鎮西八郎為朝戦国時代二転生ス~阿蘇から始める天下統一~

惟宗正史

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第七話

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 為朝が大友と講和して一か月、その間にも九州は揺れ動いていた。
 まず、大友が支配していた九州北部の少弐を筆頭にした国衆が大友から大内へと鞍替えし、大友は大内と再度戦を始めることとなった。
 さらに宗運が首魁となって大友領内でも一揆を発生させ、為朝への手出しをさせないようにしていた。
 そして為朝がいる肥後でも大きな動きがあった。
 九州の名族である菊池の頭領であり、為朝が討った大友義鑑の弟である菊池義武が亡命していた島原から肥後の隈本城へと入城していた。
 義武は大友との血縁であるが、菊池の後継者となると独自路線へと走り、大内の筑前守護の誘いを受けて挙兵。だが、大内と大友の和平で権威が揺らぎ、隈本城を捨てて島原へと亡命していた。
 そして今回の為朝が大友義鑑を討ったのを受けて再び好機とみて隈本城へ入城したのである。
 そんな荒れに荒れている九州情勢の中心人物である為朝は、鎮西二十烈士を連れて河原で相撲をとっていた。
「でえい!!」
 気合と共に為朝は相撲の相手となっていた甲斐親秀を投げ飛ばす。それをみて親常は声をあげる。
「そこまで!! 為朝様の勝ち!! これで為朝様は鎮西二十烈士二十人抜きだ!!」
『おおぉぉぉぉ!!!』
 親常の声に半裸の鎮西二十烈士の面々が片腕をあげて鬨の声をあげる。為朝はそれに答えながら相撲ととっていた場所から離れ、竹筒から水を飲み始めた。すでに河原では次の取り組みが始まっている。
「あいたたた……為朝様は相変わらず妖のような怪力ですね」
 そんな為朝のところにやってきたのは先ほど為朝と相撲をとっていた甲斐親秀。宗運と共に為朝擁立に尽力した甲斐親成の弟であり、鎮西二十烈士の一員である。
「確かに為朝様は人ならざる怪力だが、親秀は弱いだけではないか?」
「何を!!」
 そんな風に親秀に喧嘩を売りながらやってきたのは阿蘇大宮司の家臣で為朝の重臣でもある隈庄親昌の嫡男・隈庄鎮昌であった。
 為朝はお互いに胸ぐらを掴み合って罵り合う二人を眺めながら水を飲む。別にこれは二人の仲が悪いだけでなく、こういうやりとりが鎮西二十烈士の中では普通であった。
 そこに為朝に布が差し出されてきた。差し出してきた人物をみると、鎮昌の弟の隈庄守昌であった。
「すまんな」
「いえいえ」
 守昌から布を受け取ると為朝はかいていた汗を拭きとる。
 尋常ならざる武勇の持主である鎮西二十烈士の中において、親常、親秀、鎮昌、守昌の四人が特に武勇高く、四天王とも呼ばれていた。
 罵り合いも一息ついたのか、親秀と鎮昌も為朝の近くにやってきて腰を降ろす。一応、上座と思わしき場所に為朝が座り、あとは適当に座るのが鎮西二十烈士の集まりであった。
 腰に差していた竹筒から水を一口飲むと、鎮昌が口を開く。
「為朝様、隈本城の菊池はどうするんです?」
 為朝の本拠と隈本城は指呼の間にある。当然のように隈本城へ入城した義武は為朝に味方につくように言ってきた。
「奴から味方……というより菊池の旗下に入れと言ってきたな」
「お、ご返答は?」
 親秀の言葉に為朝はニヤリと笑って口を開く。
「首を洗って待っていろ、と言ってやった」
 為朝の言葉に親秀と鎮昌はゲラゲラと笑い転げる。それでこそ為朝と言った笑い方だ。
 為朝は誰の下にもつく気はない。たとえそれが名目上でも嫌であった。
「それに俺は菊池の奴が好かん。大内と大友の講和でさっさと尻尾を巻いて肥後から逃げ出したのが気に食わん。それまで支持してくれていた国衆も放り出して逃げたのだろう?」
「まぁ、うちの家がその放り出された国衆ですからね」
