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Story 01 side.ANKO

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その日から、私たちは互いの時間が空くと度々会うようになった。

言葉を交わすだけで虚しさから解放される日もあれば、そうでない日もあった。



そういうときは決まって身体の関係を持つ。



次第に彼女との関係が世間からして正常なものではないことを忘れ始めた。

そこには全てを忘却して、二人だけの世界が構築されていたから。



甘美で罪深く、それでいてどこまでも赦される優しい世界だ。



チャコと会う日はいつも和菓子を作って持っていった。

それは彼女が喜ぶためだったかもしれないし、彼女を繋ぎ止めておくための無様な選択だったかもしれない。



かりんとうは艶やかで愛らしく、柏餅の新緑の香りは初夏を想起させる。



あんみつにはアイスクリームを乗せて、クリームあんみつにした。

溶けてしまう前に急いで食べなきゃってはしゃぐチャコが愛らしい。



もちろん、金平糖を用意したこともある。

ざくざくと砂糖を噛み砕きながら、しとしとと窓の向こう側にある雨の音に二人でそっと耳を澄ませた。



夏前には、こっそり水無月を用意した。

「夏越の祓え」に無病息災を祈って食べるお菓子であることは秘密。



チャコはそういうの、信じなさそうだったから。

それでも彼女と私の未来を少しでも信じてみたかったから。



白玉、錦玉、ういろう、カルメ焼、かき氷に綿菓子、薄荷糖、雲平。

夏はあっという間に過ぎていった。



淡く耀く和菓子たちが、甘くほろほろと私たちを彩る。



「餡子は和菓子職人に向いてるのかもねー」



何気なくチャコがそう言った。

その言葉の無責任さに憎くなって、それでもやっぱり憎めなくて。



私たちの関係は相変わらずだ。

ただ季節と和菓子だけが通り抜けて行った。



がらんどうな私たちの身体に、くどくない和菓子特有の甘さだけを残して。
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