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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
かつての風景
しおりを挟む車イスの上で、草原に吹く柔らかな風をローグは全身に浴びる。
とは言え、草原――。そう聞いて、想像するような1面の緑の絨毯と言った風景は眼下に広がっていない。
「これが、戦いの後の虚しさだよ……」
「あぁ、覚えておくよ」
車イス、未だ包帯に巻かれたローグと黒の2人が並んでかつての草原に覆われた大地を見渡す。
「……この後は、イシュルワ再建だろ? いや、それよりも体か」
「あぁ、橘さんのおかげで……大分マシになりました。包帯、車椅子。この2つは手放せないですけど……」
「退院後が、大変だな……手は、かさねーぞ?」
「そりゃ残念。橘さんの力は、絶大だから……借りれたら、良かった」
再び草原に風が吹き抜ける。
草木、大地が焼き焦げた死の香りと共にローグの鼻腔をくすぐる。
血が焼けた異臭に、思わず眉間にシワが寄る。しかし、その現実にローグは立ち向かわなければならない。
イシュルワの古い習慣を捨て去って、何もかもが新しい国家を創る。
「目に焼き付けろよ……これが、王の力だ」
「……」
「その気になれば、他国の領土なんぞその日の内に消し飛ばせれる。その結果、誰一人国同士の関係を築こうともしなかった」
「……それが、狙いですよね?」
「あぁ、そうだ。見えない敵に勝つには……他国の協力は必要不可欠だ。王の世代や皇帝じゃない――国単位での協力だ」
「イシュルワ、エースダル、グランヴァーレン、ビフトロ――国家、国家レベルの力を持った都市にこれからも協力を持ち掛けるつもりですか?」
晴れ晴れとした空を黒は見上げる。
焼けた草原のかつての風景とは、様変わりしている。
この争いの火種は、自分にある。ならば、もう、引き返せない。
ここで、逃げ出せば――ここで消えた命が無駄になる。
その責任を放棄するわけには行かない。
「――あぁ、国同士の繋がりを取り戻す。……そうすれば、少しは反撃できるだろ?」
「……そこまでの強敵で?」
「分からん。だから、協力が必要なんだよ。保険の保険にな――」
協力――と、言っても何一つして貰うつもりはない。
ただ、邪魔をさせず。無駄な神経を使わせないようにするためにこちら側に引き入れる。
本気で、相手がこちらを潰すにかかれば皇帝レベルが最低レベルの戦力が黒の見解となる。
そうなれば、国同士の連携もクソもない。
口では、協力だの何だと語っておきながら――何一つ、協力時の連携を考えていない事に今更気付いた。
「いや、もしかしたら協力しような。って言っておいて、自分の力でどうせ解決しちまうんだ。……俺は、強いからな」
「……」
「……なんだ? 自慢に聞こえたか? まぁ、実際、強いからな――」
「――強いって、何だ?」
唐突なローグからの問い掛けに、黒は笑みを消した。
「あなたの言う。強さとは、何ですか?」
「……」
「俺には、さっぱり分からなかった。強いって、他人をぶっ飛ばせる力だと思ってました。でも、違った――」
「……」
ローグが片腕を固定していた包帯を取って、傷だらけの腕を伸ばして黒に再び問い掛ける。
「――俺の強さは、救う強さ。この手だけじゃ、溢れそうな命も全部救う。それが、俺の目指す……本当の意味の強さ」
「……客観的に見て、自分は強いか?」
「――フッ、聞かないでくださいよ。全然、ダメダメですよ」
「なら、大丈夫だ。今のローグは、十分強い。その答えを知ってるだけでも、出会った時よりとは全然違うからな」
黒が片手を上げてふらふらと揺らしながら、ローグの下から去っていく。
「人は、1人じゃ何もできないって……気付かされました。だから、頼りなくても頼ってください……アナタが、俺にそうしてくれたように――力になります。……必ず」
黒が手を振って、ローグの前から去って行く。
その背中が、見えなくなってもローグは頭を下げている。
体を倒す際に生じた痛みに耐えながら、黒がイシュルワを壊した事で再出発できる事に感謝して――
最大限の敬意と感謝を込めて、黒の背中が見えなくなってもその頭を下げ続ける。
これからローグのしようとしていることは、これまでの歴史の中でも数える程度しか前例はない。
そんな歴史に名を残す偉業に比べれば、黒の今後など大変でもなんとも無い。
それでも、強いから――頼らない。
そんな黒の本心を見透かしたように、ローグは言った。
例え強くとも1人じゃ何もできない――。その言葉は、黒の心深くに刺さった。
「あぁ、俺は……強い。でも、理想や夢を守れる。って、堂々と宣言できねーよ」
『だが、宿主は1人で戦うのじゃろ?』
「あぁ、もう……十分だからな」
『もう、手加減もしてくれぬぞ? 見逃してもくれぬぞ?』
「あぁ、分かってるよ」
バハムートが脳内に語り掛け、黒も覚悟を決める。
きっと、それを前にすればもう一度決意は揺らいでしまう。
それでも、立ち向かう事には変わらない。逃げても逃げても、逃げ切れずにその責任は黒へと押し寄せる。
一人、草原を後にする。
目の前で腕を組んで待っていた人物の横を通り過ぎる。
その際、目があった。
互いに覚悟を確認し終えた。
「――最後まで、戦うぞ」
「……あぁ、お前となら、どんなに地獄でも楽しめそうだ」
「……悪いが、俺は死ぬ気はねーぞ? ミシェーレと幸せになりたいからな」
「昔のお前に、聞かせてーな。その言葉」
黒は、進む。
依頼であるものの北部最大の領土を有する国家――《オリンポス》へと。
そして、ハートもまた進む。大切な者達を守る為に、倭と帝国に仇なす者を駆逐する。
例え、それが――大切な友であっても……。
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