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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
天地、揺るがす王の力《Ⅱ》
しおりを挟む無意識、本能――
ただ、とにかく言葉にはできなくとも2人は互いの底を僅かに感じ取った。
目の前の相手が自分にどれだけ本気なのかは、既に分かりきっていた。
それでも、本当にここが限界なのか? ――そんな予感がした。
「まだ……だよな?」
「あぁ、まだだ……まだ、ここからだ」
「「あぁ、ここからだ。――ここからが……」」
「「――最ッッッ高に、面白いんじゃねーかッ!!」」
ほぼ、同時に2人の奥底から滾る魔力が溢れた。
沸き立つ歓声はない。
ただ、2人の笑い声、狂気に苛まれた不気味なまでに悪役が似合う2人の笑みがあった。
そして、沸き立った魔力に共鳴して2人の心臓が高鳴り、躍動するかのようにリズムを刻む。
周囲一帯の魔力に影響が及んだ。
2人の皇帝に呼応して、魔力が共鳴する。
彼らを起点に響き渡る太鼓の音色は、周囲の魔力を震わせた。
ハートの高濃度魔力領域で抑えが効かなくなり始める。
2人の魔力がその範囲を広げ、互いに互いの高濃度魔力領域を侵食する。
ハートの魔力領域、結界の2つが均衡を保てなくなる。
それほどまでに、2人の力は――許容範囲を超えていた。
顔つきを険しくさせ、結界と領域の維持に魔力を注ぐ。
一瞬の油断で、現状が崩れる。
2人のギアは上がり切っている。このままでは、ビフトロや周辺都市や村町に影響が及ぶ。
「ハート、そのまま堪えてッ!!」
「僕らの魔力で、補強します」
「ぅぅ、結界術は苦手だけど……頑張る!」
未来、ルシウス、心の3人がハートの壊れかけた結界を包む。
漏れ出た魔力を直ぐ様囲い込んで、ハートの結界が再構築されるまでの時間を稼ぐ。
3人の息の合った対応力に応えるように、3人の結界の外から再び結界を再構築する。
「「「「――!?」」」」
――それでも、間に合わない。
僅かな綻びが生まれた時点で、4人の理解を超えるほどの2人の魔力は高まっていた。
もはや、2人の魔力はブレーキが効かなくなった車のように、速度を上げに上げている。
上がりきったギアを上げる事は出来ない。なのに、2人の力は止まらない。
幾重にも重ねた結界、領域が尽くが爆散する。
ハートの結界、領域が軟だった訳では無い。何なら、領域だけでも十分な程に空間支配力は高かった。
それでも、ハートの支配力を上回る魔力が――その場を支配した。
圧倒的な物量で相手を殴るのは、一見イジメにも見える。
だが、それが両者揃った時点でイジメではない。
「……戦争かよ」
雲行きが怪しくなる。
雨足が強まり、突風が生まれる。
小雨が次第に嵐となる。
突風が竜巻を生み出し、草原の草木を揺らす。
高濃度魔力領域内で極限まで高まった魔力が溢れ、結界と領域に閉じ込められた魔力が広がる。
その影響で、天候が大きく変わる。
雷鳴、落ちる稲光が大地を穿って、草原が赤く燃える。
――魔力を行使しただけで、この変わり様である。
しかし、ハートが最も恐れた事が起こる。
これの影響を少しでも抑える為の魔力領域だったのに、意味がなくなった。
「……黒、世界を壊すつもりか?」
ハートが冷や汗を流しながら、3人を連れて周辺で最も近い町へと逃げる。
その顔にはとてつもない焦りが浮かんでいたのを未来は見逃さなかった。
「天地、傅け――《バハムート》」
「天地、轟け――《アルファカイウス》」
ハート達が空を見上げる。
暗雲の空に暗雲よりも暗く、黒く、この世の漆黒を代表する様な黒竜が暗雲を吹き飛ばして降臨する。
巨大な両翼で雲を飛ばして、青い眼光を光らせた黒竜が咆哮を上げる。
耳をつんざくような咆哮が、大気を振動させる。
物語であれば、生半可な覚悟でかの竜に挑んだ勇者は――その身を《恐怖》で萎縮させガタガタと震えるだろう。
――それほどの相反する『禍々しさ』と『神々しさ』を兼ね揃えた魔物が、草原に降臨する。
濁流となって押し寄せ、衝突し合う互いの魔力が渦巻く。
とてつもなく化け物級の魔物を従えた黒の前で、黄は笑ってみせた。
恐れ、抱いていないと言えば嘘になる。だが、恐怖よりも勝っている。
この場に立っていられる。そんな当たり前な事に、黄は一喜一憂していた。
――ここからが、本番だ。
そう言って、眩い閃光と共に現れた魔物と並んで2人が相手の間合いへと踏み込む。
