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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
強者だけの世界《Ⅱ》
しおりを挟むクラトがスイートホテルのような景観の通路を静かに歩く。
その後ろには、倭の捕虜である《ミシェーレ》と《エヴァ・コルニス》の2人が黙って付いて歩く。
「……アナタの目的は、一体何なのよ」
沈黙に耐え兼ねて、ミシェーレが前を行くクラトへと尋ねる。
立ち止まる事無く。クラトは、ミシェーレからの質問に答える。
答えは、シンプルにたった一つだけであった。
「……皇帝を強くする。ただ、それだけだ」
「それと、私達を捕虜にする意味は何なの……」
「ミシェーレ先輩、私達を使って……誰かを呼ぶんじゃないですか?」
ミシェーレの隣を歩くエヴァが、ボソッと呟いてから、クラトがその言葉を肯定する。
ミシェーレに危険が迫れば、彼女の恋仲であるハートが駆け付ける。
エヴァに恋仲となる人物のデータは無いが、身の危険だとしればエースダルから彼女の兄が駆け付ける。
クラトの狙いが彼女達を守る為に、イシュルワへと渡る皇帝や大公級の騎士の存在。
イシュルワの皇帝や大公と衝突させ、イシュルワの国土防衛を理由に迎撃する計画なのだと2人は気付かされ、歯軋りする。
「悔しいよね……自分達が原因で、倭の友人達が傷付くのだから……。でも、君達の計画に穴がある。それは、私が目指す世界には、このイシュルワは含まれていない」
「それは、どういう事なの?」
「単純な話だよ。このイシュルワは、多くの皇帝や大公を抱えた四大陸1の武力と兵力を有する国家だ。が、その規模がデカいだけで……中身はスカスカで、外見だけ豪華に装ったハリボテだ」
「だから、ハートさんや兄さんの力を利用して、強くするのが目的何ですよね?」
クラトが歩みを止めて、エヴァの発言の間違いを訂正させた。
「エヴァ・コルニス――。その見解は、間違いだ。私の計画は、イシュルワの国力を利用して――倭や他国の皇帝を強くする。私にとって、この国は単なる踏み台だ。そもそも、ハリボテの輩を鍛えても所詮はハリボテですよ」
クラトが微笑みながら、2人の質問に対しての答えを告げる。
ミシェーレ、エヴァの2人から見ても嘘は無い。ただ、何か隠しているのも事実であった。
質問に対して、嘘はなくとも重要な事には言及しない。イシュルワがクラトの目指す世界には含まれていなくとも、倭や他国は含まれているのか否か――
エヴァは、その先を踏み込むのを躊躇した。だが、ミシェーレはその先に踏み込む。
「その目指す世界に、倭、エースダル、グランヴァーレ、オリンポスは含まれているの?」
「……アナタは、無謀にも物事の核心に迫る一言を持っている。それでいて、度胸も申し分ない」
クラトが止まっていた足を進める。後ろから2人が付いて行く。
開かれた扉の先には、排気ガスと巨大な工場が地面を貫通して建てられている光景であった。
数十階建てのビルと同じ高さの工場が、地面の上にも下にも建てられている。
「イシュルワは、豊富な鉱山資源に恵まれた国であった。その上、当時は異形と戦う為の兵器の開発で発展に発展を重ねた。その結果、元の地面は消えて人工の土地が生まれた。建物が上へと拡張できないと知ると、地下へと工場を伸ばした。人々の生活は、地上から地下へと押し込まれた」
クラトが両手を広げて、2人の前で語る。
人が人らしく過ごせないこの世界で、本物が生まれるのか――と、尋ねる。
誰しもがその答えを知らない。ましてや、質問の意味すら分からない。
だが、ある皇帝は、この世界に変革をもたらす。
クラトは、その世界を見てみたい。その一心で、2人を利用する。
ウォーロック陣営に力を貸すのは、ただの気まぐれで本来の目的は変革者への試練である。
「君達の安全は、保証するよ。私の命に賭けても……。それに、2人は、良きパズルのピースだ。ここで失えば、後々の大作の完成が不可能となる。もちろん、君達の大切な人の命も保証するよ」
「それは、イシュルワの住民の命は――保証しない。そう聞こえますが?」
「ミシェーレさん、救える命にも限りがある。全てを平等に救うのは不可能だ。それに、コレは試練といった。イシュルワの命が救えるか救えないかは、我々ではなく。皇帝次第だ」
クラトが2人を部屋へと案内し、同性の従者を2人に付ける。
監視目的と自由が少ない彼女達の手足となる人物である。
「何かあれば、彼女達を頼ってほしい。それと、彼女達は私の直属の部下と言う事になる。誰も君と彼女達の行動に邪魔はしない。正確には、邪魔する存在は排除する。安心して、イシュルワの最後に立ち会って欲しい……そうそう、先程の質問の答えだが――」
クラトハ笑みを浮かべて、ミシェーレの質問の答えを告げる。
とは言え、ミシェーレもエヴァもその答えを既に知っていた。
「――皇帝次第だ」
部屋を後にするクラトへ、先程の男が行く手に立ち塞がる。
シャワーでも浴びたのか、バスローブ姿に金色の頭髪は少し湿っている。
イヤな予感がしたクラトが、眼の前の男に質問を投げ掛ける。
「用件を聞こうか……《キャロン・アッシム》」
「おいおい、俺を信じろよ。ちゃんと約束は守る。ただ、挨拶がしたいだけだ……」
「――触れるな。彼女達に対するあらゆる行為の全ては、私への敵対行為に成り得る。それでもか?」
「随分と……あの子達が大事だな。クラトさんよぉ?」
クラトの鋭い眼光がキャロンの体を縛る。
分厚い縄のような物で全身を縛られたキャロンは、指先一つ動かせなくなる。
クラトの威圧も然ることながら、それに耐えうるキャロンの潜在的な能力にクラトも思う所はあった。
その為、この場は警告に留めた――
「当然だ。この日の為に、計画を進めてきたんだ。お前達のような贋作に邪魔されたくはない」
「言ってくれるよねぇ~……泣きそうだよ」
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