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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

激震轟く《Ⅰ》

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  現在の下層部には、多くの武装したイシュルワ軍が動いていた。
  この状況下で、行動する事は不可能に近い。

  ――ティンバーは、内通者として檻へと入れられた。
  ――ヘルツは、子供達とシスター。孤児院を盾にされ従うしか無い。
  ――田村、斑鳩の2名もまた同様の内容で、イシュルワに反旗を翻す事が叶わない。
  ――下層部で身を潜めている黒は、まともに動ける状態ではない。
  下層部の状況改善に魔力を行使して、体力の回復に努めているからと予想される。

  そうなれば、下層部と上層部共に動ける人物は、必然的にこの2人だけとなる。

  「ローグ、下層部で黒と合流しろ……もう時間は少ないと思うがな」
  「その時間ってのは、ウォーロックが本気で動くまでの時間か?」
  「あぁ、黒と合流すれば……もしかしたら、ヘルツだけでもこっちに引き込めるかもしれない。ティンバーは、あの包帯野郎に捕まったからな――」

  建物の上空を駆ける2人の前に、黒スーツ姿の男が視界に入る。
  建物の上空で、ハートが急に立ち止まる。
  その後ろを付いていたローグも、僅かに反応が遅れるもハート同様に停止する。

   ――どう見える。

  耳元で、仮面の男の事に付いて尋ねるも、ハートの口からは下層部へと降りろの一言だけであった。
  ローグが空中で力一杯空気を蹴って、下層部への入り口へと単身向かう。
  その後ろ姿を見送る仮面の男とハートは対峙する。

  「追わないんだな……」
  「……追って、ほしいのか?」

  カラスのような仮面で顔を隠してはいるが、その内側から漏れ出る魔力の質からティンバーを仕留めた男だとハッキリと分かる。
  建物へと降りて、ハートが呼吸を整える。
  一歩、一歩、ゆっくりとだが、確実に男との間合いを詰めていく。
  男もまたそんなハートの一挙手一投足を警戒しつつも、ハートの挑戦を真っ向から受ける。

  ――両者の間合いに、互いが踏み入る。

  まず先に、抜いたのは仮面の男――。だが、ハートには動きが読めていた。
  間合いに入ってから、約0.2秒で繰り出された渾身の貫手をハートは同レベルの貫手で相殺する。
  だけに留まらず――。男が僅かに後方へと下がるのを予測して、間髪入れずに脇腹へと蹴りを叩き込む。
  相手の脇腹から骨の軋む音が聞こえ、瞬時に魔力による防御と強化が施されたのを理解する。


  その上で、もう1段階ギアを上げた――


  男の体が僅かに浮き上がる。足が地面から離れ、気が付けば隣の建物の壁を貫いてさらにその奥の建物の内部で血を吐いて倒れていた。
  会議などに使われる大テーブルや椅子などがクッションとなって、勢いが殺された。
  もしも、建物2つの間にクッションが何一つ無ければもう一度建物を貫いて外へと出ていた。
  そうなれば、建物の影へと回ったハートの追撃を防ぐ事が出来ずに――終わっていた。

  「……流石に、堪えたぞ。王の世代、トップは伊達ではないな……はてはて――」

  木材を蹴って、頭上から建物諸とも押し潰しに掛かったハートの前から姿を消す。
  その為に、建物を押し潰した際に発生した砂塵を利用して、自分の姿を消す。
  ハートが拳へと魔力を込め、地面すれすれを滑るような低姿勢から振り上げられた殴打が砂塵を込めた魔力と共にすべてを吹き飛ばす。
  周囲の建物の窓ガラスが割れ、辺から人の悲鳴と建物が倒壊する音と建物に亀裂が生じる音が響く。

  「侵入者だッ――!!」

  イシュルワの軍隊が出動し、ハートを取り囲む。
  だが、誰一人として動けない。
  背中越しにも伝わる。圧倒的な威圧と魔力を前に、誰一人その先に踏み込めない。
  その先の領域は、自分達の踏み込める領域ステージではない。

  ――本能がそう告げている。

  吹き飛ばされた砂塵の中へと仮面の男は消えた。
  だが、姿が見えない。まして言えば、魔力の欠片も感知できない。
  それは、ハートが魔力頼りの戦いに慣れてしまっている事を告げており、そんな弱点を狙ってハートの背後を取った。

  「魔力に……頼り過ぎなんだよ――」

  肩に突き刺された刃物が、斜めにハートの背中を切り裂いた。

  鮮血が噴き出し、脇腹に透かさず刃物を深く突き刺す。背中を切り裂かれ、脇腹に深く突き刺さる刃物――
  戦場では、僅かな隙があるだけで形成は逆転する。今回のように、ハートが魔力に頼り過ぎていた事を逆手に取られる。

  相手が魔力だけでなく。視覚、聴覚、嗅覚、様々な感覚を以てして戦場を歩く者であったがゆえの敗北――

  魔力を抑えて、足音を消して、気配を完全に断った。

  そうして手に入れた完全とまで言えるステルス状態で、ハートの最後を刃物で切り裂いた。
  しかし、この程度・・・・で倒される雑魚であれば、黒の隣で悪魔や化物・・・・・などと呼ばれてはいない。

  「……当然、立ち上がる――よな……」

  脇腹深くに突き刺さった刃物を抜いて、抜くと同時に傷口が湯気と共に治療される。
  魔力を用いた治療魔法で、傷を負った肉体が時間を掛けて治癒される。
  黒のように、他者を治療する事は出来なくとも自分自身は治療する事がハートも出来た。

  だが、あのレベル神業のような技術の肉体蘇生はデタラメなほどに膨大な魔力があっての芸当である。
  魔力量が普通の人間からすれば、精々1度使えるか使えないか――。つまり、今のハートは魔力切れ寸前と言う事でもあった。

  「……はて、少し腕が落ちた様だな――ッ!?」
  「な訳ねーだろ……エドワード・・・・・――」

  間合いを詰める動き合わせて、ハートの拳が事を急いだエドワードの顔を全力で叩く。
  漆黒の稲妻が弾け、仮面が砕けると共に体が仰け反ったエドワードの背面へとハートが回る。
  腰を落とし、一撃目よりも力を込めた二撃目の漆黒の稲妻を纏った拳が炸裂する。
  前方の建物へと飛ばされ、壁を破壊して内装をグチャグチャにしながらボールのように跳ね回る。
  そのまま全身を打ち付けて、ぐったりと壊れた家具の上で倒れる。

  建物の内部へと、ハートが足を踏み入れる。
  ボロボロになった内部に、穴だらけの床や天井を見回しながら、目的の人物の隣に立っている。

  ハートが、一撃目を当てる際にカウンターで貰った攻撃で口の中が血の味で満たされる。
  口内の血液を吐き出して、口元を拭う。

  「……直前で、カウンターかよ。イカれてんな……」
  「そういう……お前は、魔力切れと言う最大の弱点を餌に……ブッ!! 治療後に、全力の漆黒でお出迎えか……」

  壊れた家具のベッドの上で、砕けた仮面を捨ててスペアの仮面で顔を再び隠す。
  口元は血を吐いたのか、赤く濡れている。
  互いに内蔵にある程度のダメージを残しながら、魔力による治療を施している。

  ――互いに五分な状態で、第2ラウンドへと入る。

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