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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
《トリスメギス》の能力
しおりを挟む能力と、言ってもその種類は人の数だけ存在する。
似たような能力や同じ能力を有する者達も長い歴史の中で、度々報告が上がるほどである。
だが、国同士での連携が途絶えた現在では、その殆どの能力が未知数となっている。
それは、同じ国の仲間の中ですら――秘密になっている。
大まかな能力については、話している。
全くの嘘の能力を話している。
人によって、能力の詳細なデータ以前に公にしていないケースが多い。
倭を例に挙げれば、倭最高位戦力のメリアナ、黒ですら仲間の間で能力の説明がなされていない。
メリアナは、信頼した仲間や友人には噛み砕いて告げている。――だが、黒は一切説明していない。
例外があるとすれば、仲間や家族の中でも能力を間近で見た者を除いて、その全容を知っている者は存在しない。
それ程、能力の詳細は後の戦闘に大きく左右するのであった。能力とは、場合によれば戦局を反転させる切り札――
詳細なデータがあれば、対処されるポインでもある。が、黒の場合は少しだけ異なっている。
黒の能力は、詳細なデータを知っていても知らなくとも関係はない。
発動した瞬間に、殆どの者達がその能力に引き込まれる。そして、勝敗が決まる。
能力の詳細なデータは人によって開示する者やしない者が多い。
殆どの者は開示しないが、黒焔騎士団に在籍する――藤宮翔の様に飲みの席で暴露している場合もある。
翔の場合は、対処される事が無いという利点があるからでもある。
今回のローグ同様に、能力を開示する者のほとんどは――相手を消すから開示すると言う事が多い。
それは、この場でウォーロックの死刑宣告と言っても過言はない。
「トリスメギスの能力は、簡単に言えば《破壊》だ。対象の状態や現象、魔法などの条件を破壊して機能を阻害する能力だ。だから、お前の回復能力が大きく低下した訳だ」
ウォーロックが会話の途中から飛び付くように、ローグに牙を立てる。
が、既に破壊の能力で身体機能や魔力の状態がボロボロに崩れている状態では、ローグの体に触れる事は不可能。
横へと躱したローグの蹴りが、拳が、ウォーロックの体をさらに破壊する。
「あぁ、補足としてだが……この能力で死ぬ事はない。破壊って聞くと物騒だよな? でも、能力の対象は相手の耐久性や身体能力の阻害だからな。簡単に言えば、魔法で強化ができない。回復能力機能の低下って所だな。……意外と、重宝する能力なんだぜ?」
「グゥガ――ァッ!!」
獣のように四つん這いになって、飛び掛かる。体が破壊され、思い通りに動けない。
二足歩行で、立って、歩く――そんな当たり前な事ですら、不可能になる。
立つことは出来ても、少しでも動こうとすれば途端に力が入らずに膝から崩れる様に倒れる。
莫大な魔力を使って、その場から飛び跳ねて逃げる事も出来なくなる。
こうなってしまえば、無力と言う物である。
泥酔した酔っぱらいのようなフラフラな足腰では、どんなに獣のように叫んでも負け犬の遠吠えにしか見えない。
――喧しい呻き声にしか聞こえない。
「俺は、お前を心底恨んでいた。何度もぶっ殺してやりたいと思った……その度、ガゼルやトゥーリに止められた。――でも、今じゃ感謝しているんだ。ホントだぞ?」
「グゥガァ……ァァ……ッッ!!」
最後に受けた攻撃によって、呂律がさらに回らなくなる。破壊する箇所は選べるのか、前もってその口を封じていた。
言葉を失って、本物の獣のように這いつくばって怒りからか頬がピクピクと動いている。
ヨダレを垂らして、地面が湿っている。限界まで腕立て伏せをしていたように両手が異常なまでに震えている。
そのまま今の姿勢を維持できなくなり、遂に獣以下の状態となる。
地面にうつ伏せ状態のウォーロックをローグは見下ろしている。
敗者を、嘲笑うかのように――
ローグにその気がなくとも、周囲から見ればその様な構図に映ってしまう。
それが、ウォーロックには屈辱であった。
多くの者達を見下し、蹴落とし、嘲笑ってきた。生まれついての《勝者》――それが、ウォーロック・ザムザイン。
勝者である自分が、自分より劣った身分の者に負ける。あまつさえ、立場が逆転する。
「……ッヴッ!! グゥッッ!!」
モゴモゴと口を動かすが、言葉は発せられない。入れ歯が動いて口をモゴモゴさせているボケた老人のよう。
ローグが冷ややかな目を向けて、ゆっくりと顔を近付ける。
そして、ローグは告げる。
嘲笑ってきた者達の為に、利益の為に蹴落とした罪無き者達の嘆きを――
「いい気味だな。お前が、踏み台にした人達が……今のお前を笑ってるよ」
ローグが手に持った拳銃のシリンダーを手で軽く回して、引き金を引いた。
銃声が木霊し、ローグの魔力が再び跳ね上がる。
そして、息を整えてゆっくりとウォーロックの首を掴んで持ち上げる。
「俺、感謝してるって言ったろ? アレは、ホントだ。今こうして、俺が高みに至れたのはこの戦いがあったからだ。仲間を……大切な人を守る力に、目覚めれたのもそうだ。皮肉だよな。殺したい程に憎い相手の眠る力を自分で叩き起こしたんだ。そんで、それに負けた――地獄で、自分の行いを後悔しろ」
「……ま……で……」
ローグの破壊の力から、徐々に回復しつつあるウォーロックと開発された永久炉の力に今更驚きもしない。
破壊の能力から回復する速度は速い。だが、肝心な所で、その回復力が発揮されないのであれば意味がない。
ボロボロな体ではあるが、情けなど必要はない。トドメの一撃を全力で叩き込むに値するクズである。
上空へと投げて、自重と重力で地面へと落ちるウォーロックの顔面を力任せに振り下ろした拳で、硬い地表に叩き付ける。
「――懺悔し続けろ!! あの世で、なッ!!」
漆黒の魔力がローグの全身を包み込む。稲妻が地表を割って、頭上の分厚い雲に巨大な大穴が開く。
ローグの立つ場所から天へと伸びる漆黒の稲妻が、雷鳴を轟かせる。
弾ける稲妻、轟く雷鳴、天地が裂けて強烈な一撃が相手を消し飛ばす。
ローグの肉体が二度と再生されないように、最大出力の漆黒の魔力が永久炉と共にウォーロックの体を塵に還す。
まるで隕石が落ちたかのような巨大なクレーターが生まれ、その中心から天を仰ぐローグが満足そうにその場で倒れる。
「……やったぞ。トゥーリ、ガゼル……みんな、これで……いいんだ」
笑みを浮かべ、仰向けに倒れるローグの中からトリスメギスが僅かな時間だけ顕現し、機械の体をローグに擦り付ける。
トリスメギスも満足そうにローグの中へと消えて、魔力の酷使と限界を超えた力の乱用によってローグの意識はそこで――途絶えた。
満身創痍な体に、無理を強いる危険な戦い方。
強敵を前で幾度も立ち上がる。王の素質――
誰かを守る為に、己を顧み無い自己犠牲精神――
その全てが、ローグの新たな領域を助長した。
――覚醒を、見越していた。
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全て、予定通りな現実に――ハートは、クラトに強い嫌悪感を抱いた。
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