難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

黒VSヘルツ《Ⅰ》

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  巨大なレーザーが下層部の天井を貫いた。
  地面を焼き溶かして、空へと登る漆黒の魔力砲が雲を吹き飛ばして、空よりも高い場所で弾ける。
  音は遠くから遅れて聞こえ、爆風がイシュルワを揺らした。

  「……チッ、外した――」
  『――避けろッ、宿主マスターッ!!』

  バハムートの声が脳内で響き、その言葉通りに体が反射的に動いた。
  首を切り裂くに値する一閃がヘルツの手から放たれ、その反動に耐え切れずに手に持った刀身が根本から砕ける。
  その事に舌打ちするヘルツ、魔力を巡らせた刀剣がたった一振りで使い物にならなくなる。武器の耐久性を無視して、異常な魔力を刀身に纏わせている。

  それは、黒の脳内から防御の選択肢が消えるレベルの脅威である――

  ハートに、劣らないレベルの出力で黒へと襲い掛かる。
  砕けた刀を投げ捨て、地面の板材を蹴り飛ばして、足元から別の刀を取り出す。
  周辺の瓦礫の下や建物の影に誰かが前もって隠していたのか、刀や剣などの武器が至る所に置かれていた。

  それが、広場を囲んでた兵士の役目か――

  てっきり、自分やヘルツが逃げ出さない為の監視とばかりに思っていた広場を囲む兵士達。
  が、実際は、この様にアチラコチラに武器を隠してヘルツの全力戦闘を支援する為であった。
  段取り良く計画が積み上げられている。
  だが、武器を用意しておくと言う事は、場所さえ分かれば黒でも扱えると言う事でもある。

  ヘルツが攻撃の度に刀剣を砕いて、鬼気迫る勢いで黒へと猛襲する。
  が、黒とて負ける訳にはいかない。
  瓦礫の下敷きとなっている刀剣を手に取って、ヘルツの拾い上げた太刀と鍔迫り合いへと持ち込む。

  「――1人で、抱えても上手くは行かねーぞ……」
  「うるさいッ!! お前達を少しでも頼って、心に隙を生んだ私の落ち度だ! なら、もう……誰も頼らない。私1人の手で……みんなを守る!!」

  魔物は、宿主の心に呼応する。

  より強い意志覚悟は、より強い呼応を呼び覚ます。
  鍔迫り合いの最中、黒の目に映っているヘルツの魔力が凄まじいレベルで急上昇する。
  危ういと判断した黒が、鍔迫り合いから逃げる。――だが、ヘルツは黒を自分の間合いから決して逃さない。

  「アウレティク――!!」

  飛び退いて逃げる黒に合わせるのは、鎧を身に纏った――魔物ギフト
  宿主であるヘルツの思いに呼応し、以前にも数倍に増した速力と力で、黒の体を一太刀で切り裂いた。

  左肩から、体を斜めに切り裂かれる。

  吹き出す鮮血に、思わず顔が歪む――

  膝を折って、その場で力が抜けた黒が座り込む。
  そこで勝利を核心して、油断するそこら辺の雑魚とはヘルツは違う。

  例え、致命傷を与えたとしても、ヘルツは黒のゴキブリ並の生命力と諦めの悪さを心得ていた。
  故に、片腕と言うハンデの中でも、黒の瞳に覚悟の炎は灯っていた。
  そんな黒が、たった一刀如きで倒れる訳がなかった。

  「くッ……!!」

  押し切れると一歩踏み込むも、直ぐに踏み止まる。

  異様なまでに、黒の間合いに《恐怖》する。不思議と一歩が踏み込めない。
  踏み込んで、頭に刀を振り下ろせば決着がつくのに――踏み込めば、コチラが殺られる。
  やはり、油断出来ない――

  「……退いて、正解だ」

  黒の体に隠れて、手に持った短刀がヘルツの視界に飛び込む。
  あのまま不用意に踏み込めば、手に持った短刀で首を切り裂かれていた。
  取りに来た筈の自分が手堅いしっぺ返しを食らう。
  特に、黒のような歴戦の猛者であれば――相手の隙を作る為に、自らを犠牲にする事は厭わない。

  「……クソ野郎」
  「1人で、十分……って言ってたよな? どこがだよ?」
  「何だと……」
  「ビフトロで、顔を合わせた時の迫力も……覚悟も感じられない」
  「黙れ……」
  「大切な人達を守る――だったか、その様で……か?」
  「黙れ、黙れ! 黙れぇぇッ――!!」