 為朝の言葉に守昌が苦笑いで続ける。鎮昌、守昌兄弟の祖父に当たる人物が最初の義武の挙兵を支持し、従っていたが、義武が逃げたことでどうしようもなくなり、当時、大友と繋がっていた阿蘇大宮司に仕えることで危機を回避したのだ。
 笑い転げていた鎮昌が笑い泣きしていた涙をぬぐいながら口を開く。
「なんでも親父殿のところに義武の奴から書状が来たそうです。『内応すれば領地を与える』と言った感じでしたね」
「ほう、そうなのか」
 初耳と言った感じの為朝の反応に三人のほうが驚く。
 慌てた様子で守昌が口を開いた。
「父上は宗運殿に書状は渡した、と言っていましたが」
 その言葉に為朝は腕組をして考え込む。
「……そういえば宗運の奴がそんなことを言っていたような……だが、俺はそういう謀略は全くわからんから全部、宗運に任せている」
「それでこそ為朝様ですよ!! 細かい事は宗運殿に任せておけばよろしい!! 俺達は戦場で暴れるだけです!!」
「お!! 親秀いい事を言うじゃないか!! そうよ!! 為朝様は戦場の勇士であるのだから謀略などは宗運殿に任せておけばよろしい!!」
 為朝の言葉に親秀と鎮昌は大笑いしながら続ける。為朝はそんな二人と一緒に笑いながら水を飲む。
「そうなると宗運殿が何か謀を?」
「おそらくな。まぁ、宗運のやることだ。無益なことはないだろうさ」
 守昌の言葉に為朝は答える。宗運もまだ三十代と若いが、すでに為朝家中では大きな信頼を得ていた。
「ですが、菊池の奴、南肥後の相良を味方につけたそうですよ。まだ相良の軍勢は隈本城に入城していませんが、入城されると厄介では?」
「だが、宗運の奴に勝手に突っ走るなと言われている。なんでも俺に何かあった場合大変なことになるから、だそううだ」
「まぁ、今の阿蘇大宮司は為朝様のお力で結束していますからなぁ」
 親秀の言葉に為朝は軽く肩を落とす。確かに今の為朝家は為朝一人の力で成り立っていた。そのために為朝の身を案じる宗運の心配もわかる。為朝を危険にさらし、さらに為朝個人の武勇に頼り切る大友との戦は宗運にとってはかなり不本意だったのだ。
 すると今度は鎮昌が身を乗り出してくる。
「忍の報告では隈本城は今兵士が少ないとのこと。これは俺達だけでもやれるのでは?」
 鎮昌の言葉に親秀と守昌も期待した表情で為朝をみてくる。それに対して為朝は軽く肩を竦める。
「俺と鎮西二十烈士で隈本城を落としたとする。すると何が起こると思う?」
 為朝の問いに三人は考えるように顔を見合わせる。
 すると相撲の行司をしていた親常が笑いながらやってきた。
「隈本城を落とした後に殿と俺達は上兄者に死ぬほど怒られる」
 その言葉に為朝は肩を落とし、三人も嫌そうな表情になる。
 戦場や死ぬことを恐れない為朝や鎮西二十烈士が恐れること。それが宗運の説教であった。
 親常も竹筒から水を飲んでどかりと座り込むと、為朝に話しかける。
「ですが殿。何か理屈をつければ上兄者のお説教もなくなる……ことはまぁ、ないか。だけど少なくすることは可能では?」
「ふむ、理屈……」
 親常の言葉に為朝は少し考え込むが、すぐに思いついたのか勢いよく立ち上がった。それをみて親常は鎮西二十烈士に集合をかける。
 集まった鎮西二十烈士を見渡して為朝は口を開く。
「これから俺とお前達で隈本城を落とす」
 その言葉に鎮西二十烈士からは鬨の声がでる。
 それが治まってから為朝は説明を続ける。
「だが、普通に攻めて落としては後から宗運の説教を受けるのは確実。そこで一計をはかる」
「その一計とは?」
 親常の言葉に為朝はニヤリと笑った。
「これから俺達は帰り道に迷ってしまって隈本城へ行ってしまうんだ。いいな? 『道に迷って』『たまたま隈本城へ行ってしまった』んだ」


「殿、あれが隈本城です」
 親常の言葉に為朝は頷く。為朝の視界にも為朝の居城より大きな城構えとなっている隈本城が見えてきている。
 為朝と鎮西二十烈士は武装もしておらず、腰に刀を差しているだけだ。そのために親常も為朝に尋ねる。
