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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
怪物《Ⅰ》
しおりを挟むウォーロックは、目の前の光景に唖然としていた。
この晩餐会を黒達の墓場に変える為に、選りすぐりの軍人や殺し屋を雇って、お抱えの騎士達を投入した。
数多くの口座から多額の資産を吐き出して、この日の計画を実行した。
にも関わらず――たった一人の手によって、簡単に捻り潰された。
経歴を問わず集めた。界隈では名の知れた殺し屋、暗殺者。様々な戦場を渡り歩いた歴戦の傭兵――
それが、たった一人の手で蹴散らされた。
その男の両手には、意識を手放して力無く項垂れた暗殺者の姿が、足蹴にする者は命知らずの傭兵の姿までもがある。
彼らが畳み掛けて、蹴散らされるまではほんの数分程度であった。
――黒、キャロンが部屋から飛び出して、女性や戦闘力が乏しい従業員などが部屋から退出し終えたのを見計らって、彼らは動いた。
静寂に包まれたこの会場の中で、一般人に紛れた暗殺者がハートに襲い掛かる。
だが、飛び掛かった暗殺者は、暗器を振るう事無く。床に頭から突っ込む。
空中で飛び出したと同時に、ハートの目に見えないほどの速度で放たれた殴打によって、意識が途絶えた。
そのままの体勢で、床へと真っ逆さまに倒れて意識は闇に沈む。
「――暗殺者、か。……食後の軽い運動には申し分ないな」
テーブルがひっくり返して、傭兵が隠し持っていた銃火器が一斉に火を吹いた。
壁や床が穴だらけとなって、ハートの周囲に銃弾がばら撒かれる。
機関銃のけたたましい音が響き、会場が一気に銃声による地獄絵図となる。
銃弾の嵐に呑まれ、用意していた機関銃の弾薬が底を尽きる。
機銃による掃射で、壁がボロボロと崩れ外からの風が吹き抜ける。
立ち昇る煙幕が風によって薄れる中で、ハートがイスの上で掃射が終えるのを待っていた。
確かに機銃による銃弾の嵐に呑まれた。
それは、間違いない。だがしかし、ハートの足元から少し離れた位置に横に伸びる1筋の線があった。
その一線の手前の所で弾丸は全て、床に叩き落とされていた。
弾丸は、ハートに着弾どころか掠りもする事無く。背後、足元に弾かれていたのであった。
「傭兵共……終わりか?」
「――野郎共、畳み掛けろッ!!」
一人の号令に合わせて、多くの傭兵や暗殺者が一斉に襲い掛かる。
一人の胸ぐらを掴んだハートが、掴んだ相手を床に叩き付ける。
叩きつけた相手が隠し持っていた警棒を手にして、襲い掛かる刺客を次々と蹴散らす。
頭を狙って、警棒を力任せに叩き付ける。
根本から折れ曲がり、使えなくなった警棒を次の相手の眼前に投げて警棒を押し付ける様に顔を叩いた。
乾いた発砲音の様な打撃音が響き、男が後方へと吹き飛ばされた。
足元に積み重なる人の山から、次から次へと警棒やナイフなどの獲物を拾っては壊すのを幾度となく繰り返す。
最後の2人となった相手に、頭突きによる攻撃でよろけた隙に片方の敵を拳1つで黙らせる。
頭突きでよろけた相手が再びハートへと襲い掛かるまでの数秒間で、1人をボロ雑巾に変える。
暗器を手に、頭突きによる目眩を振ってから襲い掛かる。
だが、腹部の深くにめり込むハートの蹴りが、胃の内容物を吐き出させる。
体を前に折って、凄まじい痛みの腹部を抑える。
頭部が丁度ハートの眼前に見え、下顎をつま先で蹴り上げる。
体を一回転させ、ハートが床に体を打ち付けて跳ねた暗殺者の胸ぐらを掴んで、倒れた傭兵達を足蹴にする。
「さて、運動は終わりだな――」
視界の端で狼狽えるウォーロックをハートの紫色の瞳が標的として狙いを定める。
身の危険を感じて、ウォーロックが現時点で切れる。プランBの手札を切ってきた。
会場を飛び出して、待機していた騎士を総動員させた。最後まで抵抗し続ける覚悟を見せたウォーロックに対して、ハートも全力で相手をする。
通路から自分に向かって来る敵を前に、ハートの紫色に光る眼光に映ったが最後――宙を舞って天井に背中を打ち付ける。
真っ直ぐ――。ただ、真っ直ぐハートは突き進んだ。
真正面から迫る騎士へと一歩踏み込む。
ハートの視界に移る騎士達から見れば、ハートは化け物に映ったかもしれない。
質では劣るものの、人員を総動員したイシュルワの騎士――総合的魔力量で言えば、ハートは大きく劣る筈だった。
である筈なのに、ハートはたった一撃で前方から迫り来る騎士を蹴散らした。
速さ、腕力、武術、ずば抜けた戦闘センスでも無い。誰がどう見ても単純明快で、黒とはまた違ったベクトルの強さ――
魔力出力の異常なまでの高さ――。シンプル過ぎて、逆に恐ろしいほどのその力が牙を向いた。
魔力量が高ければ、必然的に出力も比例して増幅する。
膨大な魔力を巡らせる度に、その魔力に見合った出力の魔法が行使される。
その為、騎士にとって魔力とは《魔力総量》=《出力》と言う事になる。
つまり――ハートは、魔力量では劣るものの出力に関しては、黒と同等である。
故に、イシュルワの全軍を潰す事はハートにとっては、何一つ難しい事はない。
通路を抜け、扉と共に吹き飛ぶ騎士が意識を飛ばして倒れる。
「さて、次は……お前か?」
「あぁ、ウォーロック様の障害となり得る貴様を――私が、殺す」
他の騎士とは、見た目からして一際異なる男がハートに細剣の切先を向ける。
呼吸を整え、一歩踏み込み。ハートの間合いへと一瞬で侵入した男の切先がハートの眉間を捉えた。
が、魔力出力=強さである騎士にとって、高い戦闘能力は確かにポテンシャルとしては申し分無い。
だがしかし、それを容易く凌駕するのが《魔力出力》である。
「お前が、どれだけ速く動こうとも――俺は、その倍の速度を発揮する。残念だったな」
振り抜いた拳が、ハートの眼前から男の姿を消し去る。
床、天井、壁へと拳1つで飛び跳ねて行く。まるで、ボールがバウンドするように、男はハートから距離を離される。
口から血を吐いて、起き上がる。だが、無理矢理にでも起き上がっても体は言う事を聞かない。
膝から崩れ落ちて、壁に凭れ掛かる様にして倒れる。
イシュルワの偽物とは言え皇帝である筈の男がハートの一撃で倒される。
その事実に、騎士達の中で衝撃が走る。恐怖は、伝染し実力差に震え上がる。
「……次は、誰だ?」
ハートの紫色の瞳が、次の標的を探す。その瞳に移る相手が、腰から刀を振り抜く。
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