stray Crow

慧サト

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閑話ーお小遣い戦線ー

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 そこそこ大きな市にある『はぜくら法律事務所』。そこに境木家の主・侑は勤めている。
 とは言っても、下っ端で特に資格もない彼は主に雑用業務なのであるが――

「中卒くん! これコピーとって!」

 この呼び方は何とかならないものか、と侑はうんざりする。その通りではあるけれど。
 そう呼ぶのはここのボス・櫨倉梅子はぜくらうめこ、30代の若き女性弁護士である。しかし、小太りで髪型も野暮ったいため見た目年齢不詳だ。侑はファイルを整理していた手を止めて「はい」と立ち上がる。

「遅いよ! キリキリ動いて!」
「すみません梅子さん」
「名前で呼ぶな!」

 櫨倉は名前で呼ばれるのを嫌う。真っ赤になって憤慨するボスを見て侑は――もちろんワザと言った――溜飲を下げた。櫨倉から書類を受け取るとコピー機の前に立ち作業する。「まったく今時の若い奴は……」と後ろで小言を言われるが彼は無視した。


 侑は、高校には行っていない。たまたま櫨倉と知り合いだった竹淵のツテで働かせて貰っている。しかも正社員なので、本来なら溜飲を下げる立場ではないのだが。

「あ、いけない。今日はハナにお小遣いやる日だったわ」

 こう見えて意外と二人の仲は悪くないのである。小さい事務所だからかもしれない。カレンダーを見て呟く櫨倉を侑は振り返って見た。
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