難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

黒VSヘルツ《Ⅱ》

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  この国は、上層部で生活する人間の約9割が他人の利益を奪って生きている。

  真っ当な人間ほど、損をする――

  他人の利益を奪ってでも、自己の利益に繋げる。
  そんな彼らが築いたこの忌まわしき機械の国家を黒は――破壊する。

  失った片腕を再生させ、ヘルツが動くよりも先に拳を叩き込む。
  魔力によって生じた衝撃波が、炸裂音のような音を響かせてヘルツにダメージを与える。
  両足が地面から僅かに離れ、離れた瞬間を狙って黒の2撃目が再び炸裂する。

  「……両の手で、救える人の数や守れる数には限度がある。その限界を越えて、欲をかいて手を伸ばせば――溢れる」
  「……何が、言いたいのよ」
  「自分1人の力じゃ限界何だよ……誰かを頼れ」
  「頼った先に、何がある!!」

  間合いを詰め、捻りを加えた蹴りを前に黒が魔力を纏った腕で蹴りを防ぐ。
  透かさず、黒の腕を蹴って頭上へと飛び上がるヘルツを見上げた黒のガラ空きの胴体に打撃攻撃が刺さる。
  魔力の炸裂、軋む骨と衝撃で揺れ動く肉体――
  戦闘経験が豊富な黒ですら、一瞬の出来事に困惑する。

  「……魔法による感覚操作。お前が得意な《魔法》で、感覚を狂わせた」
  「なるほど……。別に、特別な力じゃねーんだ。……誰でも、使えるよな」

  フラフラと後退する。そして感覚がおかしくなった黒では、ヘルツの姿は捕捉出来ない。
  視界に映るヘルツの姿が、本物のなのか偽物なのか。数秒遅れて脳が動きを認識する。
  はたまた、全くの別人なのかヘルツなのかも認識できない――そうなれば当然、反応など出来る訳がない。


  ババババババババッッッ――!!


  鮮血が地面を濡らし、ヘルツの猛攻で黒の顔が苦しみから歪む。
  打撃との誤差0.01秒後に、漆黒の稲妻が打撃を受けた箇所に発生する。
  コレにより、打撃を防いだ防御が途端に崩れる。
  外側からの攻撃を防いでも、内側から外側へと走る稲妻の攻撃は防ぎようがない。
  仮に、出来たとしても《外側の防御》と《内側の防御》の両方を維持し続ける事になる。
  高レベルな魔力操作が求められ、魔力量でそれらの操作やデメリットを打ち消していた黒にとって、魔力操作はニガテな部類である。

  「クソ……間に合わな――」

  ヘルツの打撃によって、外側の防御が崩れる。
  そのすぐ後に、内側から外側へと響く稲妻が黒の肉体を貫いた。
  内側の防御を固めれる騎士は当然存在する。
  だが、状況がこうも目まぐるしく変化する戦場で、2つの事を同時に行う事は不可能に近い事である。
  内側と外側の防御に意識を向けた状態で、魔力操作をしながら戦う。

  2刀流どころか、4刀流――もしくは6刀流を操れる人間など、そうはいない。

  故に、漆黒の稲妻が魔力攻撃でトップレベルの破壊力を秘めている。
  戦闘中に、外側の守りは固めれても――内側・・の防御も同時・・扱える人材は数えられるかどうかのレベルに等しいからである。
  単純な魔力の練度や魔力量で、その威力は――増減する。
  そんな世界で、外側で止められても内部に到達すれば必中となる一撃――

  胸を強く押さえて、膝から崩れ落ちる黒の顔面にヘルツの蹴りが襲い掛かる。
  一息入れる隙すらも与えずに、間髪入れずにヘルツの猛攻が濁流の様に押し寄せる。
  漆黒の魔力が炸裂し、地面を転がる黒に向けて魔力を帯びた槍が降り注ぐ。
  地面を転がって逃げる黒を追って、瓦礫に埋もれた槍や木片や鉄パイプ――破損して、到底武器とは言えない槍や刀の残骸や破片を魔力で表面をコーディングさせる。
  魔力を纏わせて、耐久性などが向上した武具の拾い物を投擲する。

