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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
誰か――
しおりを挟む放たれた魔力砲を目にして、ヘルツが叫んだ。
動けないティンバーが、体を引きずって歯を食いしばりながら子供達の下へと駆け寄る。
自分の全魔力を引き換えに、子供達だけでも守ろうと死を覚悟する。
下層部の頭上から巨大な魔力が降り注ぐ。一撃で、下層部が焼き焦げる。
「……そんな……嘘、嘘よ……」
「……あぁ、あぁッ――あぁッッ!!」
シスター、ヘルツの2人は呆然とその光景を目の当たりにする。
スピーカー越しに響くウォーロックの優越に浸った笑い声が、耳から脳内に響く。
その笑い声は、不愉快そのもので聞くに耐えない。
あと、一歩であった。あと一歩速ければ、あと一歩だけ自分の力が続けば――
後悔が尽きない。
そして、心の底から――言葉が溢れた。
もう、立ち上がれない。
もう、戦えなくなった。
そんな彼女は、小さな声で溢れて止まらない涙のように、その願いを口から溢れさせた。
誰か助けて――
その《願い》に応える様に、体の奥底から燃えるような衝撃がヘルツの心臓を熱く滾らせる。
その直後――大地が、 跳ね上がる。
実際に、跳ね上がった訳では無い。
ただ、そう思うほどに――世界が、リズムに乗るかのように踊る。
大気中の魔力が手当り次第に反応して、その者の巨大かつ強烈な魔力に呼応して、地鳴りのように魔力が振動する。
ヘルツは当然として、隣の騎士ですらないシスターですらその巨大な魔力の違和感に気付く。
そして、巨大な化け物の頭上に立って、魔力砲の指示を出したウォーロックが1番にその違和感の正体と対面した。
「――ッ!? また、邪魔をすると言うのか……」
『――目標、壊滅率0%……。目標、壊滅――』
「うるさいッ、見れば分かる!! 黙っていろ!」
『命令受諾……沈黙――』
ウォーロックが化け物の内部に搭載された人工知能に対して、当たり散らして目の前の光景を睨む。
放った筈の魔力砲は確かに下層部へと降り注いだ。だが、ある人物がその魔力砲を完全に防いだ。
今もこうして、魔力炉から生み出された魔力を注いで何度も何度も魔力砲を放っている。
――が、壊れない。
下層部に幾千と魔力砲を降り注がせても、この男の前で全てが等しく無意味であった。
「クソがッ、この私の――邪魔をするなァァァァァ!!」
ウォーロックの命令に応じて、巨大な化け物は1点に圧縮した魔力砲を放った。
だが、効果はないに等しい――
下層部全域を覆い隠すほどの巨大な漆黒の魔力が、魔力を残滓ふすらも残さずに吸収する。
そして、大気を響かせるこの音色――。心臓の奥から響く様な心地の良い太鼓の音色がイシュルワに響き渡る。
漆黒の魔力が渦巻いて、眩い閃光が下層部を明るく照らす。
下層部を見下ろす化け物の前に、下層部から巨大な黒竜が姿を現した。
大切な人達を守りたい――
ヘルツのそんな願いに応える様に、黒竜の咆哮が天地を轟かせる。
誰でもない誰かの為に、かの皇帝は再び立ち上がる。
力を持たない誰かの為に、力を持ち得る者の務め――
誰かを助けたい。そんな小さな願いが、大きな力を呼び覚ます――
天へと登る巨大な漆黒の稲妻――
夥しい数の稲妻が、下層部から上空へと伸びる。そのまま雲を突き抜け天高く弾ける。
高濃度な魔力によって、過剰なまでに大気中の魔力が呼応して生まれた現象――
膨大な魔力によって、生み出されたその現象の中心に――黒は立っていた。
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