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第二話
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高順は自分の幕舎へと戻って黒い鎧を纏うと、丁原が待つ本営へと向かう。大刀は自分の幕舎に残しておき、持っている武器は腰に下げている剣だけだ。
別に高順はそれを不安には覚えない。ここは中華に名高き并州軍の本営である上に、密偵や暗殺者などだったら剣だけで十人は即座に斬り捨てる技量は持っている。
本隊の兵士達から拱手されるのに返しながら高順が歩いていると、深紅の鎧を身に纏い、高順と同じく腰から剣だけぶら下げた呂布が笑いながら歩いてきた。
「よう、兄弟」
「速いな呂布殿、いつもならもっと遅いだろう」
高順が顔を顰めながら尋ねると、呂布は愉快そうに笑った。
「実は酒が切れてな。さっさとこの戦を終わらせて晋陽に帰りたいのだ」
呂布の言葉に高順は呆れる。
「呂布殿。軍規では臨戦態勢に入ったら飲酒は禁じられているはずだが?」
「馬鹿を言うな兄弟。俺から酒を取り上げてみろ? 前後不覚に陥って味方の陣地に突撃しかねんぞ」
「それだと丁原殿から私が迎撃を任されそうだ」
高順の言葉に呂布は心底面白そうに笑う。
「俺と兄弟の対決か。心踊るものがあるが、兄弟と殺しあいたくはないな」
「同感だな」
幼い頃から一緒だった二人には確かな絆がある。友情と呼ぶのか、それとも兄弟の絆かはわからないが、同一意見としてお互いに戦ってみたいが殺しあいたくはないと言う認識であった。
そこから二人で話をしながら丁原の待つ本営へ到着する。高順と呂布が中に入ると、すでに青い鎧を身にまとった張遼、并州軍歩兵隊の証である深緑の鎧を身に纏った趙庶と李鄒、そして并州軍歩兵隊隊長である秦宜禄がすでに座っていた。それに向かいあう形で一番入口に近い所に張遼が座っている。呂布は并州軍騎馬隊隊長として秦宜禄に向かい会う形で着席し、高順は呂布と張遼の間に座る。
并州軍は大きく分けて二つになる。呂布を頂点とした高順、張遼の并州騎馬隊。秦宜禄を頂点とした趙庶と李鄒の并州軍歩兵隊である。匈奴や鮮卑と長く戦い続けた并州軍には戦争の流れが出来上がっていた。絶対に引くことのない歩兵隊によって匈奴や鮮卑の足を止め、そこを騎馬隊が蹂躙するのだ。単純ではあるがこの戦法によって并州の平和を脅かしている異民族達の侵攻を食い止めているのだ。
強力な騎馬隊を受け止める役割を持つために并州軍歩兵隊にはかなりの心胆が必要となる。趙庶と李鄒はその任に耐えてきた自負があるためにその表情に怯えはない。ただ隊長の秦宜禄は憂鬱そうに顔を顰めている。そんな秦宜禄に呂布が明るく声をかけた。
「おう、どうした秦宜禄。相変わらずの顰めっ面じゃないか」
「呑気ですな呂布殿。この一戦に并州の平和がかかっていると言うのに」
「そんなことはいつものことだろう。お前達が防いで、俺達が敵の首を叩き落とす。それで戦は終いだ」
呂布の言葉に趙庶と李鄒からは笑いが溢れ、秦宜禄からは呆れたようなため息が出た。
「今回、壇石槐の倅が連れて来たのは三万を超える。それに対して我々は騎馬隊が二千二百程度で歩兵が五千。数の上では勝負にならないぞ」
「壇石槐の突撃に耐え抜いた秦宜禄らしくない言葉だな」
「似たようなことをやりたくないから言っている」
秦宜禄の言葉に全員から笑いが出る。悲観的な秦宜禄だが、歩兵の扱いにかけては并州軍の中で随一だ。あの壇石槐の猛攻からも崩れずに防ぎ抜いた実績もある。ただ、元の気性からして悲観的なだけなのだ。だが、戦場に出れば并州軍の要である歩兵隊の指揮をとって匈奴や鮮卑の突撃から一歩も引かない指揮を見せるのだ。
山のように動かない秦宜禄率いる歩兵軍と、疾風のように戦場を駆け抜ける呂布率いる騎馬軍が并州の武であった。
「全員揃っているようだな」
そこに入ってきたのは初老の男。并州刺史、名前を丁原。字を建陽その人であった。
