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第二章 危険
5 side.周
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周の眉間にしわが寄る。愛生のもとへ駆けだそうとした周だったが、次の瞬間、驚きに目を見開く。
愛生のGPSがすごい速さで動いていたからだ。徒歩ではない。この速度は自動車だ。
「おかしい」
周はすぐさまこのあたりで見張りを頼んでいた同僚に電話をかける。だが、空しい呼び出し音が鳴るばかりで一向に彼が電話に出る気配はない。
「ちっ、くそ……!」
いらいらとしながら、GPSの映し出されている画面を見る周。やがて、それがどこに向かっているのかに気が付いて、周は顔色を変えた。
薬物売買をしている大元の事務所にGPSは移動していたのだ。慌てて再び相棒に電話をかけながらも、必死で走る周。
「頼むから、無事でいてくれ……!」
同僚にはやはりつながらない。大きな舌打ちをして、周の指は迷うことなく「110」を押していた。
警察に電話をしながらも事務所への道を急ぐ。
やがて、事務所に辿り着いたときには、息が上がっていた。だが、愛生の身に何かがあってからでは遅いと、周は息を落ち着ける間もなく、事務所の扉をけ破った。
幸いにも朝で、下っ端たちはほとんどいなかった。事務所にいる数人の下っ端も薬を吸っていて周には気が付いていない。その様子を見て、だから一番上の組は薬でシノギを稼ぐことを嫌うのかと妙に納得した。
そんな廃人と化した彼らを尻目に、警察の到着を待つ前に、周は一人事務所に突入したのだ。
警察の介入が遅くなることくらい、分かり切っていたから。
バンっ! と勢いよく扉を開いた周の前に広がっているのは、組の頭に組み敷かれている愛生の姿だった。愛生の怯えた瞳が真っ直ぐに周を見ていた。
その瞳に射抜かれた瞬間、周の血管は切れた。愛生が周の助けを求めている。その事実しか考えられなくなったのだ。
「てめぇ!」
瞳孔の開いた周が愛生の上の男に殴りかかる。結局、男も薬中だったので、大した力はなくそのまま殴り飛ばされた。
乱れた服の前を震える手でつかみながら、愛生が周を見ていた。だが、周は大男を殴ることに必死で愛生の視線には気が付いていない。
大男の顔面が血で見えなくなったとき、ようやく周は振り上げていた自身の手を下した。拳の皮はずるむけており、ひりひりとした痛みだけが生々しい。
肩で息をしていると、愛生が周のそばに寄ってくる。それからそっと後ろから周を抱きしめて、額を背中にこすりつけた。
「周。ありがとうな……でも、俺、もう大丈夫だから。周が来てくれただけで、俺……」
震えている愛生の手が周の胸に伸びてくる。周は血にまみれた自身の手で愛生の手を包み込んだ。それは一見、愛生を慰めているように見えて、その実、周が彼に縋っているようにも見えた。
どのくらいその体勢でいたのだろうか。やがて、周の呼んでいた警察が現場に到着し、下っ端たちをまとめていたちんけな組は一斉摘発された。頭が救急車に乗せられるのをどこか非現実的だと思いながら見ていた周の前に二人の刑事が現れる。
「署までご同行願えますか?」
「はい」
躊躇すらなく、へらりと笑う周を愛生が不安そうに見上げている。愛生の指先が周の袖を掴んだ。だが、それもすぐに救急隊に引きはがされた。愛生は愛生で病院に連れていかれるのだろう。
後ろ髪をひかれるように周を見ている愛生に、周は安心させるように微笑んだ。それから、そのまま警察と一緒にパトカーへと乗り込んだのだった。
愛生のGPSがすごい速さで動いていたからだ。徒歩ではない。この速度は自動車だ。
「おかしい」
周はすぐさまこのあたりで見張りを頼んでいた同僚に電話をかける。だが、空しい呼び出し音が鳴るばかりで一向に彼が電話に出る気配はない。
「ちっ、くそ……!」
いらいらとしながら、GPSの映し出されている画面を見る周。やがて、それがどこに向かっているのかに気が付いて、周は顔色を変えた。
薬物売買をしている大元の事務所にGPSは移動していたのだ。慌てて再び相棒に電話をかけながらも、必死で走る周。
「頼むから、無事でいてくれ……!」
同僚にはやはりつながらない。大きな舌打ちをして、周の指は迷うことなく「110」を押していた。
警察に電話をしながらも事務所への道を急ぐ。
やがて、事務所に辿り着いたときには、息が上がっていた。だが、愛生の身に何かがあってからでは遅いと、周は息を落ち着ける間もなく、事務所の扉をけ破った。
幸いにも朝で、下っ端たちはほとんどいなかった。事務所にいる数人の下っ端も薬を吸っていて周には気が付いていない。その様子を見て、だから一番上の組は薬でシノギを稼ぐことを嫌うのかと妙に納得した。
そんな廃人と化した彼らを尻目に、警察の到着を待つ前に、周は一人事務所に突入したのだ。
警察の介入が遅くなることくらい、分かり切っていたから。
バンっ! と勢いよく扉を開いた周の前に広がっているのは、組の頭に組み敷かれている愛生の姿だった。愛生の怯えた瞳が真っ直ぐに周を見ていた。
その瞳に射抜かれた瞬間、周の血管は切れた。愛生が周の助けを求めている。その事実しか考えられなくなったのだ。
「てめぇ!」
瞳孔の開いた周が愛生の上の男に殴りかかる。結局、男も薬中だったので、大した力はなくそのまま殴り飛ばされた。
乱れた服の前を震える手でつかみながら、愛生が周を見ていた。だが、周は大男を殴ることに必死で愛生の視線には気が付いていない。
大男の顔面が血で見えなくなったとき、ようやく周は振り上げていた自身の手を下した。拳の皮はずるむけており、ひりひりとした痛みだけが生々しい。
肩で息をしていると、愛生が周のそばに寄ってくる。それからそっと後ろから周を抱きしめて、額を背中にこすりつけた。
「周。ありがとうな……でも、俺、もう大丈夫だから。周が来てくれただけで、俺……」
震えている愛生の手が周の胸に伸びてくる。周は血にまみれた自身の手で愛生の手を包み込んだ。それは一見、愛生を慰めているように見えて、その実、周が彼に縋っているようにも見えた。
どのくらいその体勢でいたのだろうか。やがて、周の呼んでいた警察が現場に到着し、下っ端たちをまとめていたちんけな組は一斉摘発された。頭が救急車に乗せられるのをどこか非現実的だと思いながら見ていた周の前に二人の刑事が現れる。
「署までご同行願えますか?」
「はい」
躊躇すらなく、へらりと笑う周を愛生が不安そうに見上げている。愛生の指先が周の袖を掴んだ。だが、それもすぐに救急隊に引きはがされた。愛生は愛生で病院に連れていかれるのだろう。
後ろ髪をひかれるように周を見ている愛生に、周は安心させるように微笑んだ。それから、そのまま警察と一緒にパトカーへと乗り込んだのだった。
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