  ボールのように転がってから、瓦礫に背中を打ち付けてその反動で跳ね上がる。
  透かさず投擲された槍や木片を弾いて、投擲された物の一部を投げ返す。

  その黒に、すぐに反応してヘルツも投擲された物を弾く。

  達人レベルの反射神経をフルで活用して、ようやくその領域に立てる。
  それほどの領域ステージで、2人は戦う。

  ――戦う事でしか、守れないと知っているからである。 

  踏み込むヘルツ――。が、瓦礫の上で、黒は前のめりに倒れる。
  目を見開いたヘルツが黒を抱き止める。
  意識を失って、魔力が徐々に減り続ける黒が――先に倒れる。
  誰がどう見ても――ヘルツの勝利である。

  「……勝った。……の?」

  状況が呑み込めず勝利の実感が沸かなかったヘルツだったが、背後からウォーロックの側近の拍手で我に返る。

  「――おめでとうございます。ヘルツ・アウター・ヴァイン様……。勝利の特権として、捕えていた子供達は解放しました」

  側近の手に持った端末を叩いてから、ヘルツの元へと近付く人影が見える。
  ヘルツの目に、捕まっていた子供達が映る。だが、ヘルツの目の前に歩み寄った子供達は確かに子供達・・・ではあった。

  ――既に、イシュルワから亡命した筈の子供達であった。

  「……何で、ここに居るの? みんな……逃げた筈なのに――」

  虚ろな目をした子供達の顔を見て、状況に頭の中の悪夢が現実となる。
  1人の子供に、ヘルツが駆け寄る。
  すると、皮膚が風船のように膨れていく。
  その子だけに限った話ではなく。ヘルツの元に集まった全ての亡命した筈の子供達が、次々と体を肥大化せる。


  ――ヘルツの悲鳴が、木霊する。


 目の前で、子供達の内側から別の魔力によって潰される子供達を見る羽目になる。
  急激な魔力の上昇によって、強制的に肥大化していく肉塊が次々と子供同士で結合し、1つの肉塊へと変貌する。

  巨大で、悍ましい見た目――

  ビル1つと同程度の巨大さを有するスライムのような所々がドロドロとした肉体の巨人が、ヘルツの前に現れる。
  その個体の裏では、子供サイズの肉塊がゆっくりと動いている。
  子供達の特長が、肉塊となってもヘルツには一目で分かる。

  目の前の巨大な巨人――複数の子供達が合わさって生まれたこの子には、顔と思われる箇所には複数の子供達の虚ろな眼球が複眼となって現れている。
  髪ツヤや色が異なる頭髪が肉塊の中から、吐き出されるように現れた。

  ヘルツの目から、大粒の涙が溢れる。

  絶望に染まったその表情を大スクリーンで見ていたこの男は笑った。
  遠くから状況を見守るウォーロックがガッツポーズで興奮して手を叩いて、一人でブツブツと独り言を続ける。

  やはり、皇帝同士の戦いは震える。
  見世物として、ここまで完璧なモノはない――

  両手を高く突き上げて、歓喜と興奮で紅潮しきった顔――

  ここまで、自分の計画が上手く進むとは思っていなかった。
  懸念すべき点とし、黒やハートの存在があった。
  が、仮面の男によって、ハートは動きを止めている。その上、ティンバーも手土産レベルに圧倒して制圧した。
  最も巨大な障害であった黒ですら、ヘルツによって倒された。

  もう、自分を止める事が可能な相手は存在しない。


  「さて、では計画をもう1段階進めようか……」
  「……」

  ウォーロックの部屋の隅で、両手両足を縛られたシスターを見て、ウォーロックが不敵な笑みを浮かべる。

  
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