ねねこグラフィカル(泡沫太陽のこけおどし)

アポロ

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一章・化け猫ねねこの聖痕

化け猫パラレル、同意しなきゃどどんぱるん

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 なぜ突然化け猫ねねこがやって来たのだろう。
 ぼくは化け狸のほっこりミステリーを書きたいはずなのに。

 倉庫の夜勤明け、アルファポリスという投稿サイトのライト文芸大賞に応募する原稿を作成するつもりだった。仕事の行き帰りは、会社のバスがアパートの近所まで運んでくれる。
 発着地点から帰路途中に唯一ある商店ファミリーマートで、普通然とした彼女に遭遇してしまった。いや、待ち伏せされていたのであるからして、強制接触されたと言っておく。

「太陽君、お久しぶりです。無視すると、どどんぱしますよ」

「人を指さすんじゃないよ。君は鶴仙人つるせんにんの弟子だったか。そんなんできたっけ」

「できるんですよ」

「写ルンですみたいに言うとお里の設定がバレるね。何だ、パラレルワールドから来たってか? たしかそっちの時代は平成初期の頃だったよな。ちょっと思い出してきた」

 彼女が架空の美少女キャラクターだということはすぐ分かった。
 猫耳がついてるし。
 朧な記憶では、シンプルなセミロングの猫娘だった。そのはずなのに、黒に緑色のメッシュが入っているだとか肩にかからないほど短くなっているだとか、設定した当時のビジュアルイメージと相違がある。これは、時間が経過したぶんキャラが自分勝手に流行やリアリティを学習し、成長したということなのだろうか。
 しかし、何せ基本の雰囲気は変わらない。過去に自分がよく考えていた子、らしかった。曖昧な下書きで長年放置してきた、お蔵入りライトノベルのヒロインだ。

「太陽君がろくな話を書いていないようなので、文句を言いに来ました。驚きます。君、前はもっとやる気があったのに、と。何ですかその体たらくは、と。苦情の受け付けはだるいでしょうけれど、受け入れていただかなければならない事情もございまして。よろしければ意見交換の機会を今この場で前向きにご検討願いますと言うか同意しなきゃどどんぱるんで」

 やる気は……いつも満タン。現状はそれを燃焼させず、生なり小出し小出し漏れるまま漏れさせているに過ぎないので、ねねこちゃんの指摘は少々的外れであるのだよ。眠い目を擦りつつそう言い訳しても良かったのだけれど堂々と半端者めかすようでメリットがなさそう、ゆえに割愛。
 無駄話は嫌いじゃなく、どちらかと言えば好きなのだけれどね。

「幻覚を見るなんて久々だ。朝から人型の化け猫を見たり脅迫されたりするのははじめてだ。ぼく、やっぱりここのところ働きすぎて疲れてるのだろうなあ。でも、あれ、君の衣装はメイド服じゃなかったか? 何だその普通にかわいい学生服。あ、普通よりスカートが短すぎるから普通ではないか、うむうむ、眼福眼福ふぉれすとがんぷ」

「話をはぐらかすつもりなら本当にどどんぱ出します。わたしのどどんぱは、スーパー天津飯のやつより数倍強力です。分かってますよね、太陽君なら。太陽君がそう書いて、わたしの特徴をプログラムしたんですもの。下手な字でね、下手したら世界滅ぶ、そうしっかり書いてました」

「それは困る。この辺りはぼくの遊び場だし」

「では話し合いましょう。こんなふざけたお互いの世界を助け合うために」

「その前にファミチキ食べていい?」

「ええ、わたしの分も買ってくださるならば」

 まったくなんて日だ。
 振り返ればねねこはサイヤ人並の大食い設定だった。ぼくはファミペイに三万円もチャージしなければならなかった。いや、こんなに買えるほど大量のチキンを都合よく揚げていたアルバイトの女の子も一体何者なんだろう。商品提供までのおそるべき迅速さもまるで魔法だ、いきなり化け猫が登場した非日常よりも、むしろそんな日常的異常に度肝を抜かれそうだった。
 朝晩よく思う。日本のコンビニで仕事の出来る人たちは本当に優秀な魔法使いみたいだ。ベテランになればなるほど、何でもやってのける人材にアップデートされるのではないか。しかしこの店員さんかわいいな。

 ねねこには、給料前にわざわざ来るなよと心から思う。その心情をねちねち言えば、早く帰りたいと思ってもらえるだろうか。直感的に、長居させるとややこしい問題をほじくり出されそうな気がする。

 ともかく、かような次第でぼく・売れないウェブ作家の泡沫太陽うたかたたいようは、かつてやむなくお蔵入りさせた架空のキャラクター・化け猫ねねこのために、やむなく大量のファミチキを買い占めさせられ、にゃんと背中に核ミサイル的後ろ指ならぬ人差し指を突きつけられながら、しょぼしょぼ帰宅したわけである。

 ともかくファンタジーはこの自宅近辺から突如はじまった。
 ともかくぼんやりしていたら、新年度もとっくにはじまっていた。
 四月に残る桜、そして初夏の風、季節の移り目は重なり合う。

 道々が、自分で操縦できないポンコツロボット運転手に間違えた行先ばかり入力した結果みたいだ。
 打ち込み間違えた結果を修整しようとすればするほど、ポンコツロボット運転手は嬉々として新たな誤解を生むルートへ向かわせるのだ。
 バスはまるで狙ったように渋滞や事故に巻き込まれやすい方へ走り出し、傍目の人たちの迷惑なぞおかまいなく回避しようともしない。呆れて修整を諦めるとすると、それもまたシステムトラップであって向こう側の思うつぼだ。

 この先はせめて、精々この手で、個人につながる情報をうまくぼかしてゆきたい。
 あわよくば勝手なキャラクターからストーリーの主導権を奪還し、納得のいくハッピーなエンディングを目指す。
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