丁原が入ってきたことで全員が立ち上がって拱手をとる。丁原もそれに返してから自分の席に着く。
「皆も知っての通り壇石槐の倅が大軍を率いて并州に襲来してきた。これを撃退するのが我々の今回の仕事になる」
「少しよろしいでしょうか」
丁原の言葉に秦宜禄が発言を求める。愚直で命令を遂行することしかできない并州の武人達の中で、悲観的な秦宜禄が情報を求めるのは毎回のことだ。
「今回、和連が率いている総数はどの程度でしょうか? そして中央では黄色の布を巻いた賊が跳梁跋扈していると伺っていますが、并州は大丈夫なのでしょうか?」
秦宜禄の言葉に丁原は髭を撫でながら口を開く。
「和連の軍勢は三万五千程度。賊は主に并州の隣の冀州に多いようだ」
「并州では確認されていないのですか?」
趙庶の言葉に口を開いたのは呂布であった。
「おいおい趙庶。并州の民に叛乱できる余裕なんかあると思うのか? 枯れた土地に災害のようにやってくる匈奴に鮮卑。どこに俺達に叛乱する余裕がある」
呂布の言葉に丁原は苦笑する。
「呂布の言葉に間違いはない。悲しいことであるがな。陛下からも特に賊に対する命令は出ていない。それならば異民族達を撃退するのが我々の仕事であろう」
丁原の言葉に秦宜禄は一度拱手して下がる。丁原もそれに一度返すと、軍勢の配置の説明に入る。
「中央に秦宜禄の二千人。右翼に趙庶の千五百人。左翼に李鄒の千五百人。後方には私の直率の四千が入る。呂布の赤騎兵千人、高順の黒騎兵七百人は遊撃として隙をみせた将から首を落とせ」
丁原の言葉に秦宜禄、趙庶、李鄒、呂布、高順がそれぞれ返答を返す。
「丁原殿。自分はどうすればよろしいでしょうか?」
「張遼率いる青騎兵五百人は予備兵力として私の指揮下に入ってもらう。場合によっては敵陣に突撃させることもあり得るが、異論はないか?」
「むしろ本懐です」
丁原の命令に張遼は嬉しそうに答える。その言葉に呂布が大きく笑い声を挙げた。
「おう。威勢がいいことは結構だが、初めての部隊指揮の実戦で糞を漏らすなよ」
「なれば先に済ませてから戦場に向かうとします」
張遼の言葉に并州軍本営からは大きな笑い声が出たのであった。
別に高順はそれを不安には覚えない。ここは中華に名高き并州軍の本営である上に、密偵や暗殺者などだったら剣だけで十人は即座に斬り捨てる技量は持っている。
本隊の兵士達から拱手されるのに返しながら高順が歩いていると、深紅の鎧を身に纏い、高順と同じく腰から剣だけぶら下げた呂布が笑いながら歩いてきた。
「よう、兄弟」
「速いな呂布殿、いつもならもっと遅いだろう」
高順が顔を顰めながら尋ねると、呂布は愉快そうに笑った。
「実は酒が切れてな。さっさとこの戦を終わらせて晋陽に帰りたいのだ」
呂布の言葉に高順は呆れる。
「呂布殿。軍規では臨戦態勢に入ったら飲酒は禁じられているはずだが?」
「馬鹿を言うな兄弟。俺から酒を取り上げてみろ? 前後不覚に陥って味方の陣地に突撃しかねんぞ」
「それだと丁原殿から私が迎撃を任されそうだ」
高順の言葉に呂布は心底面白そうに笑う。
「俺と兄弟の対決か。心踊るものがあるが、兄弟と殺しあいたくはないな」
「同感だな」
幼い頃から一緒だった二人には確かな絆がある。友情と呼ぶのか、それとも兄弟の絆かはわからないが、同一意見としてお互いに戦ってみたいが殺しあいたくはないと言う認識であった。
そこから二人で話をしながら丁原の待つ本営へ到着する。高順と呂布が中に入ると、すでに青い鎧を身にまとった張遼、并州軍歩兵隊の証である深緑の鎧を身に纏った趙庶と李鄒、そして并州軍歩兵隊隊長である秦宜禄がすでに座っていた。それに向かいあう形で一番入口に近い所に張遼が座っている。呂布は并州軍騎馬隊隊長として秦宜禄に向かい会う形で着席し、高順は呂布と張遼の間に座る。