  ヘルツの魔力がさらにもう1段階跳ね上がる。
  振り上げた刀剣に亀裂が生まれ、黒に叩き付けると同時に弾ける。
  破片が皮膚や服を切り裂いて、次々と刀剣を手にするヘルツの猛攻を黒は涼しい顔で弾き続ける。

  「何かを守るには、それ相応の覚悟が必要だ……俺も、死ぬほど味わった――」
  「それがホントなら、私の覚悟が足りなかったって――お前は、そう言いたいのか――ッ!!」
  「……あぁ、大切な人達を守る為に、それ以外を捨て去る。――そんな覚悟が、お前には足りてなかった。……かもな」

  再び鍔迫り合いに持ち込み、憤怒その物となったヘルツの顔を見て黒も少しずつだが、感情を抑えきれなくなる。

  「捨て去る覚悟が……足りなかった。大切な者達を守って、それ以外を捨てろ!! そんくらいの覚悟ぐらい、してみやがれ――ッ!!」
  「ッぅ!! ……大勢の人を、誰かの命を犠牲にして、私の大切な人達だけを守れって言いたいのか!! 橘黒ッ!!」
  「――そうだ!! お前は、自分の守りたい物だけを見てれば良かった!! 見えない暗闇の中を苦しみながらも、自分の選択によって負った痛みを背負ってでも、その事だけに目を向けてれば良かったんだよ!!」

  ――ヘルツが、徐々に押し返される。

  砕けた刀を捨てて、数歩後ろへと退く。

  唇を噛み締めて、指先を黒へと向けた。
  研ぎ澄ました漆黒の魔力を指先に集め、極限まで凝縮して放つ《魔力の指向放出》――

  指先によって、瞬時に方向転換が可能なこの技をこの場で使用してきた。

  その事に、黒は目を疑った――

  その理由は、ヘルツが自分に勝負を仕掛けてきたからであった。

  この《魔力砲》と称される魔力戦闘技術の中に、指向放出と呼ばれる指先で放出する方向を示すと言う技術があった。
  ただ、向きを定めるだけと思われたこの技術だったが、もう一つの利点があった。
  それが、極限・・まで魔力を圧縮できる事であった。

  単純な魔力の凝縮では、不可能な領域でも指先などの一点に集める事で、更に圧縮する事が可能となる。
  学生時代、魔力の多かった黒はその技術の応用に時間を割いた。
  だが、結果――失敗に終り、応用は殆ど叶わなかった。
  しかし、その結果、魔力砲の技術は王の世代でもトップレベルにまで至った。

  ――そんな黒に、魔力砲で勝負を挑んだ。

  「……バカ、じゃねーよな?」
  「……黙って、撃って来い」

  ヘルツの魔力砲が黒へと放たれる。
  しかし、黒もまた指先に魔力を集めて放った。


  ズッッドゥゥゥンンンンンッッ――!!!!


  両者の魔力砲が相殺され、凄まじい魔力の余波と衝撃波が下層部を揺らした。
  所々、天井の岩盤が崩れては、トタン住居へと落ちる。
  下層部と上層部を繋ぐ人工の地面が崩れる。
  上層部の建物が下層部への流れ、上層部では混乱が大きくなる。
  逃げ惑う者達、イシュルワから逃げようと国を捨てる者達――
  様々な人間がこのイシュルワと言う病巣に、バイキンのように住み着いている。


  ――他人の利益を奪ってでも、自己の利益に繋げる。


  このイシュルワで、救うべき人間は決まっている。
  ウォーロックのように、他人の命を踏み台に今の地位を勝ち取ったクズ共――
  下層部へと押し込まれ、地獄のような日々を強いられた搾取された者達――

  そんな者達であっても、ヘルツには平等であった。

  善行悪行――。ヘルツには、一切関係はない。
  自分の大切な者達の為に、その為大勢の人生を奪う事など出来はしない。
  例え、許されない悪人であっても――それを理由に、奪う事はできない。

  ――彼女は、優しい。そうとも言える。

  だが、それは――争いが少ない世界での評価である。
  ここでは、彼女の評価は全くの別である。


  ――甘ったれた理想論者・・・・・・・・・



  「……お前ヘルツに足りなかったのは、他人を踏み台にしてでも目的を果たす。そんな覚悟腐った理想だ――」



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