181 / 231
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
油断
しおりを挟むウォーロック・ザムザインは、今世紀最大のピンチを迎えていた。
死にかけて、もはや動かないと判断していた男が立ち上がった。
「不死身か、あのバケモノは……――」
足元の化け物へと指示を飛ばして、再び魔力砲を下層部へとはなった。
だが、どれ程高出力であっても、バハムートによって阻まれる。
コレにより、完全に下層部が黒の手によって守られる。
「……《難攻不落》、その名の通りよ」
咆哮を上げて、漆黒の稲妻がウォーロックの下へと降り注ぐ。
バハムートの魔力攻撃を受けても、ウォーロックの化け物は怯みはしない。
「へぇ、硬い……な」
『むぅ、硬い――とは、少し違うぞ。魔力が効かぬ』
「――つまり?」
『マスターや妾と同じ――と言う事じゃ』
再びバハムートの稲妻が化け物へと落ちる。だが、表面を軽く焼く程度で、芯には届いていない。
黒、バハムートと同様に高い魔力量に物言わせた高い防御力――
その防御力の高さから、バハムートの魔力攻撃を以てしてもダメージは与えれない。
下層部の守護と攻撃の2つに魔力を回した状態で、このまま無駄攻撃に転ずるのは愚策と判断する。
「――バハムート、守りに専念するぞ」
『むぅん? じゃが、そうなれば……勝てぬぞ?』
「良いんだよ……戦うのは、俺じゃねーからな」
バハムートが守りに入ったのを見計らって、ウォーロックは魔力攻撃に力を入れた。
下層部へと降り注ぐ魔力攻撃がまるで嵐でも来たかのように、絶えず地面を削る。
傷を負ったティンバーが子供達の為に盾となり、魔力の余波で倒壊した瓦礫や飛んで来た木材から守る。
「……もう少し、耐えて――」
「――ティンバー!!」
ティンバーと子供達の前に、シスターの肩を借りてヘルツが合流する。
そんな2人の魔力に気付いて、黒の回復魔法が離れた位置のヘルツとティンバーの2人に施されされる。
「ティンバー、ヘルツ……子供達を連れて下層部から脱出しろ。下層部の北側を奥に進めば、下層部の住人がイシュルワ脱出に使った通路がある。上がって、逃げろ」
「その後は――」
「ヘルツ――その後は、自分で考えろ……。もう、何にも縛られない世界だ」
バハムートの咆哮が轟く。
イシュルワと言う国家が崩れ、人が完全に消えた都市の中で、まるで怪獣映画のような世界が広がる。
巨大な黒竜と肌色の化け物が、曇天の空の下で戦う。
ティンバー、ヘルツが子供達とシスターを連れて、北側へと向かう。
崩れた瓦礫や建物を避けて、逃げて行く。
それを見送った黒が、ティンバーとヘルツの呪縛が解かれた事に安堵する。
「それじゃ……後は、田村と斑鳩か――」
『あの2人は、ここには姿を現さなかったな……』
「まぁ、どこに居るかは……何となく分かる。てか、ソコしか狙う場所はねーからな」
バハムートの防御に集中させていた意識を魔力感知へと僅かに回して、戦闘予想区域からティンバー、ヘルツが脱出したのを確認する。
これで、もうイシュルワと言う国に対して加減の必要がなくなった。
「さて、始めるぞ――」
黒の呟きを合図に、バハムートが下層部から飛び立った。
咆哮を轟かせて、漆黒の稲妻がイシュルワ全域に降り注ぐ。化け物が魔力障壁を展開して、黒とバハムートの魔力攻撃を防ぐ。
雷鳴が鳴り響く。大荒れな悪天候の中で、2体の巨大な力が衝突する。
化け物の魔力砲を稲妻で相殺し、バハムートの口から溢れる漆黒の炎がイシュルワを燃やした。
まるで、灼熱地獄とでも言えるほどの大火力な炎が大地を焼いた。
燃え盛る火柱が、化け物の体を焼き焦がす。さらに、追撃とばかりに上空から天を貫く漆黒の雷が、ウォーロック諸共化け物の体に叩き落される。
天変地異――
その言葉を体現するかのように、バハムートが扱う魔法の尽くが空を切り裂く。大地を揺るがす。海を蒸発させる。
自然災害を発生させるその力の膨大さに、ウォーロックは目を輝かせる。
