紳士と黒猫

高殿アカリ

文字の大きさ
8 / 10
序章みたいな短編

8

しおりを挟む
「やーっと帰ったわね。それで? なんであんな嘘ついたのよ。私が記憶喪失なんて。それに、あの人たち確実に私たちのこと勘違いしていったわよ」
「うーん、どうしてだろうね」

レオンは柔和な笑顔ではぐらかすも、あゆみは嫌悪の表情を浮かべる。

「私、その笑顔嫌いだわ」
「そう、ありがとう」
「会話が噛み合ってないわよ」

レオンはあゆみの指から再び煙草を取り上げる。

「それよりも、また吸っているじゃないか。『箱庭のモナ・リザ』を手に入れられなかったことがそんなに悔しいのかい?」

あゆみはふてくされて、毛布の中に入り込む。
レオンは布団の上から彼女の頭をぽんぽんと優しく叩いた。

「夜ご飯になったら榎本を呼びにこさせるよ」

それだけ告げて、レオンは客間を出ていった。
そして、自ら閉じた客間の扉にもたれかかり、先程まであゆみが吸っていた煙草を1度だけ吸う。

「まったく……とんだ黒猫を拾ってしまったみたいだ……」

レオンは昨夜のことを思い返していた。
あゆみと出会った夜のことを。



土砂降りの雨の中、西園寺家の屋根の上にあゆみはひっそりと身を潜めていた。

「この雨の中じゃあ、『箱庭のモナ・リザ』も無事に持って帰られるかどうか……」

あゆみは“悪魔の微笑み”と呼ばれる名画『箱庭のモナ・リザ』を思い浮かべ、うっとりと目を細めた。

「あ~、だけど『箱庭のモナ・リザ』をもし手にすることができたのなら、想像もできないほど幸せなんだろうなぁ」

そのとき、あゆみの足元にあった隠し扉の屋根が内側に開いた。
突然、足場を失ったあゆみはびっくりした顔のまま、西園寺家の洋館へと落ちていく。

どしん! と大きな音と共に屋根裏部屋に落ちたあゆみを出迎えたのは、西園寺レオンその人であった。
彼は冷ややかな笑みを浮かべ、

「やぁ、子猫ちゃんの探しているものはこれかな?」

『箱庭のモナ・リザ』を手に掲げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...