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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
重なる姿
しおりを挟むヘルツは、絶望した。
目の前の子供達が、亡命の手引をしてイシュルワから脱したと思っていた子供達が揃って、ウォーロックの手によって非道な実験体となってしまっていた。
『――可哀想な子達じゃないか~。えぇ、亡命を手引したのは大目に見てやる。なにせ、モルモットを提供してくれたと同じだからな~』
ウォーロックのスピーカー越しの笑い声が脳内に響く。
子供達の恨みに染まった声音が、脳内にねっとりと染み付く。
『助けて』『助けて、お姉ちゃん』『何で、無視するの?』
『痛いよ……』『暗くて、怖いよ』『怖い、怖いよ』『痛い、痛い痛い痛いッ!!』
このイシュルワでは、死を待つだけだった。
だから、バレずに他国に亡命させて子供達を救った。ヘルツは、人知れずそんなつもりでいた。
まさか、仲介人がイシュルワの人間であったとは思わなかった。
逃がした子供達をそのままイシュルワの実験施設に運んだとは到底思っていなかった。
「……私のした事は、何だったの……?」
苦しむ様に、下層部を徘徊する肉塊となった子供達の見るも無惨な姿を見て、大粒の涙が溢れ落ちる。
自分が傷付くのならば、耐えられた。数多の屈辱も罵倒も耐えられた。
それは全て、子供達が笑って生きられる世界の実現の為に――
――いつか、イシュルワが優しい国になって……子供達と笑って過ごせる国にして見せる。
かつて、友人に語った子供のような夢を思い出した。
それを全て、子供達と笑う為であった。
緑豊かな自然に囲まれて、映像ではない。本物の綺麗な青空の下でみんなで笑い合う。
そんな夢が、無惨にも――砕けた。
心は、限界。
もう、立つ事も戦う事も出来ない。
ただ、呆然と座り込む事しか出来なかった。
だが、遠くから聞こえる声がヘルツを再び立たせる。
「――生きろ!! 今を、全力で、生き続けなさいッ!!」
ティンバーの声が遠くから聞こえた。
背中に、まだ実験の手が及んでいない子供達を抱えてこちらへと走る。
その事に映像越しのウォーロックでも、表情が一変する。
既に多くの実験体を有していながらも、完全にヘルツの心を砕く為に――一匹たりとも逃さない。
その剣幕は、映像を見たティンバーの神経を逆撫でる。
「生け捕りではない! 全員、殺せ!!」
ウォーロックの指示で、兵士が集まる。
「走って、逃げなさいッ!! もう、誰にも……誰にも傷付けられない所まで、振り返らず。走りなさいッッッ!!」
子供達がヘルツの元へと駆け寄り、抱き着いて感動の再会に涙を流す。
しかし、そんな時間はない。ティンバーとて、大勢の敵を一人も通さないなど約束出来ない。
ヘルツが子供達を連れて、奥へと走る。
その姿を見届けて、迫る兵士に鋭い眼光を向ける。
「全員……まとめて、沈めやるッッッッ!!」
大勢の兵士達に向け、怒号を響かせる。
既に、怒りは限界を迎えている。
少し、時間を遡る――
ティンバーは、ヘルツの目の前で見た光景を牢屋の中でも――見ていた。
さらに、別の鉄格子の中からは、ヘルツ同様に大勢の子供達が家族の変わり果てた姿に涙している。
怒りは、限界であった。だけではない。
既に、自分の役目は終えている。本来ならば、子供達の救出ではなく。
ウォーロックの保険の破壊が任された役目であった。
それが、済めばクラトとの契約が終わったも同然である。
この後の行動で、自分の動きを縛る物が消えるのを思い出して――体が動いた。
「これで、ガキを炉に放り込めば……仕事終わりだよな?」
「あぁ、ウォーロック様からたんまり金もらって遊ぼうぜ。この国は、終わりだからよ」
――そう、終わりよね。
壁を破壊して、切り札と思しき物を殴り壊す。動いていない事から、不良品の類である。
兵士達が、その物音に気付いた。が、遅い。
目的は、もう果たした。
これで、イシュルワに黒と並ぶ力が人工的に生まれる事はない。
これが、ティンバーの役目である。
その契約も、無事終えた。
ならば、好きにやっても構わない筈である。
子供達を回収しに来た兵士達を力任せに壁へと埋め込ませ、怒りによって限界以上の力が発揮される。
子供達を連れて、一刻も早くヘルツの元へと向かう。
道中の敵兵をまるで、小枝をへし折る様に力任せに突っ切る。
