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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
苦痛を半分に
しおりを挟むベッドから起き上がって、月明かりが綺麗な夜に――黒は、眠りから覚めた。
トイレ次いでに外を散歩する。
別次元の存在感を放った者の手によって、黒のこれまでの疲労やダメージは完全に消えた。
――一見、そう見える。
だが、その心はボロボロである。
数多くの《死》を目の当たりにしてきたつもりであった。
異形によって潰された同胞達――
焼かれた母子やその家族――
救えなかった者達の断末魔や叫びを黒は背負っていく覚悟を持っていた。
それだけの覚悟がなければ、皇帝にはなれない。大切な者達は守れない。
そう、理解していた。
だが、殉じた者達が蘇った実感が本当の意味で黒に痛みを与えた。
心の何処かでは否定していた。
だが、実際に戦って――結論に至った。
なぜ、黄が自分と戦いたいのか。なぜ、3人は自分を目の敵のようにしていたのか。
すべて、自分の手で終わらせて欲しかったからだ。
何者かの手で蘇り、傀儡のように操られるよりも思い出の中に存在した人物として死にたかった。
思い出が汚されるのを恐れて、一刻も早く黄は自分の手で思い出になりたかった。
色褪せない――あの日の自分に、戻りたかった。
まだ、黒の考えである。可能性として最も高いのがこの結論である。
まだ、黄の体で何者かが――などと言った考えが幾度も過った。
それでも、実際に拳を交えてあの熱を肌で感じた。もう、答えは出てるに等しい。
「……昔、のままだったな。何一つ、変わってねーよ」
『変わったぞ。宿主には、守るべき者が大勢増えた。妾も……今回は、危うかったと思っておる』
「あのバハムートが、大分丸くなったな」
黒の指摘に腹が立ったのか、黒の脇腹に人差し指を向けた。
『――指すぞ?』
「……死ぬぞ?」
苦笑いを浮かべて、人型へと顕現したバハムートと共に夜風に当たる。
そして、誰もいない病院の屋上で――人知れず、涙を流した。
頭で理解していた。やはり、戦うしか無かった――と。
そんな事は分かりきっていた。
それでも、黒にはとてつもない苦痛であった。
大切な仲間で、かけがえのない友人達と競い合って高め合った力で挑まなければならない。
あの日の光景が――頭から離れない。
「……ッ゙ぅ゙……ぐぅ゙ッ……」
思い出が鮮明に蘇り、その反動で黄達3人の感情が黒にも手に取るように分かる。
同じ立場なら、それを望む。
これは、自分にしか出来ない。
自分達が必死に守った平和が、その手で今度は壊される。
そんなのは許されない。だから、一刻も早く黒に倒される必要があった。
膝を抱えて、痛む体を丸めて涙を流し続ける。
満点の星空を見上げる事はなく。ただ、夜風の中を黒は涙を乾かす。
その小刻みに震える背中にバハムートが、そっと肌に触れる。
黒を慰めるように温かな肌の温もりが、黒の背中を包み込む。
柔らか感触、人肌が夜風で冷めきった黒の心を溶かす。
「黒ちゃんは、とっても優しいね――」
「――!!」
背中に抱き着いたのが、バハムートだと思っていた。
魔力感知も機能せず、足音すらも聞き取れていないほど油断していた。
いや、そんな事すら気付かない程にその心は弱っていた。
「黄くん。……みんなとは、戦えないもんね」
「……ッ゙、未来なら、どうする?」
「ん? 私……? 私なら、諦めないかな」
「……諦めない?」
未来が腕に力を込めて、黒の体を腕で包む。
その閉ざされた心を開かせるように、優しく寄り添うようにその体を包み込む。
「大切な仲間、友人、家族――ううん、関係ない。大切な人なら、なおさら私は……諦めない」
未来が立ち上がって、正面へと移動してから黒を再び抱き締める。
黒の顔が目と鼻の先で、吐息がくすぐったい。鼓動が直で伝わる。
未来の目の前で、倭最高位の皇帝とは思えない顔でぐちゃぐちゃに涙を流した男をギュッ――と、抱き締める。
例え、どれ程強大な力を秘めていようとも――
世界をひっくり返す《魔力》や《能力》を有していても――
中身は、変わらない。どんな力を持っていても、持ったとしても――黒は変わらない。
