難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

正式なご依頼ですので――

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  病室の一室。
  1人だけ広い病室で、時計の針が刻む音と時折窓から聞こえる鳥の囀りだけを聞いている。

  「……暇だな。体もなんとも無いのに大事を取って休むってのも」
  「寝てればいいんだよ。それとも、寝れない? はい、あーん」
  「あーん」

  ベッドの隣で、未来がスプーンに乗ったプリンを黒の口へと入れる。
  イチャついたカップルの甘々な空間に踏み込む勇気のないメンツ達が、病室の扉の前で立ち止まっている。

  「……入って、みどりねえ
  「……ちょっと、押さないでよ。そんなに入りたいなら、あかねが先に行ってよ」
  「えぇー! いや、2人の時間を奪うのは……」
  「なら、黙ってみてなさい――」

  やいやい言いながら、扉の隙間から2人の甘い時間を見守る妹2人の背中を見て、しろが頭を抱える。
  いい加減にして――と、いつもなら硬直した状況を崩すのだが、今回は見送る。

  黒と未来の時間――2人だけの時間を少しでもあげたかった。

  「……3人共、入ってこい」
  「隠れて見てても、何も起きないよ?」
  「「――ッ!?」」
  「ほら、入るよ……」

  3人が扉を開けて、黒の病室へと向かう。
  碧、茜の2人が目にしたのは――ボロボロな兄の体。
  ボロボロ――と、言っても包帯でグルグル巻きになっている訳でも無ければ、点滴のような管が刺さっている訳でも無い。

  ただ、横になっている。病室のベッドで、横になっている。

  「……容態は?」
  「連絡した通りで、体は問題ない。……体は、ね」

  小声で、白が未来へと尋ねた。
  その問に未来が答え、微かに聞こえた言葉に不安そうな2人の妹を白が優しく抱き締める。
  心配しないで――そう、白が呟いて、体をゆっくりと起こそうとする黒。
  介助する必要はないが咄嗟に未来が黒の背中に手を当てる。

  「老人じゃねーんだ。大丈夫だって」
  「……」
  「外も内も、完全回復している。変な奴の回復だったけど……問題はない」

  腕を振り上げて、元気なアピールをする黒が妹達の後から病室へと入って来た人物に気付く。
  仲良さそうに腕を絡ませた暁とシャウ・ランの2人であった。

  真紅の髪色を揺らしながら、ゲッソリした暁の横でタワワに実った果実を組んだ腕に押し付けながら元気なシャウが2人の前に現れる。

  「黒様も未来様も、お元気そうですね。私、安心しましたわ」
  「シャウちゃんこそ、今日は一段と元気だね」
  「……ぁ、ぁ……やぁ、黒……元気、だ」
  「そう言うお前は、死にそうだぞ。搾り取られたカスみたいに、ゲッソリしてるぞ」

  皇帝が4人揃う――
  普段であれば、他国の監視などの目があれば暁が追い払うのだが、当の本人がもはや会話すら不可能なレベルの疲れ気味に黒が渋々――外を睨む。

  ――覚悟は、出来てるよな?

  そう言った意味を込めた青色の眼光が、外から様子を見ていた監視者全員の背筋を凍らせる。
  これ以上の盗撮は、命の危機に直結する。
  黒の魔力感知の範囲から、約30人近くの監視者が音も無く姿を消した。

  「……ふぅ、疲れるんだよな」
  「……大丈夫?」
  「あぁ、問題はない。今の所は……」

  黒がぎこちない右手を動かして、その状態を確認する。

  「どうやら、完全顕現の反動が消えていないようですね」
  「うん、馴染んですぐの完全顕現だから……肉体の回復? と言うよりも黒ちゃんと魔物バハムートの回復が、追い付いてない……のかな?」

  体のダメージや肉体の負荷は消えた。であってもどこか体が本調子ではない。
  それが黒の体の動きに如実に現れていた。
  それは、この場にいる誰よりも黒がこの原因をよく理解していた。
  肉体的な負荷や傷などのダメージは完全に消えたとしても、精神的なダメージは完治していない。
  そこはあの化け物のような奴の回復でも直せはしない。
  肉体、精神のバランスで魔物の力は安定している。
  黒も魔力が高いだけでなく。精神力も平均よりも高いとは思っていた。
  が、現実はそう上手く行かない。

  現に、黒の体は少し不安定である。

  負荷は軽く疲れは無い筈なのに、どこか動きが硬い。
  その上、簡単な魔法ですら疲労感が計り知れない。精神的なダメージが色濃く残っている。
  そこをこの場にいる者達は薄々勘付いている。 