巨大なダンプカーが猛スピードで突っ込むかのように、待機する兵士達が宙へと舞う。
「許さんぞ……許さんぞ!! ウォーロックッッッ!!」
機械兵器がティンバーの元へと投下される。
だが、その鋼を上回る筈の機械装甲もティンバーの拳によって、粉砕される。
まるで、鬼神――
荒ぶる鬼の如き力で、立て続けに妨害する兵士と機械兵器を叩き潰す。
もはや、一切の躊躇もない。ただ、邪魔だと判断した物を拳1つで叩き潰して進む。
「――こんな、世界! 潰してやるッッッ!!」
時間は、現在に戻る――
兵士達から逃れて、ヘルツ達の行く手を阻むのは――変わり果てた子供である。
ウォーロックの上げた手に合わせて、魔力によって変異した子供達が口から火を吹いた。
ウォーロックの手が加えられている事から、行動の殆どがウォーロックの意のままである。
兵士を蹴散らして、時間を稼いだティンバーが、ヘルツに追い付く。
が、突如現れた子供達の口から吹き付けられた灼熱の炎によって、ティンバーの全身を焼かれる。
火の中から飛び出して、熱放射から逃げる。
だが、その油断したティンバーを背後から狙った人物が現れた。
「――逃さねーよ」
「――ッ!?」
背後に忍び寄った人物の凶刃によって、ティンバーの背中にナイフが突き刺さる。
一瞬の油断が、ティンバーに大きな痛手を与えた。
透かさず腹部へともう一つの刃物が迫り、背中への一撃に気を取られた隙に腹部へと攻撃を許してしまう。
流石のティンバーであっても、 2方向からの刺傷を避けるのも防ぐのも難しい。
それも気付かれにくい背後からの奇襲であれば、尚の事避ける事も防ぐ事も難しい。
「――ぐッ、っぅ……!!」
ナイフを投げ捨て、腹部を押さえる。
背中とは違って、深く突き刺さっていたナイフを恨めしそうに見詰める。
腹部からの出血は対して酷くはない。ただ、このキズによって動きに制限がついてしまった。
「あぁ~、動けねーよな。そのキズじゃ~よ」
ナイフを指先で回して、目の焦点が揃っていない人物がティンバーへと間合いを詰めに来る。
首から血を流して、頭部が子供達のように肥大化すると思いきやすぐに元の状態へと戻る。
首からの出血も止まり、男の狂ったような視線が子供達へと向けられる。
「さて、仕事しねーと……なッ!!」
「――クソッ!!」
間一髪、男の攻撃を防げたティンバーの二の腕から血が流れる。
「……流石に、動けるか」
「子供を狙うなんて、イイ度胸じゃない……キャロン・アッシム――」
ティンバーの目の前には、エドワードによって殺害された筈のキャロンが立っていた。
それも何処か異質な魔力を宿して、狂ったかのような言動と共にティンバーへと迫る。
両手のナイフはリーチこそ無いが、その速さと正確さが非常に厄介であった。
「いい感じだ……ウォーロックから貰ったこの力、ものすごくいい感じだッ!!」
「……力?」
地面を蹴った――と、ティンバーが認識した時点で、キャロンは驚異的な速度で懐へと侵入していた。
その速度にティンバーの理解が追い付かない。
ゾッ――と、背筋が凍り付く感覚の後に強制的に現実へと戻される。
懐に侵入したキャロンのナイフがティンバーの喉元へと振り上げられる。
間一髪、避ける事が叶った。
但し、次があるか――そう尋ねられれば、無い。と、断言できた。
獲物を狙う獣のように、キャロンがゆらゆらと動く。
その動きは、かつてのキャロンとは似ても似つかない。まるで別人である。
ティンバーが、その事を理解して構える。
息を吐いて、心を落ち着かせる。
追い付いたヘルツと子供達からは運良く離す事が出来た。そして、今のキャロンには――ティンバーしか見えていない。
(――来るッ!!)
ティンバーが魔力で、全身を強化する。
地面を蹴って、瞬時に間合いを詰めたキャロンのドロップキックが、ティンバーの大柄な体を簡単に吹き飛ばす。
それだけ、今のキャロンには力があった――
かつてのような暴力性に加えて、研ぎ澄まされた戦闘センスが光っている。
まるで、生まれ変わった様なキャロンの姿を見て、学生時代のある人物と重なる。
そんな事は無い――と、頭を振って脳裏に過る姿を消し去る。
だが、重なってしまう。
1度重なった姿は、脳裏に焼き付いているとでも言うのか、重なったまま見えてしまう。
――かつての黒竜と、姿が重なって見える。
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