難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

文字の大きさ
166 / 231
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

子供達へ《Ⅱ》

しおりを挟む

  微かな物音に、ヘルツは目を覚ます。
  最初は子供達のトイレの足音だと思った。しかし、足音にしては気配を消す際に生じる独特な間と音が聞こえた。

  「……狙いは、私? まさか、子供達!?」

  布団から飛び出して、子供達の眠る部屋へと向かって駆け出した。
  しかし、道中に血を流して倒れるシスターを見付けて足が止まる。
  腹部をナイフのような刃物で刺されている。意識はあれど、血の量が尋常ではない。
  シスターの手当を手早く済ませようとするも、ヘルツの手を遮るのはシスターであった。

  ――子供達を、お願い。

  今にも途切れそうなか細い声で、震えながら自分の身よりも子供の方を優先する。
  ヘルツも彼女のそんな強い意識に突き動かされる。唇から血が滲む程に噛んで、その場から去っていく。
  血の池に倒れるシスターが、朦朧とする意識の中でヘルツの遠くなる背中を見詰める。

  「許さない……絶対に、許さないッ!!」

  怒りに身を任せて、壁を蹴って闇夜に紛れる者達に自分の存在を知らせる。
  視界は、暗く見えない。だが、音による反響音にて、大人と思われる高身長の動く物体を音で認識する。
  手に持った刀の鞘を抜刀して、床を滑る様に移動して子供部屋へと向かった者達の間に割って入る。

  「……シスターを刺したのはお前達か? 子供達を狙うのは、なぜだ――」
  「……」

  視界に見えるだけでも、侵入者は3人――

  ガタイは大きくはなく。男性と思える動きや殺気の放ち方に苛立ちを覚えた。
  そして、ヘルツの問いかけに一切答えない。当然とは言え当然の回答に思わず鼻で笑う。
  まるで、教科書通りの流れにヘルツの怒りが頂点に達する。

  「……簡単に、死ねると思うなよ?」

  黒服の侵入者が左右に展開するよりも速く、正面の人物の体を頭頂部へと振り下ろした刀で叩き斬る。
  両断され、鮮血が飛び散る中をヘルツは平然と駆け出した。
  左右に散った所で、彼女の瞬間速度に対応は出来ない。
  王の世代であれば、少なからずタイミングをズラして避ける事は可能である。
  が、目の前の者達が王の世代とは思えない。――弱過ぎるからだ。

  ――ザッシュッ!!

  上半身と下半身が離れ、絶命した者の顔を拝む。
  絶望に染まった顔を見下ろして、その顔を刀で刻む。
  残る1人が、屋根伝いから逃げるのを魔力で超強化した耳で補足する。
  その場から飛び上がって、正面に背中を捉える。
  距離はあれど、直線上に逃げる者の背中を視認して、刀を振るう。
  まるで、ムチのように背後から放たれた魔力の打撃が、逃げる者の側面を容赦なく叩いた。
  屋根から跳ねて落ちたのを確認してから、子供達の元へと急ぐ。
  部屋のトビラを開けて、電気を点灯する。
  眩しさから殆どの子供は起きてしまうが、一人一人の顔を見てヘルツが大きく息を吐いた。
  そして、部屋に鍵を掛けて、シスターの元へと向かう。
  血溜まりの上で倒れていた筈のシスターの姿は忽然と消えており、その代わりに見知った人物が光源を手にを持って現れた。

  両腕と戦闘で受けた傷を完治した。橘黒が、ヘルツの前に現れる。

  「嫌な。タイミングで、サイカイしたな」
  「――お前が、クズ共をけしかけたのか……黒!」
  「イヤ、違う。ただ、原因、はジブンだ――」

  壁に凭れ掛かった黒の喉元に刃を押し付け、ヘルツの殺気に満ちた顔に黒が首謀者の名前を口にする。

  ――ウォーロック・ザムザイン――

  その事で、ヘルツは完全にイシュルワに見切りを付けた。

  どうすれば、ここは平和になる――

  その問い掛けの答えに、黒が自分なりの答えで返答する。
  だが、付け加えるように、必ずしも理想的な平和になる保証はないとも告げた。
  だが、彼女にはどっちでも良かった。ただ、今よりも平和になるのであれば――それで、満足であった。







  黒が手早く死体を片付けて、朝を迎えた教会の中で大きなバックやカバンを抱いている子供達を前に、ヘルツは丁寧に説明する。
  シスターがお仕事で別の場所に居る事と教会では暮らせなくなった事を――

  「えぇー、何で何で」
  「シスター、いないよ……」
  「カバン、重い」
  「お姉ちゃんもいなくなるの?」

  各々の思いを全て、ヘルツが受け止める。
  この教会が狙われ、シスターも殺害されかけた。
  現在は黒とその仲間で保護したとは言っても、完全に安全な訳では無い。
  そして、ヘルツの弱点になり得る子供達を黒は保護する為に、今日中に場所を移動せざるを得なかった。

  「さぁ、お姉ちゃんに挨拶しよう。お姉ちゃん、お仕事頑張ってねーって」
  「「頑張ってねー」」
  「「頑張ってっ!」」

  各々の声援で、ヘルツと別れる。
  中には泣き出して、ヘルツから離れたがらない子供も居た。
  年長組が率先して、年少組をあやして手を引いて歩き出した。
  ヘルツでも、黒を全く信用した訳では無い。
  ただ、ウォーロックに目を付けられたのであれば話は別となる。
  ウォーロック陣営、黒陣営の両者の争いになるのであれば黒の陣営に付いた方が子供達の為になる。

  「どうか、子供達をお願いします……」

  神頼みするように、顔の前で手を合わせる。
  もはや、彼女に余裕はない。家族同然のシスターや子供達を殺されかけた。
  もう、イシュルワの皇帝として戦う事は無い。

  「先に、裏切ったのは――お前だぞ」
  「えぇ、そうかもね……」

  祈りを終えたヘルツの背後に、イシュルワの軍人が詰め寄る。
  全員が武器を構えて、正面に立った男が軍刀を手にしてヘルツに殴り掛かる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...