并州軍は大きく分けて二つになる。呂布を頂点とした高順、張遼の并州騎馬隊。秦宜禄を頂点とした趙庶と李鄒の并州軍歩兵隊である。匈奴や鮮卑と長く戦い続けた并州軍には戦争の流れが出来上がっていた。絶対に引くことのない歩兵隊によって匈奴や鮮卑の足を止め、そこを騎馬隊が蹂躙するのだ。単純ではあるがこの戦法によって并州の平和を脅かしている異民族達の侵攻を食い止めているのだ。
強力な騎馬隊を受け止める役割を持つために并州軍歩兵隊にはかなりの心胆が必要となる。趙庶と李鄒はその任に耐えてきた自負があるためにその表情に怯えはない。ただ隊長の秦宜禄は憂鬱そうに顔を顰めている。そんな秦宜禄に呂布が明るく声をかけた。
「おう、どうした秦宜禄。相変わらずの顰めっ面じゃないか」
「呑気ですな呂布殿。この一戦に并州の平和がかかっていると言うのに」
「そんなことはいつものことだろう。お前達が防いで、俺達が敵の首を叩き落とす。それで戦は終いだ」
呂布の言葉に趙庶と李鄒からは笑いが溢れ、秦宜禄からは呆れたようなため息が出た。
「今回、壇石槐の倅が連れて来たのは三万を超える。それに対して我々は騎馬隊が二千二百程度で歩兵が五千。数の上では勝負にならないぞ」
「壇石槐の突撃に耐え抜いた秦宜禄らしくない言葉だな」
「似たようなことをやりたくないから言っている」
秦宜禄の言葉に全員から笑いが出る。悲観的な秦宜禄だが、歩兵の扱いにかけては并州軍の中で随一だ。あの壇石槐の猛攻からも崩れずに防ぎ抜いた実績もある。ただ、元の気性からして悲観的なだけなのだ。だが、戦場に出れば并州軍の要である歩兵隊の指揮をとって匈奴や鮮卑の突撃から一歩も引かない指揮を見せるのだ。
山のように動かない秦宜禄率いる歩兵軍と、疾風のように戦場を駆け抜ける呂布率いる騎馬軍が并州の武であった。
「全員揃っているようだな」
そこに入ってきたのは初老の男。并州刺史、名前を丁原。字を建陽その人であった。
丁原が入ってきたことで全員が立ち上がって拱手をとる。丁原もそれに返してから自分の席に着く。
「皆も知っての通り壇石槐の倅が大軍を率いて并州に襲来してきた。これを撃退するのが我々の今回の仕事になる」
「少しよろしいでしょうか」
丁原の言葉に秦宜禄が発言を求める。愚直で命令を遂行することしかできない并州の武人達の中で、悲観的な秦宜禄が情報を求めるのは毎回のことだ。
「今回、和連が率いている総数はどの程度でしょうか? そして中央では黄色の布を巻いた賊が跳梁跋扈していると伺っていますが、并州は大丈夫なのでしょうか?」
秦宜禄の言葉に丁原は髭を撫でながら口を開く。
「和連の軍勢は三万五千程度。賊は主に并州の隣の冀州に多いようだ」
「并州では確認されていないのですか?」
趙庶の言葉に口を開いたのは呂布であった。
「おいおい趙庶。并州の民に叛乱できる余裕なんかあると思うのか? 枯れた土地に災害のようにやってくる匈奴に鮮卑。どこに俺達に叛乱する余裕がある」
呂布の言葉に丁原は苦笑する。
「呂布の言葉に間違いはない。悲しいことであるがな。陛下からも特に賊に対する命令は出ていない。それならば異民族達を撃退するのが我々の仕事であろう」
丁原の言葉に秦宜禄は一度拱手して下がる。丁原もそれに一度返すと、軍勢の配置の説明に入る。
「中央に秦宜禄の二千人。右翼に趙庶の千五百人。左翼に李鄒の千五百人。後方には私の直率の四千が入る。呂布の赤騎兵千人、高順の黒騎兵七百人は遊撃として隙をみせた将から首を落とせ」
丁原の言葉に秦宜禄、趙庶、李鄒、呂布、高順がそれぞれ返答を返す。
「丁原殿。自分はどうすればよろしいでしょうか?」
「張遼率いる青騎兵五百人は予備兵力として私の指揮下に入ってもらう。場合によっては敵陣に突撃させることもあり得るが、異論はないか?」
「むしろ本懐です」
丁原の命令に張遼は嬉しそうに答える。その言葉に呂布が大きく笑い声を挙げた。
「おう。威勢がいいことは結構だが、初めての部隊指揮の実戦で糞を漏らすなよ」
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