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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
子供達へ《Ⅱ》
しおりを挟む微かな物音に、ヘルツは目を覚ます。
最初は子供達のトイレの足音だと思った。しかし、足音にしては気配を消す際に生じる独特な間と音が聞こえた。
「……狙いは、私? まさか、子供達!?」
布団から飛び出して、子供達の眠る部屋へと向かって駆け出した。
しかし、道中に血を流して倒れるシスターを見付けて足が止まる。
腹部をナイフのような刃物で刺されている。意識はあれど、血の量が尋常ではない。
シスターの手当を手早く済ませようとするも、ヘルツの手を遮るのはシスターであった。
――子供達を、お願い。
今にも途切れそうなか細い声で、震えながら自分の身よりも子供の方を優先する。
ヘルツも彼女のそんな強い意識に突き動かされる。唇から血が滲む程に噛んで、その場から去っていく。
血の池に倒れるシスターが、朦朧とする意識の中でヘルツの遠くなる背中を見詰める。
「許さない……絶対に、許さないッ!!」
怒りに身を任せて、壁を蹴って闇夜に紛れる者達に自分の存在を知らせる。
視界は、暗く見えない。だが、音による反響音にて、大人と思われる高身長の動く物体を音で認識する。
手に持った刀の鞘を抜刀して、床を滑る様に移動して子供部屋へと向かった者達の間に割って入る。
「……シスターを刺したのはお前達か? 子供達を狙うのは、なぜだ――」
「……」
視界に見えるだけでも、侵入者は3人――
ガタイは大きくはなく。男性と思える動きや殺気の放ち方に苛立ちを覚えた。
そして、ヘルツの問いかけに一切答えない。当然とは言え当然の回答に思わず鼻で笑う。
まるで、教科書通りの流れにヘルツの怒りが頂点に達する。
「……簡単に、死ねると思うなよ?」
黒服の侵入者が左右に展開するよりも速く、正面の人物の体を頭頂部へと振り下ろした刀で叩き斬る。
両断され、鮮血が飛び散る中をヘルツは平然と駆け出した。
左右に散った所で、彼女の瞬間速度に対応は出来ない。
王の世代であれば、少なからずタイミングをズラして避ける事は可能である。
が、目の前の者達が王の世代とは思えない。――弱過ぎるからだ。
――ザッシュッ!!
上半身と下半身が離れ、絶命した者の顔を拝む。
絶望に染まった顔を見下ろして、その顔を刀で刻む。
残る1人が、屋根伝いから逃げるのを魔力で超強化した耳で補足する。
その場から飛び上がって、正面に背中を捉える。
距離はあれど、直線上に逃げる者の背中を視認して、刀を振るう。
まるで、ムチのように背後から放たれた魔力の打撃が、逃げる者の側面を容赦なく叩いた。
屋根から跳ねて落ちたのを確認してから、子供達の元へと急ぐ。
部屋のトビラを開けて、電気を点灯する。
眩しさから殆どの子供は起きてしまうが、一人一人の顔を見てヘルツが大きく息を吐いた。
そして、部屋に鍵を掛けて、シスターの元へと向かう。
血溜まりの上で倒れていた筈のシスターの姿は忽然と消えており、その代わりに見知った人物が光源を手にを持って現れた。
両腕と戦闘で受けた傷を完治した。橘黒が、ヘルツの前に現れる。
「嫌な。タイミングで、サイカイしたな」
「――お前が、クズ共をけしかけたのか……黒!」
「イヤ、違う。ただ、原因、はジブンだ――」
壁に凭れ掛かった黒の喉元に刃を押し付け、ヘルツの殺気に満ちた顔に黒が首謀者の名前を口にする。
――ウォーロック・ザムザイン――
その事で、ヘルツは完全にイシュルワに見切りを付けた。
どうすれば、ここは平和になる――
その問い掛けの答えに、黒が自分なりの答えで返答する。
だが、付け加えるように、必ずしも理想的な平和になる保証はないとも告げた。
だが、彼女にはどっちでも良かった。ただ、今よりも平和になるのであれば――それで、満足であった。
黒が手早く死体を片付けて、朝を迎えた教会の中で大きなバックやカバンを抱いている子供達を前に、ヘルツは丁寧に説明する。
シスターがお仕事で別の場所に居る事と教会では暮らせなくなった事を――
「えぇー、何で何で」
「シスター、いないよ……」
「カバン、重い」
「お姉ちゃんもいなくなるの?」
各々の思いを全て、ヘルツが受け止める。
この教会が狙われ、シスターも殺害されかけた。
現在は黒とその仲間で保護したとは言っても、完全に安全な訳では無い。
そして、ヘルツの弱点になり得る子供達を黒は保護する為に、今日中に場所を移動せざるを得なかった。
「さぁ、お姉ちゃんに挨拶しよう。お姉ちゃん、お仕事頑張ってねーって」
「「頑張ってねー」」
「「頑張ってっ!」」
各々の声援で、ヘルツと別れる。
中には泣き出して、ヘルツから離れたがらない子供も居た。
年長組が率先して、年少組をあやして手を引いて歩き出した。
ヘルツでも、黒を全く信用した訳では無い。
ただ、ウォーロックに目を付けられたのであれば話は別となる。
ウォーロック陣営、黒陣営の両者の争いになるのであれば黒の陣営に付いた方が子供達の為になる。
「どうか、子供達をお願いします……」
神頼みするように、顔の前で手を合わせる。
もはや、彼女に余裕はない。家族同然のシスターや子供達を殺されかけた。
もう、イシュルワの皇帝として戦う事は無い。
「先に、裏切ったのは――お前だぞ」
「えぇ、そうかもね……」
祈りを終えたヘルツの背後に、イシュルワの軍人が詰め寄る。
全員が武器を構えて、正面に立った男が軍刀を手にしてヘルツに殴り掛かる。
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