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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
内通者への制裁《Ⅱ》
しおりを挟むウォーロックの前に、ボロボロのヘルツが招かれた。
ボロボロとは言っても、殴り掛かり、襲い掛かって来た軍人はその場でヘルツによって切り捨てられた。
「……私の信用を、裏切るつもりかな?」
「裏切ったつもりはないわよ。それとも、ティンバーのように――密会していた証拠でもあるの?」
「……」
黙り込んだウォーロックに対して、鮮血がこびり付いた刀を振って、血を払う。
肩を震わせて、自身に向けられる殺気に怯えるウォーロックへと、殺気のこもった瞳を向ける。
「私は、黒竜帝に深手を負わせた……その報酬に子供達に手を出さない約束だった筈だ。……先に裏切ったのは、誰だ?」
「……」
「言葉を交わさないのであれば、その口は不要だろ」
ヘルツの抜刀術によって、ウォーロックのボディガードが斬り捨てられる。
ヘルツの後方に2人、ウォーロックの両サイドに2人の計4人が一瞬で斬り捨てられる。
部屋のシャンデリアや壁に掛けてある名画が切り裂かれる。
ソファーに座るウォーロックに剣先を向け、その冷え切った冷酷な瞳がウォーロックを睨む。
「次、子供達やシスターに手を出して見ろ……殺す」
部屋を後にしたヘルツの気配が消え、震えが止まった後に再び震えが生じる。
死に対する恐怖からの震えではなく。狼藉に対する怒りから震えが、ウォーロックの怒りを増長させる。
杖で物を破壊して、部屋の窓を叩き壊す。
「……私を、甘く見るなよ……子娘が――ッ!!」
その怒号が、ヘルツの耳には届く事は無い。
だが、ウォーロックはヘルツの弱点を既に知っている。例え、殺されそうになったとしても、彼女は自分の命じるままに動くしか無い――
「ウォーロック様、実験の第一段階が終了致しました」
部屋の扉をノックする人物がウォーロックの返事を待たずして、部屋へと入る。
イラ立ち、普通であれば入室の礼儀を弁えないこの者を切り捨てる所である。
だが、彼が研究者だと分かると、冷静になるように息を整えた。
「ふぅ……さて、聞こうか」
「はい……。炉の1番と2番が機能を停止し、残りの3番以降が出力の安定に成功しました。この結果を元に、炉の再調整を実施致します。……コレで、永久炉の完成も近いかと――」
ウォーロックの不敵な笑みを見て、研究者は笑みと共に重要書類を置いて深々と頭を下げる。
多くの皇帝、大公クラスの騎士を失った。手駒を減らされ、邪魔な侵入者は誰一人として仕留めていない。
この状況は、ウォーロックのストレスを増加させる。だが、先程の研究者の報告によって、これまで積み重なっていたストレスが一気に消える。
「もはや、皇帝など不要……虫けらには、虫けらなりの最後がお似合いよ――」
手に待った書類には、数多くの孤児の子供達の顔と名前――事細かに記されたデータが記載されている。
そして、彼らが最後にはどうなったかも――
この先の展開を予想して、その上でウォーロックは自分の動きを脳内で構築する。
滅多な事がない限り、自分の喉元に刃が突き付けられる訳は無い。
手元の駒には、裏切った《ティンバー》や薄々裏切る可能性が高い《ヘルツ》――
例え、この2つを失ったとしても、今現在の自分には切り札と言える最強の駒がある。
決して裏切らない存在――
否、決して裏切れないと言った方が表現としては正しい。
そんな《田村》、《斑鳩》の2名の駒に加えて、完成間近の永久炉を用いた兵器――
もはや、並の騎士など敵ではない。ゆくゆくは、皇帝達も凌駕する存在となる。
そうなれば、周辺国家への牽制に利用できる。牽制とは言っても、そもそもまともに戦う国家など存在しない。
「……イイぞ。イイぞッ!! 私が、最強となるのだ。否、私こそが――世界最強だッ!!」
一人、昂る高揚感を抑えれず。部屋の外へと聞こえる笑い声を響かせる。
部屋の扉がノックされ、ウォーロックの返事の後に入室した者の無様な姿を見て、堪え切れずに口角を釣り上げる。
全身ボロボロで、一人で立ち上がる事すら難しいレベルで叩きのめされたかつての皇帝の無様な姿――
可能であれば、写真に収めてその醜態を世間に広めたい程である。
「ふーむ……この私に、逆らったらどうなるのか。身を以て理解したのではないか?」
「……」
「口が聞けぬほどに、こっ酷くやられたようだな――檻に入れておけ……その後は、そうだな。炉へ入れよう」
ウォーロックの笑い声を隣で聞いていた包帯の男――《エドワード》は、ウォーロックの興奮した長話を退屈そうに聞いた後に部屋を後にする。
ウォーロックの計画の全貌を知るのは、エドワードと限られた研究者達だけである。
そして、エドワードの計画の中で、ティンバーもヘルツはこの先の展開を決める分岐点である。
「はてはてはて、黒、ハートが満足に動けない今は――私が動くしか無い。まったく、面倒だ……」
後の激戦を考慮して、カラスのような仮面をクラトのメイドから受け取る。
一時凌ぎ目的であった包帯を取って、仮面で顔を隠す事とした
「さぁ……黒、ハート。この国の結末を決めるのは、お前達皇帝だぞ――」
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