「殿、どうやって攻めます?」
 親常の言葉に為朝はニヤリと笑って馬を歩かせる。為朝に絶対の信頼を置いている鎮西二十烈士の面々も特に疑問を持つことなく為朝に続く。
 そして城門のところまで来ると、城門を守っている足軽が訝し気な表情になって為朝に槍を向けようとする。
「何も「守備ご苦労!!」え!? は!! はい!!」
 足軽の誰何に被せるように為朝が笑顔で告げると、足軽も慌てた様子で返事をしてくる。それを見ながら為朝は言葉を続ける。
「どうだ? 何か動きはあったか?」
「い、いえ!! 平穏そのものです!!」
 足軽の返答に為朝は笑顔で頷く。
「連中は何をするかわからん。しっかり見張っていてくれよ」
「はは!!」
 そう足軽を労うと為朝は城門を通って中に入る。為朝達が通った城門では守っている足軽二人が「どなただ?」「わからん。相良家の方かもしれん」という会話をしている。
 そんな会話を聞きながら鎮西二十烈士の面々は笑いを堪えるのに必死だ。為朝は堂々とした姿で馬から降りて、近くにいた侍に尋ねる。
「すまんが、菊池殿はどこにおられる?」
「は? あ、はい。中央の御殿におられます」
「そうか。いつ奴らも攻めてくるかわからんからな。準備はしっかりとしておいてくれ」
「はは」
 あまりに為朝の堂々とした物言いに、侍もまさか為朝軍だと思わずに頭を下げてくる。その侍に為朝は軽く片手をあげて制すると、為朝は中央の御殿に向かう。
 そして御殿の大広間が見えてくると侍大将達が軍議を行っている。それをみて親常が為朝の耳元で囁く。
「中央にいるのが菊池義武です」
 親常の言葉に為朝は無言で頷く。そしてそのままのしのしと大広間に向かっていく。
「ご報告がございます!!」
 そして為朝がそう大声をあげると全員の視線が為朝に向かってくる。その視線を受けながら為朝は大広間に入る。為朝が一人で大広間に乗り込み、鎮西二十烈士は庭で待機する。
 大広間の中央までやってきた為朝に向かって菊池義武が尋ねてくる。
「何かあったか?」
 その言葉に為朝はニヤリと笑う。
「鎮西八郎為朝が奇襲に参った」
「な!?」
 驚愕した表情を浮かべた菊池義武の首を為朝は一振りで跳ね飛ばす。驚愕した表情のまま菊池義武の首が大広間に転がり、為朝が菊池義武を斬った瞬間に鎮西二十烈士の面々も刀を抜いて大広間に雪崩れ込んでくる。
 菊池義武の下に集まっていた国衆も突然の出来事に反応できない。そしてすでに鎮西二十烈士が刀を抜いて囲んでいるために異変を感じて集まってきた武士や足軽達も手出しできない。
 為朝は床几に座ったままだった菊池義武の身体を蹴り倒すと、その床几にどかりと座って、菊池義武の下に集まっていた国衆に向かって言い放つ。
「鎮西八郎為朝である。菊池義武は俺が討ち、隈本城も落とした。本来であればお前達の首も落とすところであるが、ここは見逃してやる。居城に帰って戦の準備をするも良し、改めて俺に降伏するも良し。好きなほうを選ぶがいい」
「だ!! 誰が貴様の命を!!」
 為朝の言葉に激高して立ち上がった国衆は最後まで言い切ることができず、刀を抜いて控えていた鎮西二十烈士の一人に首を刎ねられた。
 それをみて国衆に緊張が走る。
 その緊張をみながら為朝はニヤリと笑う。
「少なくともここで歯向かうのはすすめん。俺達に殺されるだけだ。さっさと去るがいい」
 為朝の言葉に一人の国衆が逃げるように大広間から去ると、それをきっかけに集まっていた全ての国衆が逃げるように隈本城から出ていく。
 それを眺めながら為朝は親常に声をかける。
「宗運に伝令をだせ。『道に迷って隈本城を落とした。兵を送ってくれ』とな」
「承知」
「いいか? 『道に迷って』を強調しておけよ」
「わかっております」
 為朝の言葉に親常は笑いながら頷くのであった。
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