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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
見届ける覚悟
しおりを挟む閃光――眩い光が弾けると共に、少し遅れて轟音が一帯に響く。
揺れる大地、分厚い暗雲が散り散りになる。天候も景観もたった1つの魔法で様変わりする。
巨大な大穴の中央で、真っ白な蒸気を纏った黒が短く息を吐いた。
消化器のように真っ白な吐息が、黒の口から勢い良く吐き出される。
肉体再生によって生じた大量の蒸気を体外へと排出する。
ここで、これまで受けたダメージによる損傷を8割再生する事となる。
渾身の魔力砲を放つ為に、防御に回した魔力をできる限り抑えに抑えた。
それによって、それまでダメージをモロに受ける事となる。
その生じた損傷やダメージをここで完全に無かったことにする。
「……バハムート、魔力はどれだけある?」
『まだ、妾のは大いにある。宿主もわかってるとは思うが、宿主の魔力は少し心許無いな――』
常人よりも遥かに大い魔力を有する黒でさえ、全力の魔力砲の後に間髪入れずに肉体再生の魔法を行使――
負荷軽減の為、ワンアクション入れる事なく。
直ぐに再生させ、肉体を再構築する。
肉体に掛かる負担を魔力に肩代わりさせ、相殺させる事は普通の魔法で治療するよりも何倍も消費が激しい。
時間を費やして、安全を取る。
一瞬で、超負荷を考慮しない。
どちらをとっても《メリット》《デメリット》は存在する。
安全を取れば、とてつもない隙を相手与える。
一瞬であれば、例え相手が動いても対応は可能。肉体に押し寄せる負荷も魔力で相殺する。
魔力を大きく削っても黒は次の一手を警戒して、一瞬を取った。
とは言え、黄に渾身の一撃を叩き込む。肉体を万全に整える。
この2点が、今後の戦局を大きく覆す事となる。
黒が与えたダメージは相当な物であっても、相手もまだ全力とは言えない可能性も十分ある。
渾身の魔力砲が黄へと与えたダメージの大きさで、黒の優勢が左右される。
だから、この身を犠牲に実行した。
――が、分かりきっていた。
「……」
『やはり、動いたな。むぅ……魔力砲程度では殺せないか』
「あぁ、そんなの――分かりきってたろ?」
巨大なクレーター、魔力砲によって生まれた巨大な穴の底から全身から蒸気を発した黄が大気を踏みしめながらゆっくりと上がってくる。
黒同様に魔力による再生で、肉体を万全に整えている。
黄も黄で、黒のような神業とは言わなくとも肉体の再生魔法は使えた。
肉体の欠損を修復し、何事もなかったかのように腕をプラプラ揺らして笑みを浮かべる。
「いい……ホント、今のは良かった。最ッッッ高に痺れて、気分は最高潮だ」
「あぁ、俺も最高だ。ここまで戦って、倒れないのは本当に……本当、久しぶりだ」
「そうだね……学生の頃は僕らと手合わせしても、どこか消化不良だったもんね。いつも、アイツとの対戦が僕らの熱を熱くさせた」
「今は、違うぞ……」
その一言で、黄は全てに満足した様な笑みを浮かべた。
はにかんで、照れるように頬を掻いて黒には微笑んで見せた。
「……そう、か……。なら、ようやく自分の目的が果たせそうだよ」
「目的、が何なのかは知らんが――アイツらの悔しがってる顔が目に浮かぶ」
「うん、僕もだよ……僕も、この日を……心の底から、待ち望んでいた」
黄が話しながらも歩みを止める事なく。
黒と同じ高度に到達する。
同じ領域に到達した事を意味しているかのように、2人は同じ目線で並んだ。
王の世代で、トップレベルの黒の隣に立って真っ向から挑む――生半可な覚悟ではその場に立てない。
さらに、黒が世界に名を知らしめる事となったあの事件以降、黒は更に強くなった。
力の制御を忘れ、本来の力を行使する事で自然と魔物の全力に体が無理にでも慣れた黒――
覚醒が世代の中でも特に速かった黒は、事件以降淡々と覚醒の壁を超えた。
超えた事による肉体の負荷を無視し、人が負えるレベルを超えた超負荷が、黒の力を更に増強させた。
それを後々に映像で知る事となって、強い嫉妬に苛まれつつも――黄は今に満足していた。
「本気、本気の黒と――ようやく戦える!」
何年か越しの手合わせ――
かつての友と交わした拳で、再び組手が組まれる。
そこに、審判やハンデはない。
ゲームによるルール、妨害、乱入もない。あっても、関係なくなる。
その様子を遠目から見守る1人の男は、2人の背中を誇らしげに見ていた。
誇らしげ――とは、少し違う。
かつての光景に想いをはせながら、あの場に立てない自分の立場を呪いつつも少しだけ嬉しそうであった。
「なぁ、黒――。今、どんな気分だ?」
ビストロ近くの草原で、空を見上げる。
ハートは、その場に立てないすべての王の世代を代表してこの場に立っている。