2人の踏み込む先に向けて、バハムート、アルファカイウスの2体が魔力砲を放った。
巨大な魔力が真っ向から衝突し、漆黒の稲妻と眩い炎を上げる。
一歩、踏み込んだ両者の間合いの外で魔物が火花を散らす。
――魔物の咆哮が木霊し、巨大な力同士が衝突する。
砂塵でもはやその姿を捉えるのは困難となる。
そんな中でも、黒と黄は互いの位置を把握していた。
完全顕現の影響で、2人は魔物との魔力の繋がりが途絶える。魔物との繋がりが消えた事で、黒は魔力が底をついている。
もはや戦う為の魔力は存在せず、黄も同様に肉体の再構築で魔力が底を尽きる。
――となれば、拳で語るのみである。
黒の繰り出した上段回し蹴りを後ろに躱し、距離を詰める為に踏み込むと同時に黒の体を掴んで投げる。
地面に倒れ、黄が組んで寝技へと持ち込む。
それを見越して、黒が黄を力任せに持ち上げて体に関節を決められたまま――地面に叩き付ける。
「――ぐぅッ!!」
「――ぁッ!! ッ!!」
関節を外され、肩に力が入らない。
そんな状態でも外れた肩を掴んだ黄の顔に拳を振り下ろした。
緩んだ隙に黄の拘束から離れる。
外れた肩を擦りながら、立ち上がる黄の殴打を片手で捌く。
片手での対象では不十分で、黄の高い身体能力から繰り出されるトリッキーな動きと数々の国や地域で会得し、鍛錬を重ねて手に入れた我流が黒を襲う。
「養成所でも、そのダンスみたいな体術には苦戦させられた……」
「ダンス……に見えるけど、動きが読めない体術は苦しいでしょ?」
黄がリズムを刻むように、ステップで間合いを詰める。
ボクシングのように間合いを瞬時に詰めてから、目にも止まらぬ速さで打ち込む殴打の応酬。
口から唾液と混ざった血を吐き出して、屈んだ黒へとアッパーが炸裂する。
体を仰け反らせた黒へと飛び上がった黄の蹴りが、顔面を捉えた。
一撃一撃の確かな重さ、重さに加えてトリッキーな動きで対応を1つでも間違えれば途端に崩れる。
雪崩のように防御が崩れ、隙間の空いた弱い所を一気に突く。
やはり、接近戦――魔力の無い戦いでは、黄の方が1枚上手であった。
が、黒にも切り札が無い訳ではない。強いて言えば、完全顕現で魔物との接続を絶ったのも全て――この瞬間の為である。
《完全顕現》は、魔物を宿主との接続を断つことでその力を完全に外へと顕現させる事である。
完全に顕現させられた力は、一切の制限がない。純粋な魔物の力が結集されている。
《再装填》は、宿主の体に魔物の力を流し込む力である。
純粋な魔物の力を魔物ではなく宿主ベースで扱う。
完全顕現時のような膨大な魔力、戦闘力で戦える反面――壮絶なデメリットが実在する。
この場に立っている2人は、同じ領域に上り詰めている。
魔物を《顕現》させ、更に力を《開花》させ、深い《理解》を経た。
現在発見されている魔物の《覚醒》は、コレら3段階となっている。
――が、それはあくまでも現時点である。
これまで、幾度の異形による侵攻によって多くの騎士が台頭し、力に覚醒しその実力を示した。
多くの者達が夢見る頂きに君臨する皇帝達も、かつては切磋琢磨し力の研鑽に青春を燃やした。
であれば、王と王が本気で戦えば、自ずと力の研鑽は行われる。
果てには、未だ前人未到の領域に手が届くのかもしれない。
イシュルワで見せた《ヘルツ》の伸ばした手が、希望を掴んだ様に――2人が伸ばした先に皇帝にのみ許された領域がある。
その証拠に――先程までの魔物同士の激しい戦いが一瞬で消える。
急な無音、戦場だった場所から徐々に静寂が広がる。
ビフトロ周辺地域の守護へと回った筈の未来達が隣で棒立ち状態のハートが2人の方に目を向けている。
返事もなく揺すってもハートは事切れたかのように、動かない。
そして、未来、心、ルシウスの3人がハートの豹変ぶりに背筋を凍らせた。
真っ赤な眼光、緩んだ頬――戦場を渡り歩き、癒やす事の出来ない渇きを潤す為に戦う化け物――
黒と出会う前、黒と出会って少しした時のハートがそこには居た。
皇帝の中でも、皇帝でなくとも、2人の力に感化された者は揃って内なる魔物との呼応に抗えない。
「「「さぁ……上げて行こうか――」」」
ボソッ――と、言葉を口にする。
その言葉を、未来、ルシウスも口にする。
心が3人の変貌ぶりに困惑する中で、自身の心臓が熱くなるのを感じた。
そして、内側から溢れる力に――身を委ねてしまう。
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