その女、女狐につき。

高殿アカリ

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2.生徒会へようこそ

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 その日の倉庫にて、事件は起こった。



 私は今日も今日とて、下っ端くん達と団欒をしていた。



 穏やかな毎日。

 生徒会入りも防いだし、厳ついお兄さんたちとの関係も順調そのもの。



 だって、彼らが怖いのは顔だけ。

 蓋を開けてみれば、レディファーストの英国紳士ばかり。



 はぁ、つまらない。

 一向に黒閻のトップたちは私に靡いてくれないし……。



 なんて思っていたときだった。



 二階から言い争うような声が聞こえてきたかと思えば、一花が泣きながら飛び出してきて、私に抱き着いたのだ。



 目を白黒させる下っ端くん達。

 二階から慌てたように駆け下りてくる、フウガたち三人。



 私は事の次第を把握して、一花の背中を撫でてあげる。



 ここが勝負よ、愛美。

 一花をうまいこと追い払わなくちゃ。



「なんでお前が慰めてんねん」



 怒りを露わにするタイシ。



 その大声に肩をびくりとさせてから、返事をする。

 これがポイントよ。



「……あ、ごめ……なさい。一花が泣いていたから……」



 私の声に、一花も生徒会に入るチャンスだと思ったのか、より一層私を抱きしめる腕に力を籠める。



 その様子を切なげに見ていたケイが声をかける。



「すみませんでした、一花さん。……でも危ないんです、今の時期は」



 何の反応もしない一花に傷ついたような顔をする三人。



 話を進めましょうか。



「何があったんですか」



 私の問いに、フウガは一睨みするもきちんと答えてくれる。舌打ち付きだけどね。



「……ちっ。一花が、生徒会に入りたいんだとさ」



「みんな、私のことを信用してくれないのね……」



「そうやない! ……何で信じてくれへんねん」



 辛そうに金色の前髪をくしゃりと握りつぶすタイシ。

 痛いほど、一花を大切にしているのが伝わってくる。



 でも、だからこそ、なのだ。



 だからこそ、私は寵愛姫が憎らしい。

 だからこそ、彼らに振り向いてほしい。



 ここには、私もいるのよ。



 醜いプライドと嫉妬が私の中を荒れ狂う。



 いつの間にか一花は私から離れていて、真っ直ぐにフウガだけを見ていた。



 フウガは何も言わない。ただ、その瞳は全力で一花に向けられている。



 あぁ、まただ。

 私は自分の瞳が温度を失っていくのを感じていた。



 二人の間に割って入ることが出来ないのが、悔しい。

 二人の世界だけで完結していることが、悲しい。



 私は、寵愛姫になりたい。



 私だって、ここで息をしている。

 誰かに愛されたくて、生きている。



 なのに、どうして……。
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