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二章・泡沫太陽の自我自滅からの熱狂ドミノ効果

自然消失・ねねこのあわ立つ見立て論

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 だははは! と笑い声を残して、泡沫のごとく、太陽君は消失しちゃいました。バスルームという空間からどうやってどこへ消えたのか、そこに何かトリックがあるのか、わたしは思考を巡らせてみました。トリックは、

「ないでしょう。叙述ファンタジーだったら何でもありだもん。ただこっそりドロン、消えた、それだけ」

 自爆。
 そうではないと思います。
 外部サイトの影響でバグが発生したのかもしれません。
 わたしは、太陽君に預けられたiPadで文章を書いていました。以下は、彼を消失しちまったと気付くまでの間に記述した情報まとめです。

 ご参考までに。



 ここは叙述式の夢物語的な「半現実半仮想の世界」である。あらゆる事象が明晰にも曖昧にも実在する。

 空間が不安定な状態であることは言うまでもなく、自然と不自然の境界が拡張されすぎていて、だから明白なメタ小説やメガSNSの仮想現実よりもたちが悪い。

 印象としては、テレビ画面の中のテレビ画面の中のテレビ画面、それが延々と奥まってゆく、現実現象と仮想現象の関係インフレーション、重奏的な連鎖、でもボケ構造なのだろう。
 構造がチェーンなのであればどこかでこれを断ち切れば良い、しかしどこを切れば現存する原点ワールドと周辺パラレルを保全しうるのかが皆目不明。

 切るという行為は、そのものたちの関係性を破壊する手段で、奥の手。
 あっち世界からこっち世界、もしその区別を区別され切ったら、わたしたちキャラクターのナチュラルがどう変異するかも、計り知れない。

 わたしの見立て論では、太陽君はそのようにして何者かに切断されかねない世界Aと世界Bの結合部分と過集中的に癒着する特殊因子。

 天才らしく細部の極小部を祀る。
 ストーリーを夢想する時、君はその物語世界を単なる架空とは見据えていない。真っ向真剣にそこがもう一つのトゥルーゾーンなのだと信じている。崇拝さえしている、とも言える。

 一個の物語世界が現実に某かの作用を及ぼす、その力点は大宗教の聖典や歴史的な超童話が精神の倉庫をアップグレードする理とコンペアして。

 俗世の事実として人々に受け入れられるイメージが記述物や記述者の精神肉体と相互影響し合う以上、それらを媒介とするあらゆる創作世界も相互影響し合う可能性が常にある。
 だから、太陽君は創作の翼を絵空事だなんて微塵も考えないし、そればかりか世間に陳腐矮小と評価されるようなグラフィティさえ、誰かの命が反映されている掛け替えのない現実一部だと見て、感じ取りたがる。

 大問題は、きっと太陽君の属する世界を太陽君自身が想念上でアンチメイン化してしまうほどの、異常な想像力。
 大袈裟にして巨大な想像力が現実の倉庫にオーバーフローしていると仮定すると、世のために企画できるコマンドは二つだけ。

①想像力の元を断ち切ること。
 つまり、太陽君の生命活動を停止させるなどすれば、太陽君の想像も無力化できる。

②太陽君が想像力を適切に表出すること。
 つまり、想像力は書くことで一時的にであれ外部に開放され消耗するので、書き続ける行為を単純にこれまでより増加すれば良い。

 推論を結ぶと、君が頑張って書かなければ、君を中心にますます異常な現象が起こるかもって訳です。
 なおわたしは自己の存在が太陽君の想像力に依存していると分かっているので、①は推奨しません。



 記述を読み直してみると、こんな無味乾燥的な文章は今後人工知能にぱぱっと書いてもらえれば良いと思えてしまいます。
 わたしには天から無粋な物を書く才能なんて与えられていないのですし。

 さて、ではここからの余白をわたしのフリースペースとします。
 主人が消えて途方に暮れる化け猫ねねこは、こう思いました。

「それ見たことか」

 わたしは、物語のロジックなんて不完全状態でも良いと断言します。
 完璧に有るや無いや思考してて世界の何が面白いのや。大衆に読ませるべき美味なる娯楽小説は、先程わたしが記述したようなかちかちしたテキストではないでしょう。ただ分かりやすく書かれていて謎に触れられる書物を読みたければ、素晴らしい絵や写真の載った図鑑なんかをおすすめします。

 太陽君は、お祖父様にプレゼントされた図鑑を眺めるのが好きな子どもさんでしたね。ただそこに書かれてある文章を読むと何だか切なくなる、と。世界を知ることは楽しい反面、謎が減っていくみたいだよ、と。

 その精神性が、原初の君を創作に導いたのではないかと思われます。
 小説は、君がどれほど読んでも理解できない世界。著者の謎が次々と浮かんできては、その先を読めなくなるほどドキドキさせる。

 木目田さんのような不思議すぎる怪人は、君の実力を逆に弱めます。太陽君は想像モンスターですが、謎めく人を解析出来ても解明はしきれません。
 書物を介さず人間と相対する時、きっと君は前に見得を切った通り、自分も平凡な人の子だと思い直し自信がしぼむのです。
 知らんけど。

 秘密結社ねるこむは、泡沫太陽の弱みにつけこみました。
 特異な才能を自分たちの都合のよい小道具として利用できたら大勢の人々に多大な影響を与えられると考えて、まだ無垢であった君にこう囁きました。

「おい、俺たちの物語を創る王様になってみろよ」

 ぞっとしますね。
 まじかよって。
 まともな神経の持ち主なら、こりゃ腐ったヤクザか邪教集団のだまし勧誘だって思う寓話です。

 でも、太陽君は信じた。
 そう囁いた者の魅力を。
 それを嘘とも思わせない魔力を。

 あ、お腹減った。コンビニ行きます。あ、学校もだ。
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