「なぁ、黄――。今、最高な気分か?」
最高の場を用意するために、ハートが草原に手をついた。
餞別――とは、少し違う。
2人の為に、最高の舞台を作る。
周囲の影響が完全に及ばない。ただ、指定した空間内部と外部の魔力や衝撃のみを完全に遮断する。
そんな高濃度魔力領域を形成して、黒、黄を包み込む。
「「サンキュー、ハート」」
2人が、揃ってハートの方へと振り向く。
小さく手を挙げて、ポケットに手を突っ込んで特等席でその最後を見守る。
せめて、当事者2人だけじゃなく。ハートもその最後を見届ける。
観客は、大勢居るかもしれない。
だが、特等席でその戦いを見れるのはハートぐらいである。王の世代から妬みや恨みを買いそうだとハートは肩を竦める。
それでも、この場に立った意味を誰よりも理解していた。
ただ、見守るだけなら誰でも出来る。
――邪魔する者達から、2人を守る。
それが、この場に立った特等席の役目である。
「■■■■■――。魔力感知、最大……少しでも変な動きの有る奴は、全部潰すぞ」
『■■■■■■■■■■――』
人語として理解はできない言葉の羅列が、ハートの頭に響く。
その少し後ろで、心配そうに胸の前で手を握る未来――
何一つ言葉にしないが、ハートは彼女の少し暗い顔から目を逸らした。
きっと、見てしまったら言葉にしてしまう。
それが、どんなに辛くとも――この場に立ったのは自分の決断だ。
そう、言い聞かせてハートはポケットに突っ込んだ拳を強く握る。
「ブチかませ……2人共」
試合の開始を告げるコング代わりの雷鳴が鳴り響く。
雷鳴と同時に、2人が空気を蹴って拳に魔力を込めた。
激しい魔力の衝突、嵐の様な魔力の渦がハートの高濃度魔力領域が揺れる。
思わずハートが膝を折った。
「はは……やべぇ……とんでもねーな」
その顔は少しも苦痛を感じさせない。
むしろ、興奮と高揚感に満ち溢れていた。
きっと、変われるのならば直ぐにでもその場に立って戦いたい。
そんな顔をして、ハートは更に高濃度魔力領域を囲む巨大な結界を創り出した。
完全な2人だけの空間――それは、2人にとって、全力が許された瞬間でもある。
思わず、未来が駆け出した。
その手をルシウスが止めて、遅れて合流した心が未来を後ろから抱き締める。
「未来、ダメだよ……2人の邪魔をしちゃ」
「うん、心の言う通りだ。2人の邪魔はしちゃいけない……それが、どんな結末でも」
「……分かってるよ。頭では、分かってる……けど」
――心が、それを許さない。
忘れもしないあの日々が――
笑って、遊んで、バカをやって騒いでいた。あの日の思い出が鮮明に蘇る。
鮮明に蘇る思い出の数々に、未来の心が締め付けられる。
きっと、未来以上の苦痛を――黒は背負っている。
あの日を最も楽しんでいたのは、黒だと一番分かっているからだ。
どんな結末でも、黒が一番傷を負う。
勝った。負けた。そんな生易しい物ではない。
きっと、黒にとってこの戦いがかつての心を抉るだけの結果になる。
勝っても負けても、黒は喜びはしない。
ただ、虚しいだけである。
「……未来、それを決めるのは俺達じゃない。――黒だ」
ハートが真っ直ぐ前を向いたまま未来に言葉を投げ掛ける。
「アイツもそれを分かって、この場に立った。今の俺達に出来るのは、アイツらの覚悟を尊重し……守る事だ。おれの予想が正しければ――邪魔する奴らはきっと来る」
「……」
「もしも、見届けるのが辛いなら――ビストロに戻れ。その覚悟は、ある筈だ。……黒の隣に、居続けるんだろ?」
ハートが血を流した拳をポケットから出した。
ハートも黒と同じく。黄達の現状に心を痛めていた。
――が、ハートは分かっていた。
自分が黄の立場なら、行き場の無い怒りをぶつけれるのは――黒だけである。
そして、仮に敵の手に落ちているのであれば――傀儡として朽ち果てるよりも、友の手で消えるのを望む。
誰よりも強く、誰よりも輝き、誰よりも王としてその茨の道を進んでいる。
「――だから、アイツじゃなきゃ意味がないんだよな……」
ハートが目を閉じる。
未来同様にかつての思い出に思いを馳せる。
自然と目頭が熱くなる。それでも、自分の役目を全うする。
多くの者達がこの場に立てない。遠い異国の地だからではない。
きっと、資格がない。
2人の邪魔をする。そんな相手を真っ向から叩き潰すだけの覚悟を持っていない。
全世界を敵に回す覚悟を持たないからこそ、この場に立てない。
「未来、ルシウス、心……ビフトロまで下がってろ」
ハートの言葉に、重みが増した。
それでも、3人は逃げずに見届ける。
例え、その先が地獄でもこの場に残っている。
「……なら、見届けよう。ただ、相手は――俺だけがする」
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