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第一章 再会は突然に

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私はなるべくふらりと立ち上がりながら、馬車の扉を開けた。

そこにいたノエル、サイモン、レジナルド、名も知らぬ不良くん、護衛騎士の青年が一斉に私の方を見る。



よかった、まだ誰も怪我一つしていない。



「もう大丈夫なのか!」

レジナルドの表情は硬い。



「まだ無理をしてはいけないよ」

ノエルは笑顔を浮かべ、相変わらず本心が見えない。



「姉さん、どこか痛いところはない?」

サイモンは良い弟に育った。私は嬉しいよ。



「おい、何起き上がっているんだ。寝ておけ」

そして、不良くん。実は君、優しい男だな?



彼らは調子の悪い私と不良くんをどう扱うかで言い合いをしていたようだ。

不思議なことに、不良くんとノエルたちに会話の齟齬は起きていない。



世界の方程式が私の生きていた場所とは違う作用をしているのだろう。



ほっと安堵の息を吐きながら、私はあたかも弱々しく彼らに返事をした。



「えぇ、痛みは一旦収まりましたわ。ただ、今日のところはお屋敷に帰らせていただいてもよろしいでしょうか」

「あぁ、そうだな。医者を手配しよう」



「この不審者はどう処理する?」

「不審者じゃねぇよ」



「彼は一旦、ロイド公爵家に預けてもらえませんか。助けて頂いたのは事実ですもの」

「姉さん……」



「ふむ、分かった。追って正式な判断が下るまで、ロイド公爵家にて保護してもらうことにしよう。異論はないな?」

ノエルがその場にいた全員に視線を送る。



不良くんが私に視線を送ってきたので、私は優しい笑みを浮かべた。



「手荒な真似は致しませんわ」

「まぁ、それなら」



致し方なし、と彼は覚悟を決めてくれたようだった。



皆の意見がまとまりかけた、その時だった。

茂みの向こうから強力な魔力のエネルギーの塊がやってくるのを感じたのは。



それは真っ直ぐにノエルに向かって放たれていた。



自動翻訳の方程式を編み出した世界も、どうやら『こいまほ』のイベントストーリーを書き換える力はなかったようで。



私は急造した病弱設定のこともすっかり忘れて、ノエルの前に飛び出した。

驚いた榛色の瞳が私を見つめていた。



「なっ、パトリシア嬢……⁉」



ウインクの一つでもキメたかったのだが、そんな余裕はない。



私は両手を広げてノエルを背後に庇い、ぎゅっと瞼を閉じた。

やって来る衝撃に備えていると、瞼の向こう側に大きな影を感じた。



次の瞬間、身体の横から突風が吹いて衝撃が通り抜けていった。

爆音が辺りに響いたあとは、沈黙が森の中を支配するばかり。
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