ねねこグラフィカル(泡沫太陽のこけおどし)

アポロ

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一章・化け猫ねねこの聖痕

ブラックコーヒートーク・イン・オルタナティブ

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「なるほど、とは言えません。が、ようするに退屈なんでしょう。太陽君は多忙に退屈で、不滅と言うほど素敵に無敵すぎるのでしょう。だから私を引き寄せたのだと思います。明確な仕組みは認知しませんが、想像と感応はできるんです。そしてそれが大きく的を外れていない感知も。作家なんて生き物は、古今東西皆この世で最も奇妙な思念をこじらせている大変な人種だと思いますが、君はそういう人たちの中でも群を抜いてしまっていますし。多分、抜群に異様な期待を自分自身に向けすぎてて、他者を思いやる精神に欠けすぎているのです。でね、太陽君、気になるのは、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかという謎。はっきり言いますが、君は以前の君と明らかに異なる匂いがします。君は、過去の君と比べると、臭すぎ。実態はともかく言葉の上では、という意味においてですが。あの、だらだらとあやふやな創作活動を継続なさっていることはご自身もよく分かっているでしょうけれど、果たして一体全体この先どうしたいのか、そこがさっぱりわかりません。ただ何か書いていれば何か良い事が起こるのだろうと考えている訳でもなさそうだし。やればできる、そういう話でもなさそうです。そもそも君はそういう気持ちがあればとっくに何かやっているはずの人です。さっさと本題を言え? 何が言いたいんだ? いえそれはね、実にこっちのセリフというものですよ。ぜひお聞きしたい。君は何を企んでいるのですか? それを開示していただけませんか? わたしの事情はわたしの命に関わる君の問題に直結します。何か秘めたる計画があるとして、それについてもしもわたしにお手伝いできることがあるのならば、何なりとおっしゃってください」

「目が怖すぎると思った」

「真面目に。わたしは真面目に聞いてるんです」

 企む、なんて言われるほどの大した戦略はない。ファミチキをいかにして大量販売するか考えている人たちのことなんかを思えば、泡沫太陽の計画は中学二年生レベルのお遊びにも及ばないと思う。すなわち、

「ふ、表現の中の表現、表現の外の表現、そっちの中二的な不思議のことはずっと愛している、とでも言っておこうか」

 がりがりがり。
 ねねこが壁を引っ掻いた。

「わあ! 何してるんだあ! 賃貸だってゆったじゃん!」

「はぐらかそうとするから。次はどどんぱします」

「ああ……これ転出するとき絶対に請求くるぞ」

「どどんぱる?」

「するな。話すよ。んー、まあねえ、そう、退屈だろうと指摘されれば確かにそう。忙しくて退屈。文章を読み書きする間はそんな意識なくなるんだけど。複雑に色々と考えすぎているって、そこは否めない。けれど別に死に至りそうなほど深刻に困っている訳じゃない。ただ、ちょっと複雑な物語は出来ればいいかげんそろそろ書き始めたいな、とはぼんやり思ってた、そしたらねねこ、お前が過去からやって来ちゃったの。かしら」

「にゃんですと?」

「だからおそらくだよ、おそらく。お前の言葉を聞きながらぼくも考えてみた。と言うか、お前ののたまった通り最近のぼくは気取りたがりなんだよ。メタフィクションをいくつか書いたことはあるけれど、もう一つ向こう、さらにその向こうの世界を想像するうちに、この自分の世界こそがパラレルワールド化してしまう気がしてて、しかしこの感じは自分だけが自覚しているものではなく現実の人類大半が昔から持つ不安定な集合無意識的ベクトルの一片であろう? ならば」

「ちょっと待ってください」

「何、話の腰を折るのか?」

「はい、謝罪します。わたしのミスです。説明的にさせすぎました」

「いや、その前に壁の爪跡に謝れ。そして大家さんにも謝れ」

「壁にも大家さんにも謝りません。それは太陽君のはぐらかしかけたという過失の結果ですから、太陽君の責任。わたしが謝るべきは、問答について。わたしは今、君を大きく損にゃいかけたかも」

「ふむ、説明させすぎてはいけない」

「ええ、まったくその通りでした」

「ふむふむ。ところでねねこ、お前には自我があるね。AIなんかではないし、ロボットでもない。やろうと思えば人間とイチャコラすることも可能だ」

「それはそうですが、君、官能小説は封印したはずでしょ」

「もちろん。聞いてみただけ」

「どうしてもと言うにゃらば、お相手して差し上げなくもありませんが。肉体には自信がありますし」

「今はいいや。そっちの方は最近まとめてしちゃったからな」

「あらダウト。そのセリフ、あなたの推し小説のパクリ」

「ブー、パロディだよう。オマージュが盗作なぞと言えるかって」

 にこにこ。

「コーヒーはおかわりなし。寝てください。今夜もしょうもないお勤めがあるでしょう。わたしはもう学校へ行きます」

「別にしょうもなくはない。退屈ではあるが……何? 学校だと?」

「明朝は定時で上がってください。また来ます」

「またって……ふ、ファミチキは金輪際買ってあげないぞ!」

「ええ、それでも。わたしたちには、やるべきことがある。ファミチキをバカ食いすることよりも、良い小説を書きちらかすことよりも、イチャコラを考えることよりも、大切なことが」

 ねねこはゴーストのように消えたりせず、ちゃんと玄関から出て行った。
 架空のキャラクターが学校へ行ってるんだって。LINE友だちにそう報せたとしても、また与太話だと思われるだろうな。

 部屋で独りになると睡魔が再来し、ぼくはそれを受け入れた。
 放り投げたスマホには、眠っている間、誰からの通知もなかった。
 
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