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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

怪物《Ⅱ》

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  ウォーロックが冷や汗を流しながら、建物のエレベーターを使って別の建物へと移る準備に移る。
  兵士からの連絡では、上からハートが、下から黒がこちらへと向かっている。
  どいう訳か、ウォーロックの位置が2人から丸見えで幾度と漏れ出る魔力を隠蔽しても位置を特定されている。

  遠く離れても黒が発している《恐怖》が、全身に纏わり付いて震えが止まらない。
  イラ立つウォーロックが杖を叩き付け、部下に時間稼ぎを命じる。
  数秒でも稼げれば申し分ない時間稼ぎではあるが、行わないに越した事はない。
  皇帝エンペラー大公マイスターも総動員して、自分の逃げる時間を稼ぐ。
  とびっきりの切り札があるとは言え、使わない方が断然良い。
  使い物にならないカス共に比べれば、切り札1つで黒とハートは倒せる。
  とは言え、1機造るのに相当な金額と資材・・を投じた。出来得るならば、使いたくはない――
  そこで、ウォーロックは次の一手を講じた。

  「ヘルツ、ハートを始末・・して来い。コレは、命令だッ!!」
  「……」
  「逃げたければ、逃げろ……そうなれば、下層部のガキ共・・・・・・・はどうなるかな?」
  「……ッぅ……ッ―― 」

  ヘルツが停止したエレベーターから降りたウォーロック達とは別方向へと向かって行く。
  唇から血が出るほどに、悔しさと怒りを噛み潰したヘルツの顔は鬼のような形相であった。
  しかし、ウォーロックはヘルツを恐れる事はあれど、害をなす事はないと知っている。
  黒やハート、ルシウスのようにヘルツにも弱点かあった。触れられたくない自分の命よりも大切な心臓・・をウォーロックは握っている。
  それ故、ウォーロックは黒、ハートから勝ちを掴み取る自信があった。

  弱者が強者に勝つには、強者が触れられたくない分部に触れる事が最も簡単である。
  その部分を使って、利用し、揺さぶり、言葉巧みに操る。

  「強者とは、言葉にすらできない優越感の塊だ。……格別だ」

  ニタニタ――と、笑みを浮かべる。ウォーロックが離れた別の建物へと向かうその道中で、迎えとして派遣されたクラトが見えた。
  元々、晩餐会に出席する手筈だった為か衣服は正装であった。

  「貴様、逃げておったのか?」
  「いえ、逃げてはいませんよ。ただ、晩餐会の途中で席を立つには……速すぎませんか・・・・・・・?」
  「……この展開は、お前の描いたシナリオ通りか? クラトッ!?」

  ウォーロックの怒り顔を見て、クラトは思わず――プッ――と、吹いた。
  堪え切れず、笑いが溢れてしまった。
  作戦が失敗し、財を投げ売って雇った者達が軒並み使い物にならなかった。
  その事に、クラトは笑ったのだ。

  「知ってましたよ。始めから、彼らに通用しないって」
  「なら、対策の1つや2つぐらい出して見せろッ!!」

  杖で床を思いっきり叩く。
  ウォーロックの怒り様を見て、クラトが溜息を溢した。
  ウォーロックの元で働く者達が不憫で仕方がない。この様子では、黒やハートの実力を目の当たりにしても自分の勝ちを確信していた筈だ。
  例え、多くの皇帝を従えていても、その純度はとても高いとは言えない。
  ――低い。質が低いと言う言葉が、彼らには当てはまる。
  建物上部のハート、下部の黒の実力を目の当たりすれば、彼らでは立ち塞がるこ事すら敵わないと分かるレベルである。

  それほどまでに、研鑽してきたレベルに差があった。
  その上、当然の如く。場数も死線の数も大きく異なる――

  本物の皇帝は、異形以外・・・・の戦い方を知っている。

  「――ん? おっと、彼女・・なら……あるいは」

  クラトの魔力感知に反応したのが、ハートの元へと向かう1人の女性――
  イシュルワの皇帝――《ヘルツ・アウター・ヴァイン》であった。


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