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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
例え、それでも――《Ⅲ》
しおりを挟む自然と立ち上がる。
意識は消えて、ただ体が動いている。虚ろな目は、それでもウォーロックをその目で捉えていた。
ヨロヨロな産まれたばかりの小鹿のように、足元は今にも崩れそう。
そんな不様を晒しても、ガゼルはトゥーリを護っていた。
――かつて、好意を抱いてからではない。
ただ、トゥーリ、ローグの悲しむ顔が見たくはない。
それだけの理由で、この男は立ち向かう。
――仲間は、守る。
不屈の精神で、ウォーロックへと一歩近付く。
その虫けらを見るような顔で、ウォーロックはガゼルの体を力を込めて蹴った。
体が左右に大きく揺れ、フラフラと後退した後に風に押されたように仰向けに倒れる。
もう、立ち上がる体力めない。そんなガゼルの頭を強く掴んで固定し、トゥーリの前で顔目掛けて拳を力強く振り下ろす。
ぐちゃッぐちゃッ――と、生々しい骨と血肉の音が聞こえて、トゥーリの叫び声が木霊する。
だが、トゥーリの叫びは届かない。
一粒の涙が地面に落ちる。
ただの涙の筈なのに、水面に落ちる水滴のようにそこから魔力の波紋が生まれた。
1つの波紋は、非常に弱い。ウォーロック、トゥーリですら気付いていない。
涙に含まれた微細な魔力が空間を震わせる。ただ、涙が地面に落ちただけである。
――だが、あの男を呼び覚ますには十分であった。
――瞬間、ウォーロックがガゼルの体をその場に投げ捨てて、逃げた。
全身から汗が噴き出している。
滝のように、のっぺらぼうな顔は汗で水々しい新鮮なトマトのようである。
トゥーリを拘束していた触手がボロボロと崩れて消えて、トゥーリがガゼルの元へと駆け出す。
ウォーロックを睨んで、ガゼルの前に立ち塞がる。
――が、既にウォーロックは明後日の方向を見ていた。
もはや、2人は眼中にない様子である。
その訳に、トゥーリの大粒の涙が溢れだした。
止まらない涙が地面を濡らし、直ぐに蒸発して乾く。
燃え盛る紅の炎に全身を包んだ男が、大地を焼き焦がしながら現れる。
憤怒の焔を纏って、怒りに呑まれた獣が――吠えた。
大地は大きく揺れ、空に重なる分厚い鉛色の雲を消し飛ばす。
大気中の魔力が消滅し、咆哮による振動で地面が隆起する。
ウォーロックが両腕を構えて、眼前の男の動きに神経を尖らせる。
一瞬の隙も与えない。そんな確固たる意志が、たったの一撃で轟沈する。
「――ウォーロックッッッッッッ!!!!!!」
顔面を捉えた拳が、全力防御のウォーロックの顔にダメージが刻まれた。
勢いそのままに、地面を数回跳ねて転がってから痛みを抱いてうつ伏せの状態から体を起こす。
たった一撃である――
漆黒の魔力を用いていない。
ただの魔力による強化程度が掛けられただけの一撃に、ウォーロックの鎧が容易く壊れた。
ふらつく足腰、ぼやける視界と飛ぶ意識がその一撃の重さを物語っている。
全力の漆黒の一撃で、体は半壊した。
だが、それでも半壊しただけでダメージには至らない。
しかし、コレは――違う。
断言出来る。この男――ローグ・スターが、覚醒した。
恐怖からではない。
断じて、《恐怖》からではないが――その場から後退り始める。
先程の戦いで、魔力は底をついている筈なのに目の前の男は依然として魔力を纏っている。
それも、先程の戦いで消耗した筈の魔力以上に纏っている。回復するにしても異常な速さに加えて、元の魔力量が増えている。
否、魔力が溢れ続けていた――
ローグの状態は、魔物の覚醒を現している。
魔物は、その存在の《顕現》も含めて、精神状態によって力が大きく左右される。
精神が魔物の力に大きく左右する為、その者の精神が及ぼす影響は計り知れない。
激しい怒り、悲しみや憎しみ。様々な感情が精神を揺さぶる。その中で、特別大きく左右するのが《負の感情》などである。
その為、激しい憤怒や憎悪は――魔物の力を加速させる。
その一方で、暴走にも直結する。
肉体と精神が、魔物に追い付く事で――魔物は、顕現する。
そして、肉体と精神の均衡が保たれてようやく魔物を制御する。
魔物に耐える《肉体》を超越して――
魔物を操る《精神》を超越して――
ローグは、魔物の力を解放する。
黒やメリアナ達が到達した場所へと一歩、踏み込む。しかし、その足場は酷く脆い物であった。
心がぐちゃぐちゃになって、肉体を超えて、精神を超えた先の領域に立つには、今の状態では数分と体は持たない。
そんな事は分かりきっていた。
魔力の過剰放出によって、勝手に生れた憤怒の焔が次第にローグの体を焼く。
トリスメギスの声すら聞こえなくなったローグを止める為に、憤怒の焔をトリスメギスが操る。
怒りに呑まれ、憎悪に呑まれた宿主を助ける為に――トリスメギスが力を振りかざす。
本来であれば、宿主の肉体を奪って自分の物へとする。が、トリスメギスはローグの肉体を奪う事はしなかった。
ただ、見てみたかったからだ。
ローグが語った。夢の果てを――
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