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2章 王冠に願う果てなき希望――【湖上に馳せる麗しの『乙女』達】
北の聖王《Ⅲ》
しおりを挟む客人を饗す豪華な一室で、テーブルの向こう側でソファーに座る聖王とその後ろで、立っているミッシェルの前に――皇帝が座っている。
聖王の隣で、紅茶を味わうシャウと床で力を失って崩れている暁には誰も触れない。
そんなこの場で、黒の態度は――北欧の命運を分ける。
その表情は少し不機嫌で、隣の未来が申し訳無さそうに聖王とシャウに謝る。
「……聞いてませんよ。聖王陛下?」
「えぇ、こちらの説明不足でした。まさか、シャウが説明を怠るとは思いもしませんでした……」
「いや、絶対嘘でしょ。2人共、俺が教師やってなんて言って、やる奴じゃねーからって説明しなかったろ?」
「「……」」
黒の言葉に、聖王とシャウの2人が揃ってソッポを向いて黒から視線を外す。
確実な確信犯で、もう北欧に着いたので断るにも断りづらい。そんな状況に場を整えた後では、もう遅い――
「まぁ、こっちもそれなりの用件で来たんだ。教師ぐらいなら受けてやるよ」
「「……ホント?」」
「あぁ、マジだよ。とは言っても、教えるのはそこまで得意じゃない……それに関して、文句は受け付けねーぞ?」
「はい、構いません。目的は、教育では――ありませんから」
目的が、教育ではない。
その発言に黒と未来、ミッシェルが驚く。
が、黒は少ししてその狙いが何なのか憶測でだが理解した。
「――あぁ、なるほど……学生の身の安全か?」
「……ここから先は、お話するにはリスクがあります。なので、引き受けて貰えるかの返事を聴かせて貰えますか?」
「私は、構いません。少しでも役に立てるのであれば……」
「あぁ、良いぞ。なにより、この部屋を遠目から見ている奴らが悔しがる様が見たくなった……」
黒が聖王の背後で、冷や汗を垂らすミッシェルに視線を向ける。
その目は、何かとんでもない事を考えた悪ガキのようでもある。
ただ、イタズラなどと言った可愛らしい物でも規模でもない。黒の視線に気付いて、視線を反らしてしまう。
一度、刃を交えた。
本気ではない。決して本気ではない力を目の当たりにしたミッシェルだからこそ――恐怖が押し寄せる。
エースダルとオリンポスの国境付近のスラムで、一度だけ顔を合わせて拳を交えた。
毒、魔力、魔物、様々な要因があって、万全ではない黒との戦いでその力を知った。
今は、そんな数々のデメリットは存在しない。魔力を取り戻して、魔物も体に馴染んだ。
戻ってから、馴染むまでの不完全な覚醒も完全な力となった。
こうなれば、北欧で戦争を起こしてもすぐに鎮圧される。
黒竜帝の力によって――
それが、聖王の切り札である。
聖王1人であれば、民間人を盾にどうとでもなる。だが、黒は違う。
例え、民間人を盾にしても意味がないほどの力で制圧される。
もちろん、民間人をすべて救出した後で――
確実な事は言えない。確実に民間人を助ける。確実にこちらを制圧する。
だが、これまでの実績、強さから見てもどちらかに優先して動けば――必ず、達成する。
ブラフマンの計画がすべて水の泡となって消えた。
ミッシェルの脳内で、その事に頭を抱えて奇声を上げるあの男の姿が目に浮かんでしまう。
――とは言え、この状況は芳しくはない。
ミッシェルは聖王に害する訳でも、北欧を滅ぼす事でもない。
それでも、ブラフマンに協力する。例え、黒竜帝が北欧に滞在する事で生じるリスクを承知で――
聖王は、強い。――だが、王が強いだけではこの先の世界情勢に遅れを取る。
それが、ブラフマンの見解である。それに賛同するのがミッシェル、その他の信徒達である。
となれば、最悪――強行的な手段に出る可能性も十分、あり得る。
(――聖王陛下の想いとは、かけ離れてるわね。私達は……)
聖王は、国土の繁栄は望まず。今ある土地と近隣地域の守護と平和を矜持する。
ブラフマンは、他国に劣らない力を欲している。大陸が不安定な今だからこそ四大陸の覇者になる。
そうして、倭やその他の島国、小さな国家を支配する。
《平和》と《力》の2つの意思が交差する。
北欧の裏で、着実に力と同士を募るブラフマンとは対照的に民の安全の為に――他国に頼る。
だが、完全にこちらが不利という訳では無い――
聖王の手札に黒や未来がいるように、ブラフマンの手札にも――《皇帝》は存在する。
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