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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
砕け散る前に
しおりを挟む「やぁ、元気かな?」
クラトの呼び掛けに、暗闇の向こう側で横たわっていた人物が僅かに反応する。
傷が癒えていないのか、動きは遅く。以前のような面影は存在しない。
――手酷くやられた。
印象としては申し分ない。コンクリートの床で横たわるその者を見下ろしながら、クラトは不敵に微笑んだ。
「計画通りに事が運ぶと、気分が良いですよね」
「……」
「無反応、ですか……仲良くは、出来ないみたいですね」
牢屋の向こう側からは沈黙が帰って来るだけで、クラトとは一言も会話を楽しむつもりは無い姿勢を示す。
彼のそんな態度は、初めから予想できていた。
ただ、予想できていたのと現実になるのでは、思っていた冷たさに差があった。
これまで多くの人物と対話して、コチラ側の優位な場面を整えて来た。
が、ここまで自分達を信用していないのは、暁以来であった。
「……《エドワード》と《ハート》が、戦いを始めた。これによって、ウォーロックは本格的に黒竜帝を仕留めに掛かる。当然、相手は《ヘルツ》さんだ――」
「……」
「ティンバーさんには、このままこの檻で待機していて貰います。きっと、プレゼントがここに入れられますから……その後は、お好きにして下さい」
「……」
その場を後にするクラトが、暗闇から姿を現した暁と目を合わせる。
殺意は無いが、到底味方に向けるべき眼光はしていない。
足早にその場を後にし、暁は檻の中で沈黙を貫くティンバーに話し掛ける。
「ティンバーさん。……ヘルツちゃんと黒ちゃんの命運は、アナタに掛かっている――」
「分かってるわ……だから、失敗は許されない。誰かが、死ぬのであれば――私の後よ。絶対にね」
暁がお辞儀して、その場を後にする。
一人残された暗闇の中で、ティンバーは力を貯める。
この後の自分の役目を脳裏に焼き付け、計画の実行が勝負の命運を分ける。
2人の命を自分が握っている。その事に、ティンバーは自分の中の黒い感情を押し殺す。
「私が……守る」
ヘルツ、田村、斑鳩、3人がイシュルワに席を置いて間もなく。
イシュルワの支配者が代替わりし、3人の生活は一変した。
学生の身でありながら、既に皇帝の称号を手にする事を条件に生かされていた。
家族。大切な存在を人質に、3人は心の何処かで暗闇を抱えていた。
だから、放って置けなかった。何かに付けて、彼女達3人をセットにして、色々と無理難題で無茶ブリした。
大勢の仲間に囲まれている間だけは、3人共少しだけが笑っていた。
学生としての自分に出来る事は少ない。だから、イシュルワに属する事で内側から変化をもたらしたかった。
が、結局は何もできやしない――
皇帝であっても、国や世界に影響与えるほどの《皇帝として器》や《圧倒的な力》も持ち得ない。
ただの騎士には、何も変えれなかった。
「……だから、乗ったのかしらね」
思わず、口が緩む。
誰も居やしないこの場所で、自分のこれまでの過ちを見つめ直す。
助けると息巻いて、何一つ成し得ずにズルズルと時間だけが無駄に過ぎ去って行く。
ヘルツの家族同然の大切な子供達――。それすらも守れはしない。
田村、斑鳩の家族にもウォーロックの手が及んで、2人に至ってはヘルツのような強い態度で抗う事はできない。
――結局、何もできずに時間だけを浪費した。
だが、このチャンスを目の前に、立ち上がれないほどに落ちぶれたつもりは無かった。
イシュルワの闇には、クラトが関わっている。だが、その裏には多くの同士がいる。
暁、エドワード、ハート――王の世代でもトップレベルの彼らとらば、この闇にも対抗できる。
「後は、私が内側から破壊する――」
ティンバーが入れられた檻の前を複数人の兵士が横切る。
まるで、待っていたとばかりに目的の人物もそこに入られた。
奥の檻へと入れられ、仕事が済んだと油断した兵士の前にティンバーは近付く。
檻の鍵は、前もってクラトが開けていた。
手には、クラトが用意した予備の檻の鍵が握られている。
「さて、ここからが反撃の時間よ――」
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