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新章 序章は終わりを告げる――【佇む『観測者』は、脚本を綴る】
その手に魂を《Ⅲ》
しおりを挟む暗い霊域の中とは思えないほど、その場所は暖かく光で満ちていた。
巨大な空間とは違い。霊域の扉と外の何処かが繋がっていた。
霊域の最奥にあったのは、遠い誰も知らない別の場所へと通じる扉と未知の世界――
何処だよ。ここは――
開口一番、黒の言葉は梓には容易に想像が出来た。それは、自分も父親に連れられて来た時と同じ顔をしていたからだ。
外は、洞窟であった。が、そこは空があって陽光が降り注いでいた。様々な動植物が生息し、共存する庭園のような場所が広がっていた。
《庭園》とは言え、そのスケールは別次元であった。
日本様々な庭園の形式はあれど、その全てとは異なる。小さな家屋はあれど、それ以外は全て動植物に囲まれている。
巨大な樹木がまるで樹海と思えるほどに視界を覆い隠し、池の中からシャボンの様な虹色の球体が樹海全体に行き渡る。
様々な珍しい動物が黒、梓の周りに集まる。
まるで、人を恐れない人懐っこい彼らの生態に黒は少しばかり驚かされるのであった。
「ここは、かつて絶滅した動植物を保護した場所だ。歴代の橘当主の中で、動植物に関心のある人物がここを作ったと言われている。元は、歴代当主の貴重な物品を保管する倉庫だったが……かの当主にとって、貴重な物品が彼らだったと言う訳だ」
「スゲェな……どんな魔法だよ。なるほど、だから魔力濃度が比べ物にならないって事か」
「あぁ、橘の霊域は、歴代当主の魔力が集結している。この様に、元はただの庭園だったこの場所も次第に年月と共に樹海となった。当時の当主もここまでは考えて無かっただろうな」
樹海の中からこちらを見る。神秘的な姿をした《鹿》、《猿》、《猪》、《狼》と言った獣達が黒達の元へと集まる。
この場の高濃度な魔力で成長したからか、遠目で通常の獣サイズかと思いきや黒や梓の体格を優に上回る獣達に黒は圧倒される。
「黒、こっちだ。庭園には、彼らは近寄らない。そう……誓っているからな」
「誓っている?」
「この場の獣達は、魔力を食らって生きている。だからか、橘一族には牙を剥く事は無い。自分達と同じ魔力を有する血族を……」
「それと、庭園に近付かないってのは繋がっているのか?」
黒の質問に、梓が家屋に足を踏み入れる。扉を優しく開けて、草履を玄関で脱ぐ。
黒が靴を適当に脱いで上がった途端、黒の背後から数体の霊体が現れた。
透き通るような体に丸っこい人形のような姿、目や口はなくのっぺらぼうのようだが自然と敵意は感じられない。
気付けば、黒が適当に脱いだ靴をを小さな霊体が数人で頑張って揃えていたのが見える。
「彼らは、木霊だ。この霊域に宿る精霊。霊域の管理をしてくれて、数千年経った今でもこの霊域は形を保っている」
「へぇー、凄いな霊域って……魔力が一切減らない」
「霊域には、常に高濃度な魔力に満たされている。お前が、引きこもって、飲まず食わずで死ななかったのはその魔力のおかげでもある」
「2年間、魔力が無くとも《再生》が機能したのは、魔力があったからか……なるほどな。全く気が付かなかった」
梓が畳の上で正座して、外の美しい庭園を見る。黒が何をしているのかと疑問に思っていると、足元の木霊がお茶を持ってきた。
だが、実際にあるわけではなく。魔力による再現で、口の中に入れた途端消えて無くなる。
しかし、黒は木霊達のもてなしを受け取る。心が洗われる様な感覚で、魔力が研ぎ澄まされる。
心なしか、木霊が喜んでいる様にも見えた。
「さて、本題だ。四大陸に行って、どうするつもりだ? まさか、イシュルワを消して帰ってくるつもりか?」
「いや、俺等の役目は……ローグ達がイシュルワのトップに立つ手伝いだ。現在のトップをそのイスから下ろして、トップをすげ替える。そして、イシュルワの危険思想を根絶する」
「本当に、出来るとでも?」
「出来る出来ない。じゃないな……やるしかない」
黒の答えに、梓は――そうか、と呟いて部屋の奥から木箱を持ってきた。
梓を手伝うかのように、もう一つの木箱を木霊達が持ってくる。
その中身は、二刀一対の銀装飾の直刀と黒色の篭手であった。
「この2つは、私の大切な人の持ち物だ。この霊域に収められていたほどの大切な物品……。それを貸して上げる。だから、必ず返しに来なさい……生きて、黒が私に――」
梓が見せた木箱から、銀の直刀を手に取る。
その瞬間、脳に見たこともない景色が広がる。
周囲の木霊が消えて、霊域に魔力が広がる。
木霊や動物達が最初こそは驚いたが、その魔力が優しい物だと気付くと次第に庭園付近へと集まる。
部屋の中では、木霊達が目をつむって瞑想する黒の周りで元気に走り回る。
中には背中や肩、頭や顔にしがみつく個体も中にはいる。
木霊達が黒に懐いて、外の動物達も黒の魔力に安心して眠る。
部屋を出て、庭園の近くで眠る獣達に触れながら、梓は思い出した。
黒の中で感じたあの魔力、自分の愛した人の懐かしい魔力を――黒は直刀を通して継承する。
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