「元々の高い魔力量……それに比例するほどの、強大な魔物の力――天は二物を与えん。とは言ったが、紛うことなき……天が与えし、神の《贈物》……欲しい、欲しい――ッ!!」
――その力を、寄越せ。
ウォーロックは、油断していた。
ティンバー、ヘルツ、ハート、もはや誰も自分の邪魔はしない。
そう、決め付けていた。
目の前のバケモノである。皇帝――橘黒を除いて、誰も自分の邪魔は出来ない。
そう思い込んだ故に――油断し、目の前の事しか見えていなかった。
さらに、付け加えるとすれば、バケモノの操縦を分担させていたAIの発言を不許可にしてしまった事も原因の1つであった。
AIであれば、ウォーロックの見えていない死角の全てに目を光らせる事が出来た。
だが、AIを「うるさい」と言う理由で、その発言権を奪った事が、ウォーロックの油断の1つに繋がっていた。
――誰も、そうは思っても実行はしない。
――例え、実行できても思い付きはしない。
だが、この男は思い付き――実行した。
燃え盛る炎の大地を全速力で駆け抜け、全身を業火に焼かれてもその歩みを止めない。
全ては、この一撃を叩き込む。その為だけに、全速力で燃え盛る地を走り抜けた。
脅威なのは、業火だけでない。
頭上から見境なく降り注ぐ漆黒の雷に、貫かれる《恐怖》すらもこの男には存在しない。
たった一撃、その一撃の為に――彼は、自分のすべてを込めた。
「ずいぶんと、楽しそうだな――」
「――!?」
突如、背後から声がした。
ウォーロック自身の脳内で導き出した筈の勝利の法則が、一瞬で砕けて跡形もなく消えた。
たった1つのピース――
小さく、弱く、儚い。
今のウォーロックにとって、脅威として数えられない存在が脳裏にチラついた。
そして、その1つのピースによって、ウォーロックの全てが破綻した。
大気に呼応する漆黒の魔力――
周囲一帯からは、あの男の魔力は感じられない。
黒とバハムートが展開した《高濃度魔力領域》によって、魔力感知が上手く機能していない。
魔力感知の殆どが、黒の高い魔力に引き寄せられている。
その上、魔力領域の効果と思える《魔力妨害》によって、感知に様々な魔力が干渉して、感知の対象が簡単に絞れない。
「クソッ、やられた!! おい、貴様も探せ!!」
『――命令、承認。一帯の高濃度魔力によって、魔力感知の精度に多大な障害アリ――……感知、精度減少。感知不可――感知不可――』
「クソッッ!! この、ポンコツがァァァッ!!」
足元の肉塊を何度も踏み付けて、危機的状況の回避に思考を巡らせた。
だが、一歩遅かった。
「この魔力領域の効果は、魔力感知に対する《魔力妨害》って、思うだろ? 少し違っててな……簡単に言えば、発動した魔力に様々な魔力残滓が影響を与えるんだよ。――この意味、分かるか?」
黒の言葉が頭上から聞こえ、ウォーロックがその言葉に意識が向いた。
その瞬間、僅かに黒の方へと視線を向ける。つまり、上を向いた――
そのタイミングを狙って、全身の魔力を1点に、凝縮させたローグの一撃が放たれた。
「――《漆黒の魔力》ってのは、様々な魔力が1つに集中した状態の事を指している。ソイツ自身の魔力、大気中の魔力の残滓、戦いの中で漏れ出た自分と相手の魔力――そのすべてを1点に、凝縮する魔力技術の最高位――」
黒が、イイモノを見たように笑みを浮かべて、ローグが放った一撃を評価する。
「俺の魔力領域は、魔力に影響を与えた。……漆黒の魔力に影響を与えたって、事だよ」
腰を入れて、片腕に凝縮された一撃が放たれた。
凄まじい雷鳴の様に、大気中の魔力に影響が及ぶ。空気が割れ、大気にガラスのヒビ割れのような現象が生じる。
高密度な魔力が、1点に凝縮された際の破壊力など、並の皇帝でも無傷に抑えるのは不可能である。
あの黒ですら、至近距離であれば片腕を持って行かれる。
それほどの一撃が、ウォーロックの顔へと放たれた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる