡》です」

  助けを求める暁が涙目になりながらも、辺りを見回す。が、誰一人として暁とシャウ・ランには興味を示さない。
  そこで、感覚に影響を与える魔法が発動している事に気付き、建物の影から暁へとピースする小柄な人影が目に入る。
  パンクな服装に指輪などのアクセサリーをジャラジャラと付けた派手な女の子が暁とシャウの姿を携帯に収める。

  「なッ、マギジ――ッ!!」
  「シャウの頼みだもん。断らないよ。それに、元はと言えばシャウに告白して、別れずに浮気した暁が悪い。ここは、黙って貞操を捨てな~」

  そのまま暁はシャウ・ランとマギジの手によって、倭へとから消える事となる。
  暁の魔力が消えた事に、黒、ハート、翔、メリアナは気付いた。
  が、その近くで感じた魔力にも気付くと、ただ黙って暁を見送った。


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