愛してるなら、噛みついて。(改稿中)

高殿アカリ

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第3章

3-4

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その日は、とても暑かった。
何一つ後ろめたいことがない夏の太陽は、容赦なく大吾のシャツを照らしていた。

雪が実習先の病院で泊まり込んでいるため、二人の待ち合わせ場所は遊園地最寄りの駅となっていた。

待ち合わせ時間を過ぎても、この場に現れない雪の姿に大吾は次第に不安になっていく。

じんわりと嫌な汗が背中を流れ、シャツに染みを作り始めた頃、大吾のケータイが鳴った。

ただそこには一言、雪から「大吾くん、ごめん」とだけ示されていた。
「ごめん」の三文字が嫌に大吾の目に焼き付いた。

大吾は雪に返事をすること無く、そのまま電話をかけた。
ワンコールで出た雪は、恐らく大吾から電話がかかってくることを見透かしていた。

「もしも、」

「今日が無理ってこと?」

「そうなんだ。本当にごめんね。もう最寄りの駅だよね?誰か他の人を誘ってもらえるかな?それか、また日を改めても良いし、」

「そんなことはどうでもいい」

「え?」

「何で来れないのか、それだけを聞きたい」

「あ、そうだね。実習先でちょっとトラブルがあって、」

そのとき、電話の向こう側で雪を呼ぶ声がした。

「雪ー?」

「あ、うん。今行く。……大吾くん、本当にごめんね。もう行かなきゃ。埋め合わせはちゃんとすっ」

大吾は雪の言葉を最後まで聞くことなく、電話を切った。

雪の名前を呼んだその声は、男の大吾には決して出せない甘くて甲高い、女の声だった。

「雪って呼ばせてんじゃねぇよ……」

大吾は小さくそう呟き、苦しそうに眉根を寄せた。

しかし、それは大吾の我儘だ。
雪にとっては迷惑なだけでしかない。

仮に、大吾が雪に思いを伝え、万が一雪が大吾に思いを返したとしても、それはきっと家族愛の域を出ないだろう。

雪は大吾のことを弟のようにしか思っていないはずだ。
もしかすると、優しさから雪は大吾のことを受け入れてくれるかもしれない。

しかし例えそうであったとしても、柔らかい胸や小柄な体躯を、大吾は雪に与えることが出来ない。

ましてや、自分は雪を組み敷きたいのだ。
その綺麗な身体を穢したいのだ。

まだ、誰も触れたことのない雪の秘密の花園に、己の欲望を吐き出したいのだ。

「でも、それは出来ない」

大吾にも分かっていた。
雪が愛するのは女で、女という生き物はこんな赤黒い凶器にも似た性器など持っておらず、こんなにも醜くとめどない情動もない。

雪の隣に相応しいのは、彼によく似た真っ白な女の子なのだ。

そのとき、自分ではどうすることも出来ない性別という巨大な壁を前に、大吾の何かが目を覚ました。

それは、大吾をどす黒く染めていき、彼の中にほの暗い光を灯した。

どうせ相手にしてもらえないのならーーーー。

禁忌にも似た感情が大吾の身体を侵していく。
誰にも分かるはずがない。
誰にも止められるわけがない。

「俺の雪への思いなど……」

焦がれるように、渇くみたいに、大吾は雪を欲した。
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