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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
ただ強く――
しおりを挟む立たなければならない――
だが、体が言う事を聞かない。
戦わなければ、ならない――
だが、心が追い付かない。
守らければ、ならない――
大切な者など、存在しないのに。
生きろ――と、誰かが告げた。だが、今の自分にはそんな資格はない。
大切な人達に救いの手を差し伸べておきながら。実際は、さらなる地獄に叩き落としていた。
その事が頭から離れない。
自分の命よりも大切な子供達を自分の手で、苦しめていた。その事実が頭から離れない。
――ウォーロックが国のトップになる前から、この国は腐っていた。
でも、まだマシだった。だから、頑張れた――
皇帝になって、世界を変える――
子供達との生活を心の支えに、頑張って来た。
辛い戦いや訓練でも時折届く子供達からの手紙が支えてくれた。
全ては、イシュルワを変える為に――
同年代の黒、ハート、メリアナのように世界に影響を与える力を手にすれば――世界は変わる。
そう、思っていた。が、実際は変わらない。
力を手に入れても、心の奥底に染み付いた《恐怖》が重い足枷となる。
自分1人の行動で、子供達に影響が及ぶかもしれない。
自分の言動で、下層部が綺麗に掃除されるかもしれない。
そう思ってしまえば、人は立ち上がれない。
心を縛る鎖となって、この数年ヘルツを拘束し続けた。命令に準ずれば、いつの日かみんなが幸せになれる日が来る。
――その結果が、この様である。
兵役義務が課せられる前に、子供達を他国へと亡命させる。
それが、せめてもの救いだと信じていた。
まんまとウォーロックの手のひらで転がされ、自分の情けなさに涙が止まらない。
全て、自分の責任であった。
大切な人達を守りたい――と、言っておきながら何一つ守れていない。
この十数年――。力を身に付けて、戦う力を手に入れた。
だが、心は未だに未熟であった。
大切な人達の事を考えて、その刃が曇る。
「……どうすれば、良かったのかな?」
そんな言葉が、溢れ落ちる。
だが、答えは以外にも目の前にはあった――
全身にダメージを受けて、地面を転がるティンバーが叫んでいた。
言葉は聞こえない。だが、ヘルツの目線の先に、答えはあった。
――だめだ……。
立ち上がれない――
――だめ……。
まだ、立ち上がれない――
――やめろ、やめろ!
地面が足に纏わり付く様に、ヘルツを決して離さない――
――やめろ、やめろ!! 手を出すな……。
「その子達に、触れるな――ッ!!」
ヘルツが、地面を蹴った。
刹那の瞬間、全身に漆黒を纏った《剣鬼》が、子供達へと手を伸ばすキャロンに一太刀浴びせる。
鮮血が撒き散らされ、激痛にうめき声を上げる。
切り落ちた片腕を見て、キャロンが絶叫する。
震える手をしっかりと握って、ヘルツは理解する。
「……そうか、そうだ。力が、何だ――」
手に握る刀にヘルツが視線を落とした。
「……力が、あろうとなかろうと、関係無い。私は、みんなの為に――」
ヘルツの赤い瞳が、青色へと変化する。
体の奥底から溢れる魔力が、ヘルツにさらなる力を与える。
力の有無など関係無い。守りたい者達の為に、自分のすべてを賭ける。
ヘルツに、足りなかった最後のピースが埋まる。
他人を巻き込む事を嫌って、イシュルワを相手に戦いを挑めなかった。
大切な者達が自分の行いによって、悲劇を生んでしまうと考えてしまった。
だが、もう惑わされない――
肉塊となって、無惨な姿に変貌してしまった子供達をしっかりと見詰める。
「――待ってて、お姉ちゃんがすぐに助けてあげる」
小声――。隣に立って、ようやく聞こえる小声だった。
が、子供達の魂にはしっかりとヘルツの言葉が伝わっていた。
ウォーロックの命令で、襲い掛かる筈の子供達が全員その動きを止めている。
その光景に、目を疑うウォーロックをヘルツの冷酷な眼光が向けられる。
そんなヘルツの姿を見て、子供達はその複眼となった眼球から一筋の涙が流れ落ちる。
「……行ってくるね」
腕を切り落とされたキャロンが、内側から溢れる魔力によって完治し、背後からヘルツへと襲い掛かる。
だが、既にヘルツは以前とは動きも魔力も異なっていた。
「――邪魔だ」
振り向き様に、キャロンの首を切り落とす。
ボトリッ――と、地面を転がるキャロンの首を瓦礫の山目がけて蹴り飛ばす。
グシャ、と音を上げて 鉄骨に突き刺さった頭部を一瞥することなく。
吹き抜けとなった上層の最も巨大な建物を睨む。
ヘルツの手に持った刀の刃先が、建物内部で余裕な笑みを浮かべるウォーロックを狙う。
だが、ウォーロックの手には、ヘルツに対する最後の切り札があった。
『――コレが、貴様には見えていないのか!!』
モニターに映し出されたのは、拘束されたシスターでヘルツが踏み出した足が止まる。
だが、モニターの向こう側からシスターの言葉がヘルツに届いた。
『――負けるな』
その言葉で、ヘルツは驚異的な速度を手にする事となる。
魔物――《アウレティク》による魔力強化に加えて、無意識の中で僅かに触れた力――
それらが、ヘルツに力を与える。
最高到達点へと至る領域――
黒、ハート、メリアナですら意識的に扱うのが難しいほどの魔力の最高到達点に、ヘルツは今だけ踏み込む。
内側から爆発的に溢れる魔力を完全に抑え込み、1つの漏れを生ませない。
それによって、最高クラスの魔力循環率を叩き出した。
一歩、たった一歩の踏み込みですら皇帝最速と称された藤宮を上回った。
「……ここで、仕留める!!」
建物を容易く切り裂き、ウォーロックの目前に迫る。
だが、ウォーロックを斬り殺してもその手応えの少なさにすぐに偽物だと理解した。
「シスター!!」
拘束されていたシスターを助ける事に、成功した。
だが、口を塞ぐタオルを取り外して開口一番にシスターが告げる。
鬼気迫る顔に、その焦った顔を見て――ウォーロックの罠の真意を知る。
「……早く、子供達を!!」
「――ッ!!」
ヘルツがすぐに子供達の元へと走る。だが、全身が鉛のように重くなり、視界が赤く染まる。
鼻、口、目から流血し、全身が小刻みに震える。
『――体が、耐え切れんかったようだ』
脳内に響くは、魔物の言葉。
その一言で、自分の体が先程のたった数分程度の力で壊れた事を察する。
「……アウレ……ティク……」
肉体が例え崩れても構わない。だから、力を――そう、懇願するもアウレティクですら、力の酷使が不可能だと告げられる。
目前に迫る危機を前に、ヘルツは手を伸ばすしか無かった。
そして、イシュルワの地表を突き破って現れた巨大な機械と肉塊がミックスしたバケモノが巨大な口から魔力砲を放った。
狙いは、虫の息のヘルツではない。
――下層部の子供達であった。
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