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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
過ちを正す《Ⅰ》
しおりを挟むもう、あの頃には戻れない。そう、何度も自分に言い聞かせた――
私の過ちがあるとすれば、大切な者達を守る為に手に入れた筈の力を私は――使えなかった。
いや、正確には――使う勇気が無かった。
養成所で得た経験や知識、死線を越えて手に入れた力を以てしても――抗えなかった。
『ヘルツ、お前は強いが……誰かを頼る事を知らないんだよ』
『まぁ、アレだな……溜め込み過ぎてる。色々考え込んで、決断出来ずにいるんだよ』
そう言って、養成所時代の私に《弱さ》を教えてくれた黒やハートなどの多くの友がいた。
だが、結局の所、私には勇気が無かった。決断し、実行する一歩を踏み出す勇気が……無かった。
だから、こんな事になった。
こんな結果になって、 自分の心に嘘を付いて全部1人で抱え込んだ。
それでも、大切な者達は守れた。守れるのだから、私1人が傷付けば問題ない。
だから、戦う。もう、間違えない為にも――
そうして、私はもう一度過ちを犯した。頼る事を知らない私は、頼りになる仲間 の救いの手を自分から断ち切った。
「ここで、お前を殺す。ハート・ルテナ・ワークド――」
「……なるほど、全力のお前か」
「何か、不服か?」
「いや、別に……ただ、後悔はするなよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる――」
手に持った鞘を床に投げ捨て、刀を構えたヘルツが殺気を帯びる。
死ぬ気で、ハートを殺しに掛かるその気迫の凄まじさに、ハートが一瞬だけ反応が鈍る。
その隙を狙って、ヘルツが刀を振るう。壁や天井が切り裂かれ、鋭利な刃物でその絵画や花瓶が斬り落とされる。
逃げるハートに食らいつく。風を切る音の後に、僅かな漆黒の稲妻が壁や床、天井などを黒く焦がした。
――シッ!!
横一閃、壁や柱が振るう刀によって切り裂かれる。壁や鉄骨入りの柱などが豆腐のように切れていく。
魔力を纏った蹴りですら、壁が剥がれ剥き出しの鉄骨がぐにゃりと曲がる。
柔らかい素材だったのでは、と思わせるほどにぐにゃりと蹴り1つで形が変わる。
猛攻を避け続け、再び放たれた横一閃をハートは軽く飛んで避ける。
しかし、それが間違いであった。
上へと回避する事を先読みしており、一閃を放った動きのまま流れるように、刀を手放した。
思わず、ハートの目線がヘルツの手放した刀に集中する。脳内に溢れるのは、様々な可能性――
それらにハートの思考が巡り、必然的にヘルツへと向けられる思考が鈍る。
2歩踏み込み、ハートに背を向けていたヘルツが床を蹴ってバク宙で上へと飛び上がる。
勢いを殺さず。そのまま体を捻って、着地の事など考える事無く。
彼女は目一杯の力を込めて、ハートへと両足を力いっぱい突き出した。
同じく飛び上がっていたハートの顔目掛けて、ヘルツの両足が叩き込まれる。
バキッ――
刀に集中していた為に、ヘルツの動きに合わせるのが一瞬だけ遅れる。
皇帝クラスの戦いとなれば、一挙手一投足の全てに神経を研ぎ澄まさなければ命取りとなる。
その例として、ハートの油断とも言える反応の遅さが致命的となる。
その事をハートは、この強烈な一撃の重さを受けて、より一層痛感する事となる。
大気中の魔力の残滓に反応し、漆黒の稲妻が蹴りと同時に大気中へと走る――
窓ガラスや壁の塗装が魔力に余波で剥がれ、吹き飛ぶ。
蹴りの勢いと稲妻の破壊力によって蹴り飛ばされたハートが床を数回ほど跳ねる。
落ちた刀を進行方向へと蹴り飛ばして、身を屈めて拾う時間を短縮させたヘルツが――走る。
蹴った刀が床を跳ねて、そのままの速度を維持した上で手にした刀に魔力を瞬時に纏わせる。
黒色の魔力を纏って、起き上がろうとしたハートに斬り掛かる。
壁、天井、床、その内部の鉄骨が綺麗に両断される。
刀一本で斬った――とは、言えないほどの技術の高さ。その光景をただ見ているイシュルワの兵士は、唖然と彼女の戦い振りに目を奪われる。
「この程度? なら、本気を出すまでも無いわよね――」
「言ってくれよな……女に、本気を出せる訳ないだろ?」
「それ、本気?」
ハートが床を蹴って、ヘルツの斬術から逃れる。
端から見れば、追い詰められたハートにヘルツが迫って行く。ただ、ヘルツは決して油断はしない。
それは、自分よりも遥かに強いこの男が、未だに本気ではないからだ。
刀を握る手に力が籠る。そして、自然とその力みは彼女の表情を変化させる。
――その僅かな変化を、ハートは見逃さない。
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