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慶弥の章ー脇役でも全力の男ー
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しおりを挟む嫌な予感はしたんだ。
開店前のショッピングモールで全体リハをやってる時。
俺達の出番が終わり、サーカスの一団の番になった時。
……松明を持った、太った男を見た時。
まさかと思った。気にせず隅の方でスクワットをして誤魔化そうとした。
でも――。
そいつは案の定、松明に火を点けた。
俺の体が一気に強ばる。男はそのデカい口でぱくりと火を飲み込むと、勢いよく業火を吹き出した。
ワッとイベントのスタッフ達が沸き立つ。俺のショー仲間も皆「すげーな」とパフォーマンスに喜んでいた。
俺を除いて。
俺はといえば、カッコ悪く硬直していた。心臓が激しく鳴り、鼓動が鼓膜を忙しなく打つ。五感を失って暑いのか寒いのかすらも分からない。汗がこめかみを伝い、手が小刻みに震える。
俺はあっさり耐えきれなくなって、その場から走って逃げた。金縛りが解けたように、弾けるように走りまくった。
俺は――火恐怖症だ。
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