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Story 01 side.ANKO

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それから、一週間後あたりのことだった。

同じホテルの同じ部屋に私たちはいた。



「あたし、明日東京に行く」



チャコから紡がれた衝撃の言葉に自分の肩が大きく揺れる。



こんな日がいつか来るのは分かっていた。

でもそれは今じゃない、と現実を見ないままそう信じていた。



否、信じていたかった。

分かっていて、見ないふりをしていたの。



「え? 待って、それじゃあ、私は」



――――置いていかれるの?



私の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

チャコが私の言葉を遮ったからだ。



「だって! 仕方がないよ。あたしたち、絶対上手くいきっこないもん。一緒に逃げても、さ。多分全部、終わっちゃうよ。いつか終わるんだよ、全部ぜーんぶ」



チャコが枕を力任せに叩きながら、狂ったような金切り声でそう叫ぶ。



その華奢な背中が痛々しかった。

金髪も何処かくすんで見えた。



あの日、きらきらと鱗粉を撒き散らしていた妖精はもう居ない。

じゃあ、これは誰の背中?



――――ただの、チャコだよ。



世話好きな誰かが私にそう教えてくれているみたいだった。

すとん、と肩が軽くなって、私の口角がふっと持ち上がる。



「……チャコがそう思ってしまうのは、私のお父様と貴女が関係を持っているから?」



がばっとこちらに顔を向けたチャコの瞳は大きく見開かれている。

無防備に驚く姿に、私は胸がすく思いがした。



「餡子、知って……たの?」



ふぅ、と深呼吸をして私は告げた。



ずっと隠していた本当のこと。

チャコと一緒に居るために見ないふりをしていた本当のこと。

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