仲間も想いな。優しく、弱さを押し殺す。傷付きやすい人――
「私にも、背負わせて欲しいな。黒ちゃんの痛みを……苦痛を半分こ」
「でも……俺は――」
「――でも、じゃないよ。私は、黒ちゃんが好き。大好きだから、隣で支えたいの」
「……未来」
「忘れないでね。私は、ずっとそばに居るよ」
未来が黒の両頬に触れて、唇にキスをする。
そして、黒のまぶたがゆっくりと下り始める。
星空の下で、黒は寝息を立てる。
遊び疲れた小さな子どものように、愛らしいその寝顔を未来は堪能する。
細い指先で黒の額に触れて、優しく前髪を揺らす。
子どものように幼い寝顔、双子の白とよく似た顔立ちでパッと見は女に見える。
そんな黒の寝顔に、未来は微笑んだ。
――が、その幸せな時間を邪魔するようにガラスの割れる音が聞こえる。
「……久しぶりだね。ユーナ、エレメナ――」
未来が、背後に立っている2人へと視線を合わせること無く言葉を口にする。
2人も未来の間合いか、そこから一歩たりとも動こうとしない。
ただ、寝息を立てる黒を見守る未来――。その後ろに立った2人。
とても穏やかな雰囲気ではないこの場所で、エレメナが剣を別空間から取り出して、背を向ける未来へと向ける。
「……今すぐ帰るなら、見逃すよ」
「未来先輩は、優しいですね……でも、状況が変わってしまって――」
エレメナが、黒縁メガネに指で触れる。
未来の間合いへと踏み込むように、一歩進む。
だが、エレメナの隣でユーナがその手を掴む。
「……? ユーナ、どうしたの?」
「――ヤバイ、とにかく……ヤバイ」
掴んだ手が小刻みに震える。
ユーナの尋常じゃない顔色に、エレメナが正面の未来に顔を向けた。
そこで、ようやく理解した。大切な恋人を守る為に――彼女は、剣を取る。
彼女を守るように顕現した魔物が、その光剣で2人を畏怖させる。
――今は、分が悪い。
そう判断するに足りる魔力が2人の肌を刺激する。
ここで戦えば、負けはしなくともユーナか自分のどちらかは死ぬ。
黒の命を取るだけなら安い。と思われるが、その後の黒焔騎士団の反撃が痛いのは目に見えている。
「……一旦、退こう。今の黒焔を相手取るには、私達は戦力的に勝てない」
「えぇ、分かってるよ。ユーナちゃん……では、未来先輩近い内に――」
2人が去った後に、未来は緊張を解すように息を吐いた。
眠る黒の頬に触れて、黒の心の痛みを今一度理解する。
「半分……でも、私も……苦しかったよ。スゴイな黒ちゃんは」
顕現させたワルキューレに黒を運ばせる。
病室へと向かう道中で、ワルキューレは宿主である未来の心中を察する。
とは言え、黒ほど辛さがある訳では無い。
だが、見知った顔――。共に戦った同士であるのは、変わらない。
数々の思い出が浮かんでは、未来の心を強く揺さぶる。
「……後は、こっちで運んでやるよ」
未来の前で、ハートが手を差し伸べる。
ワルキューレが抱えていた黒の体を翔が背負って暁と2人で慎重に病室へと運ぶ。
「……仲間、だろ? 俺らは」
「そうだね……でも、黒ちゃん一人に戦わせるつもりでしょ?」
「……あぁ」
「3人を……倒すの?」
「あぁ――」
「それしか、方法がないの?」
「……」
「……黙ってないで、答えろよ。……ばかやろう」
未来が涙を堪えて黒の病室へと逃げる。
部屋からすれ違うようにして、暁と翔の2人が出てくる。半ば追い出されるようにして――
「嫌な役回りだよな。でも、逆にハッキリさせたらどうだ?」
「まぁ、翔ちゃんの意見は分かるよ。本当に、殺すのか殺さないのか……いや、よそう」
「……」
翔、暁の前でもハートは黙っている。
それが答えかのように、ハートはその言葉を自分の胸の中で押し殺し続ける。
例え、それしか方法がない。そう、2人が思った所で思わず言葉が溢れる。
「黒には、アイツらを殺してもらう。それしか、救う方法はない。が――」
仮に黒が、手を染めても誰も咎めはしない。
それでも、背負いきれない業が黒をさらに苦しめるのであれば――手段は他にある。
「俺が、アイツらを――殺す。もう、地獄は十分だろ……」
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