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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
子供達へ《Ⅰ》
しおりを挟む朝起きて、コーヒーなど飲むこと無く。私服に着替えたヘルツが向かうのは、下層部であった。
ウォーロックによる下層部の大捜索から2日と過ぎた今日――
久し振りの休暇を満喫する為に、お店でお菓子などを大量に購入する。
旅行カバンにお菓子をこれでもかと詰めて、笑みを浮かべた子供達の喜ぶ顔を想像して自然と頬が緩む。
旅行カバンを2つを引きながら、下層部へと向かう唯一の大型エレベーターで下へと向かう。
細かな手続きもこの日の為であれば苦ではない。慣れた手つきで、必要事項に目を通してサインする。
軍人の面倒な質問をクリアして、ヘルツの気分はさらに向上する。
自然と鼻歌とスキップが出て、大量のお菓子を前に大はしゃぎな子供達との触れ合いが彼女の唯一の癒やしである。
下層と上層を繋ぐエレベーターの周りは、下層部であってもまだ綺麗で治安も他に比べるとマシな方である。
単純に、王の世代でありながら上層で活動するヘルツなどの皇帝が行き来する場所であるからである。
そして、上層で兵士として活動する下層出身の軍人の親族が自然と集まる場所でもある。
エレベーターで下層部へと降りて、開かれたゲートから向こう側へと降りる。
ルンルン――と、見るからに上機嫌な彼女が向かったのは大きな教会――
「おはようございます……シスター? いますか?」
「まぁ、ヘルツ――元気ですか? さぁ、奥で子供達が待っていますよ」
「えぇ、フフッ――みんな元気かな?」
シスター服の若いシスターが、ヘルツの来訪に喜ぶ。
そんなシスターに案内され、教会の食堂では多くの子供達がヘルツの来訪を待ち望んでいた。
実に約1ヶ月ぶりの子供達の笑顔に、ヘルツの顔がふにゃふにゃに緩む。
「何して、遊ぼうか?」
ヘルツの言葉を合図に、大勢の子供達と外で走り回る。
笑い声が朝の下層部に響き渡り、暗く淀んだ空気を浄化するかのような彼女達の笑みと声が聞こえて来る。
その事に、エレベーターの管理を任された数人の軍人が嫌な顔をする。
「また、ガキ共と遊んでやがる……」
「俺らとも遊んで欲しいな。なぁ?」
「夜から朝にかけて、たっぷりと……てな」
3人の軍人が下世話な話で盛り上がる最中、1人の軍人が束になった顧客リストを片手にヘルツを見ている。
正確には、ヘルツが遊ぶ――子供達の方ではあるが。
「おい、新入り……あんま見るな。殺気に気付いて、後で脅されるぞ」
「えぇ、分かってます。ただ、どんな顔をするのか……見たくて」
「……怖っ、気色悪い趣味してんな。お前、友達いねーだろ」
3人の軍人が日々の愚痴を溢しながら、各自の仕事に取り掛かる。
休日だと言うのに呼び出され、ヘルツの監視と並行してエレベーターの管理を任せている。
1人を除いて、イヤイヤこの仕事を日々続けている。
「……今度は、あの子だな」
新入りが顧客リストに記載された特徴と何か所から一致する子供を写真で記録する。
後から、リストと照合する際の情報として残す為に――
――シスターが、お茶を入れて子供達がヘルツから一人一人丁寧に手渡しされたお菓子に大はしゃぎの中で終始笑みを浮かべている。
「ヘルツ、アナタは上でもやって行けてますか?」
「えぇ、もちろんよ。シスターが心配する事は無いわよ。それよりも、私はシスターと子供達の方が心配よ」
「……大丈夫よ。何もされてないし、何もしてこないわよ。ヘルツが、守ってくれてるから――」
シスターがヘルツの頬に触れ、まるで愛しい我が子を見るかのように細い目で彼女の顔を見詰める。
その細い指先は、僅かなキズとアザのような物が見えた事にヘルツは気付いていた。
「……何も、ないんだよね? ホントに、ホント?」
「フフッ、心配性なのは昔からよね。大丈夫、子供達も里親が見つかって、多くの子供達が他国に亡命しているわ……ホントに、アナタのおかげよ。ありがとう、ヘルツ」
「止めてよ。面と向かって、照れるから……」
ヘルツがカップの飲み物を手に、外で元気に遊ぶ子供達を眺めながら微笑む。
幸せな時間というのは、あっという間に過ぎてしまう。ヘルツが子供達と接する事ができるのは、数ヶ月に一回の2日と数日と極めて少ない。
それ故、彼女は自分が出来得るありとあらゆる融通を彼女達に与えた。
給料は当然として、上で手に入れた貴重品や衣服などを率先して彼女達へと回す。
当然のように、その事をよく思わない者達も存在する。だが、その逆の者達も存在する。
ヘルツと同じく、下層出身の者達が連携して家族の身の安全を守る。
下層部というだけで、攻撃の対象である子供や家族を守る為に、ヘルツは苦痛にも耐え続ける事が出来た。
そんな平和もいつかは終りが来る。
暗闇で仕事着に着替えた男が、獲物を狙う獣のように教会を見る。
「さて、仕事を始めようか――」
男達が真っ黒な服装に身を包み、闇に紛れる。
きっと、こんな平和も続いた筈だ。下層滞在最終日の真夜中に、事件さえ起きなければ――
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