  「シャウも未来も心配し過ぎだ。……手足が、少し動き辛いだけだ」
  「……死活問題でしょ」

  シャウ、未来の心配を軽く流そうとした黒に白が、問題の大きさを指摘する。
  むくれる黒を白が見て、その発言で碧と茜を安心させようとした黒の優しさを自分が壊した事に気付く。
  心配そうな碧、茜の前で黒は体の動きや魔法などの扱いが鈍いだけだと訂正する。

  その為、魔法の使う分に関しては一切問題はない。
  ただ、いつもより疲れやすい。ただ、それだけである。
  半顕現したバハムートが病院内外に展開していた魔力感知の接続を切り離す。
  大量に消費していた魔力と体力がこれで徐々に回復する。

  「それで、シャウが来た目的は……アレだろ?」
  「はい、お迎えに上がりました」

  「「「お迎え?」」」

  碧、茜、白の3人が頭に?マークを浮かべて、未来が黒に視線を送る。
  そこで、黒が「……あっ」と何かを忘れていたかのような表情に固まってから、みるみる顔色が青く変わる。
  黒の横で、ジト目の妹3人が腕を組んでいた。

  「説明」
  「しろ」
  「クソにい――」

  白、碧、茜の順番に目を合わせる黒が、謝罪しながらこの顛末を語る。
  長い説明を受けて、白達は納得する。
  とは言え、帝国か倭のどちらかに戻ると思っていた妹達は、ため息を溢して端末を叩いた。

  「自分で、梓ちゃんと母さんに連絡して」
  「……はい」

  端末の向こう側で、忙しなく動く人の声や足音が聞こえる。
  端末の相手は、黒の祖母にあたる橘梓たちば なあずさである。
  帝国で、黒の帰りを待ちながら貸し与えた武具の返却を待っている。
  そんな相手に、今から帰れなくなった報告をする。
  端末の向こう側から聞こえる忙しない物音は、黒の帰りを待っていた者達が帰還を祝う準備でもしていたのだろう。

  「……悪い、梓ちゃん。野暮用で橘には、帰れなくなった。だから、武具の返却――」
  『そんな事は、どうでもいい――。無事、なんだね?』

  柔らかな声音で、ただそれだけを尋ねる。
  梓にとって、武具の約束よりも黒の安否の方が優先であった。
  帝国、倭でもウォーロックとの戦いは見ていた。もちろん、その後の戦いも魔力を感じ取っておおよそは知ってはいる。

  だからこその――無事・・なのか? と言う質問だ。

  「……いや、無事じゃねーや」
  『そう……。なら、いつでも橘に帰って来なさい。ここは、アナタの家で――家族みんなの帰る場所だからね』

  そう言って、梓は通話を直ぐに切った。
  きっと、これ以上通話を続ければ泣き出してしまうと思ったからだろう。
  端末から通話の切れた事を知らせる音が聞こえ、隣の白に急かされるようにして母親へと連絡しろ――と、顔が語っていた。

  「……はいはい」

  渋りながらも通話を掛けて、ワンコールで出た母親と黒との会話の内容は他の者は聞こえてこない。
  ただ言えるのは、黒の顔が徐々に暗くなった事だ。最初の数分だけ喋って、後の数時間はただ黙って説教を受けていた。
  初めの数分で、帰れない事や色々あった事を簡潔に話したのだろう。
  黒達の母親――橘薫たちばな かおるが、その程度の説明で納得する筈はない。

  「……終わった……よ」
  「2つの意味で、終わったって顔をしてるわよ?」
  「……白、お兄ちゃんにも……色々あんだよ」
  「「連絡しなかった。自分の自業自得でしょ?」」
  「碧も茜も黒のめんどくさがりな性格が原因だって、言ってるわよ」

  説教を受けて意気消沈の黒を労う言葉をかけるどころか、姉妹は揃って黒の原因が何なのか次から次へと上げていく。
  何なら、過去の失敗談を引き出してきてその失敗談の話でも盛り上がる。
  白、碧、茜、未来、シャウの5人による女子トークの隅っこで、黒と暁は小さく耳をふさぐ。

  黒の失敗談で、心にダメージを受ける黒の横で暁も耳をふさぐ。
  何で? と、疑問に思った。
  そんな黒の疑問に答えるように、シャウが暁の女性関係による失敗談を語った事で――暁は、未来達の冷めきった視線を浴びる事となる。

  「……黒は、元気だね」
  「おぉ、元気なったよ。この後、自分よりも悲惨な目に遭う奴が目の前に居ると――自分の不運が可愛く見えるからな」

  誰しも自分よりも悲惨な事が待っていると分かれば、気持ちは安らぐ。
  自分よりも――アホやな奴が隣にいるのは心強い。


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