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第一章 日常
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夕焼け色の暖かな西日が、寝室の窓辺から降り注ぐ。
「……ぅ、ん?」
その眩しさに眉をひそめて、数秒後。周の瞼が開いた。長いまつ毛に縁どられた瞳は赤みがかった茶色で世界を見渡す。
均整のとれた顔立ちは、彼が子どもの頃から色気と甘さを纏って男女問わず魅了していた。
周はそんな自身の顔を好きだとも嫌いだとも思わない。ただ、愛生が褒めてくれるからこの顔で生まれてきて良かったと思うだけ。
「ふぁああ」
周が大きな欠伸をしてむくりと気だるげに身を起こす。こきこきと首を数度鳴らせたところで、ぐううと腹の虫も鳴った。
ベッドから立ち上がり、一階へと降りていく。寝ぐせがついた短髪はアッシュグレイに染めてもらったばかりである。
ダイニングのテーブルにはラップのかかったご飯が置かれていた。朝、愛生が作った料理だ。
そしてキッチンには鍋に入った味噌汁も用意されている。温めて食べろ、ということだろう。
「今日も豪華だな」
無表情の顔を少しばかり微笑ませて、周は言った。それから黙々と朝食を食べ始める。
夕方に食べる愛生の手料理こそ、ホストである周の朝食になるのである。
そうこうしているうちに、玄関の扉が開く音と愛生の声が聞こえてきた。
「ただいまぁ!」
周の綺麗に整えられた眉がぴくりと動く。そのあとすぐにリビングの扉が開かれて、仕事帰りの愛生の姿が周の視界に映り込む。
「おかえり、愛生」
周の言葉に愛生は満面の笑みを浮かべると、その表情を見た彼はほんの一瞬、ほっと安堵の息を吐く。
(今日も無事に帰ってきた――また、何かあったら……)
だが、この不安は愛生に気付かせてはいけない。周の表情はすぐに微笑みに切り替わる。
幸いにも、そんな周の様子に気付くことなく、愛生が駆け寄ってその首にしがみついた。
「つかれたぁ」
ごろごろと甘えてくる愛生の頭を撫でてやる。それからすっと愛生の顎を持ち上げると、彼の少し緑がかった灰色の瞳が期待にきらめく。
うっすらと開いた唇は淡い桃色に染まり、周の欲情を誘ってくる。ふっと笑って、周はそのまま口付けを落とした。
最初は甘く優しく、啄むように。ちゅっと僅かなリップ音を奏でて。
それから何度も角度を変えて、愛生の唇を堪能しているうちに、愛生の瞳が潤み始めてきた。息も少し上がっているようだ。
「っ、はぁ、あまね……もう……」
「うん、いいよ」
堪えきれなくなった愛生のおねだりを合図に、周は舌を差し込んだ。先程までの生ぬるいキスなどまるでなかったかのように、愛生の全てを食らいつくす勢いで、周の舌がぬるりと蠢く。
口内を縦横無尽に犯し、自分のそれより少し小さな歯列をなぞってやると、愛生の甘い声があがる。
「ふぁ」
周は無意識のうちに左手を愛生の腰にあてがい、ロングT シャツ越しに男にしては細い腰を撫でさする。右手は愛生の耳朶に添えられ、彼の細部をすべて理解しようとあらゆる凹凸をゆっくりとたどっている。
「……ぅ、ん?」
その眩しさに眉をひそめて、数秒後。周の瞼が開いた。長いまつ毛に縁どられた瞳は赤みがかった茶色で世界を見渡す。
均整のとれた顔立ちは、彼が子どもの頃から色気と甘さを纏って男女問わず魅了していた。
周はそんな自身の顔を好きだとも嫌いだとも思わない。ただ、愛生が褒めてくれるからこの顔で生まれてきて良かったと思うだけ。
「ふぁああ」
周が大きな欠伸をしてむくりと気だるげに身を起こす。こきこきと首を数度鳴らせたところで、ぐううと腹の虫も鳴った。
ベッドから立ち上がり、一階へと降りていく。寝ぐせがついた短髪はアッシュグレイに染めてもらったばかりである。
ダイニングのテーブルにはラップのかかったご飯が置かれていた。朝、愛生が作った料理だ。
そしてキッチンには鍋に入った味噌汁も用意されている。温めて食べろ、ということだろう。
「今日も豪華だな」
無表情の顔を少しばかり微笑ませて、周は言った。それから黙々と朝食を食べ始める。
夕方に食べる愛生の手料理こそ、ホストである周の朝食になるのである。
そうこうしているうちに、玄関の扉が開く音と愛生の声が聞こえてきた。
「ただいまぁ!」
周の綺麗に整えられた眉がぴくりと動く。そのあとすぐにリビングの扉が開かれて、仕事帰りの愛生の姿が周の視界に映り込む。
「おかえり、愛生」
周の言葉に愛生は満面の笑みを浮かべると、その表情を見た彼はほんの一瞬、ほっと安堵の息を吐く。
(今日も無事に帰ってきた――また、何かあったら……)
だが、この不安は愛生に気付かせてはいけない。周の表情はすぐに微笑みに切り替わる。
幸いにも、そんな周の様子に気付くことなく、愛生が駆け寄ってその首にしがみついた。
「つかれたぁ」
ごろごろと甘えてくる愛生の頭を撫でてやる。それからすっと愛生の顎を持ち上げると、彼の少し緑がかった灰色の瞳が期待にきらめく。
うっすらと開いた唇は淡い桃色に染まり、周の欲情を誘ってくる。ふっと笑って、周はそのまま口付けを落とした。
最初は甘く優しく、啄むように。ちゅっと僅かなリップ音を奏でて。
それから何度も角度を変えて、愛生の唇を堪能しているうちに、愛生の瞳が潤み始めてきた。息も少し上がっているようだ。
「っ、はぁ、あまね……もう……」
「うん、いいよ」
堪えきれなくなった愛生のおねだりを合図に、周は舌を差し込んだ。先程までの生ぬるいキスなどまるでなかったかのように、愛生の全てを食らいつくす勢いで、周の舌がぬるりと蠢く。
口内を縦横無尽に犯し、自分のそれより少し小さな歯列をなぞってやると、愛生の甘い声があがる。
「ふぁ」
周は無意識のうちに左手を愛生の腰にあてがい、ロングT シャツ越しに男にしては細い腰を撫でさする。右手は愛生の耳朶に添えられ、彼の細部をすべて理解しようとあらゆる凹凸をゆっくりとたどっている。
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